第249話 キセキ村の現状
「よし、急ごう」
「はい!」
僕は男性を背負い、森の中を走る。
視界に映る大きな山の麓にキセキ村があるはずだ。
僕達は森の中を駆けていく。
モモは森の中だと人一倍早い動きができ、僕よりも身軽だった。
僕は森の中を走るのに慣れている訳ではないが、強い足腰で無理やり移動し、進んでいた。
僕とモモは全力で走り、一時間程して村が見えてきた。
「ご主人様。待ってください!」
『ズザザザ!!』
僕は地面との摩擦を利用し、急停止する。
「どうしたの、モモ?」
「魔物の気配がします。雨のせいでにおいは分かりませんが、人に敵意を持った魔物が村の中または近くに潜んでいるかと思われます」
「分かった。モモはなるべく僕から離れないで。あと、このナイフを渡しておくよ。借り物だけど、武器を持っていないよりましのはずだ。モモは拳でも戦えるかもしれないけど、牽制にも使えるから、武器を持っておいた方がいい」
僕は借りたナイフをモモに手渡す。
「わ、分かりました」
モモは逆手持ちでナイフを握り、警戒しているのか耳を動かして音を拾っていた。
「よし。行こう」
「はい!」
僕とモモは意を決し、村に向って走る。
男性を背負いながら剣を使うのは難しいので、できれば男性を安全な場所に早く運び治療してもらいたい。
僕達はキセキ村の柵を飛び越え、敷地に入る。
「きゃあーー!」
「う、うわぁああ˝!!」
「ママーー、どこなの。ママーー、ママーー!」
村は未だに混乱の渦の中だった。
村人の声が響き、沈静化なんてしていない。
「ご主人様。人のにおいがこっちに多く集まっています。きっと避難所です」
「分かった。まずはこの男性を移動させよう」
僕達は助けを求める声を聞き入れる為、瀕死状態の男性を避難所らしき場所に運ぶ。
その途中に、数体のゴブリンに遭遇したがモモがすべて倒した。
あまりの蹴りの威力にゴブリンの首がもげ、ボールのように弾き飛ばされていた。
「冒険者らしい人は見当たらない。いったいどこにいるんだ……」
「ご主人様、あそこです!」
モモが指さす先に、ウルフィリアギルドの印である、牙と七つの武器が描かれていた。
「あそこがウルフィリアギルドの支部か」
僕達はギルドの入り口に向い、扉を叩く。
『ドンドン!』
「すみません。瀕死の男性がいるんです。開けてくれませんか!」
声は帰ってこない。
中に人がいるのはモモの鼻で分かっている。
無視する気なのか、それとももう、受け入れられないほど人が集まっているのか。
「すみません。開けてください! 今、治療すればまだ間に合うんです! 僕は他の人のもとにもいかないといけません。なので開けてください。開けてくれないのなら扉を蹴破ります!」
僕が脅迫まがいな発現をすると、建物内でガタガタと音がして、扉がギーっと音を立てながら開いた。
「瀕死の男性を早く中に……、ってあなたは……」
僕の目の前にいたのはローブ姿の女性だった。
サファイア色の瞳をした女性。僕はその女性に見覚えがあった。
「マリリさん……、ですよね」
『コクコク……』
マリリさんは泣きそうな顔をしており、頷いている。
僕は男性をマリリさんに預けた。
「マリリさん。無事だったんですね。国立記念公園で会って以来ですから一ヶ月ぶりくらいですか」
「こ、コルトさんは何でこんな所に……」
「僕、キセキ村の反対側にあるブレーブ村に住んでいるんです。森の中で男性が倒れているのを見つけてキセキ村の方が近かったので走ってきました。今はいったいどういう状況なんですか?」
「数日前から、魔物が現れ始めたんです。初めは数体だけだったので倒せていたんですけど、昨日大量の魔物がやってきたんです。主な魔物はゴブリンでした。ときおり、ウォーウルフに乗ったゴブリンもいたりして、村の人たちが襲われるようになって。いつの間にか、村に大量のゴブリンが侵入したんです」
「なるほど。マリリさん以外の冒険者はどこに行ったんですか?」
「ベテランさんは王都に召集されて、中堅と新人ばかりが残っていました。でも、ゴブリンが異様に強くて皆怪我を負ってしまい、戦闘不能の状態なんです。ギルドに増援をお願いしたんですけど、到着するのに時間が掛かっているらしくて」
「そうですか。概要は何となく分かりました。とりあえず、キセキ村の魔物を一掃します。マリリさんはその男性を治療してください。出来ますか?」
「は、はい。治癒魔法が使えるので大丈夫です。回復魔法よりも効果は薄いですけど、死にはしないと思います。でも、コルトさんは一般人ですよね。戦うって言っても、どうやって……」
「マリリさんと別れてから色々あって、僕も冒険者になったんですよ」
「は、はぁ……」
「マリリさんは気にせずウルフィリアギルドの支部で怪我人の回復をお願いします。僕は生きている村人を見つけてここに運びますから」
「わ、分かりました」
マリリさんは扉を閉める。
「まさか知り合いがいるなんて思わなかったな」
「ご主人様、魔物が人を襲っています。早く助けないと手遅れになるかと」
「そうだね。僕が魔物を倒すから、モモは怪我人の救助をお願い」
「はい!」
「それじゃあ、人と魔物の多い所に行く。どの方向か分かる?」
「魔物は森のある方向に多くいます」
「よし。行こう」
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