第246話 傷を負った親子

「皆、なにしているの?」


「あ、主~。さっき嫌なにおいがしたの。こっちの方から臭ってきたから何かいるのかな~と思って探してた」


 エナ達は鼻を鳴らし、辺りを見回していた。


「嫌な臭い……。って、危険なことはしちゃだめでしょ。他の皆もおかしいなと思ったら自分で解決しようとせず、僕に言って。分かった?」


「はーい」×子供達。


「ナロ君も子供達が危ない所に行ったら止めないと何が起こるか分からないよ」


「すみません。僕も興味本位で探してました……」


「今回は何も無かったから良かったけど、次からは気をつけて。それで、危険な臭いってどこからするの?」


「こっちの方角です。においはゴブリンに似てるかもしれません。でも、少し違うみたいです。詳しいことは分かりませんが、遠くから臭って来てます」


 ナロ君は北の方角を指さした。


「そうなんだ。今から原因を調べるか……。いや、この時間からは暗くなる。何の準備も無しに動くのは僕の方が危険だな。皆、屋敷の中にいったん入って。モモがお風呂から出てくるのを待ってから実家に帰ろう。ここにいるよりも安全だ」


 子供達は頷き、屋敷の中にいったん入る。


 数分してからモモがお風呂から出て来た。


 早急に服を着てもらい、実家に向う。


 皆を実家に無事に送り届けたあと、僕は何が起こっているのかさぐりに行くことにした。


「皆は実家で静かにしていて。僕はさっき教えてもらった方向に行ってみる。少し探して何もなかったら戻ってくるよ」


「コルト、スキルを持っていないのに大丈夫なのか?」


 爺ちゃんは僕を心配して聞いてきた。


「うん。問題ないよ。心配しないで」


「そうか……。コルトがそう言うならきっと大丈夫なんだろう。だが、無理はするなよ」


「分かってる。すぐに戻るから子供達をお願い」


「ああ、分かった」


 僕は『ポロトの剣』とカンデラを持って森に入っていく。


――何かしら魔物がいたら気配で気づけると思うんだけど……。あんまり感じないな。もっと奥か。カンデラを持っていたら敵に気づかれる。でも、もっていないと僕の方が何も見えなくて攻撃を受けてしまいそうだ。


 僕は屋敷の裏庭に到着しナロ君に教えてもらった北側の方向を見る。


 チカチカと何かが光っていた。



――カンデラを使ったら光で敵に気づかれる。でも、今の時間帯なら使わなくても済むぞ。何かが光ったのならその場に何かいるはずだ。


 夕暮れ時の為、カンデラを使わなくてもいい時間は限り少ない。


 僕は光源のもとに走る。


 もし、敵や魔物ならば少しでも早く駆除しておきたい。


 そうすれば被害を拡大させずに沈静化させられる。


☆☆☆☆


 10分後、僕は光源のもとにたどり着いた。


 そこにいたのは怪我をしている親子だった。


 首輪のペンダントが夕焼けの光に当てられてチカチカと光っていたみたいだ。


「大丈夫ですか! 今、止血しますからね!」


「うぅ……。村が魔物に襲われて……」


「喋らないでください。体から大量に血が流れているので危険な状態です」


 母親は出血が多かったが意識はありまだ助かりそうだ。


 だが、子供の方は重傷を負っている。


 僕は母親が抱きかかえている子供の傷を見た。


 切り傷は小さいが変色している。


「毒か。この状態だともう、体に回っているな。村に行けば毒消しがあるけど、子供が持つかどうか……」


 僕は自分の服を裂き、包帯替わりにして母親の背中に着けられた大きな傷を止血する。


 子供の方は左腕に傷を負っていたので左肩辺りで強く縛る。


 少しでも毒の巡りを遅らせるためだ。


 僕は親子を担ぎ、村にある薬屋兼病院に向う。


 帰りの移動時間も約10分かかる。


 母親が『村が襲われた』と言っている状況から察するに、きっと山と森に挟まれた反対にある村の人だろう。


――傷を負った状態でこんな所まで来れるとは思えない。他にも同伴者がいたんだ。移動している最中に何かに襲われた。こう考えるのが普通か。


 僕は親子をブレーブ村に運び、薬屋に向う。


「おじさん! 怪我人!」


「うおっ、コルトか。こんな時間に珍しい」


 ブレーブ村にある唯一の薬屋。


 この場所で治療できないのなら近くの街に向うしかない。


 だが、そうすると母親の方は助かるかもしれないが子供の方は難しそうだ。


「この二人が森中で倒れていた。多分、反対の村に住んでた人たちだと思う」


「何かあったのか……。とりあえず見せてくれ」


 おじさんに言われ、僕はベッドに二人を乗せる。


「母親の方は命に別状はなさそうだ。子供の方は危険だな。毒が体に回り切る寸前だ。見たところ、致死性の毒ではないが全身に回ると命の危険があるな。ま、時間との勝負か」


 おじさんは解毒薬の入った小瓶を取り出し、注射器で液体を吸う。


 子供の血管に注射針を刺し、解毒薬を注入した。


 母親の方の傷はそれほど深くなく、少し縫い合わせるだけで治療が完了した。

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