第244話 屋敷の一番風呂

「今日が一番風呂か。少し前まで藻だらけだったのに、こんな綺麗になるなんて……」


 僕はどこかの旅館にでも来てしまったような雰囲気を味わっていた。


「あるじ~、あるじ~、早くはいろ!」


 エナは今にもお風呂に飛び込んでしまいそうな程はしゃいでいる。


「はいはい。まずはかけ湯をしようね」


 僕は木の桶を持ち、子供達の体にお湯をかけて行った。


 源泉の温度は水を足して調節できるらしく、通常の温度は46℃ほど。


 少し熱いので水を加え、お風呂のお湯はぬるくしてある。


 僕が湯船に先に入り、皆が滑らないよう手を取って子供達を入れていく。


「ふわぁ~。すごぃきもちぃぃ~。ポカポカする」


 エナは肩までお湯につかり、顔を蕩けさせていた。


「この場所で主様にギュってすると凄いドキドキしますぅ」


 マルはお風呂で座っている僕の横にきて右腕に抱き着いてきた。


「お姉ちゃんだけズルい……。ミルも主様にくっ付くの……」


 ミルは反対方向から僕の左腕にくっ付いてきた。


「こんなに広いんだからわざわざくっ付かなくてもいいんじゃない? 二人が溺れそうになったら僕が助けるから安心していいよ」


 僕はマルとミルを引き離そうとするも、離れなかった。


 まぁ、甘えん坊状態になっている訳ではないので大目に見る。


 ただ、僕の腕にくっ付く二人を見てエナは頬を膨らませていた。


 エナはお風呂の中で泳ぎ、僕の目の前にやって来て抱き着いてくる。


「エナも主にくっ付くぅ~」


 僕達はお湯の中にいる。


 それゆえただでさえ熱いのに、僕の周りに体温の高い子供達がいたらお湯以上に熱くなってしまう。


 僕は熱さに強いのでそこまで気にしなくてもいいが、子供達はのぼせやすい。


 その為、お風呂のお湯から早めに上がらせる必要があった。


 ハオは広いお風呂で遊び、パーズは水面に浮いて漂っている。


 ナロ君は普通にお風呂を楽しんでいた。


「よし、温まったから体を洗うよ。床が濡れていて滑りやすいからゆっくり移動してね」


「はーい」×子供達。


 僕が立ち上がると、体にくっ付いている三人も一緒に持ち上がった。


「ちょっと、三人ともそろそろ下りて。このままじゃ体を洗えないよ」


「マルから降りてよ~。最初にくっ付いたんだから~」


「何でそうなるのー。エナちゃんは主様にいつもくっ付いてるからもう十分でしょ、マルはいつも我慢してるから良いの。ミルは……」


「ミルはまだこうしていたい……」


「じゃあ、三人一斉に下りたらいいんじゃない。僕がいなくなるわけじゃないんだから、いつでもくっ付いてこれるよ。このままだと喧嘩しちゃうから、潔く皆で一斉に下りようね」


「は、はい……」×エナ、マル、ミル。


 三人は少しずつおりていき、床に足を同時に着けた。


 その間が長すぎて体が冷えてしまうかと思った。


 なぜ張り合うのか僕にはよく分からない。


 でも何か優位になろうとしているという状況は見て取れる。


 いったい何を競い合っているのだろうか。


 僕は子供たちの体を洗っていった。


 石鹸で満遍なく綺麗にしていく。


 今日はもうお風呂に入らなくてもいいと言うくらいに洗った。


「主の手で洗われるのきもちぃ~。体、ゾクゾクしちゃうのぉ~」


 エナは脇をぎゅっと締めてくすぐったいのを我慢していた。


「分かるぅー。主様の手で洗ってもらうの、マル、大好きなのぉー」


 マルは内股になり、下半身に力を入れいてる。


「主様に洗ってもらうと……、体、ビリビリする……。でも、いっぱい洗ってほしい……」


 ミルは脱力し、ふやけた顔をしていた。


 今、僕は子供達の髪を洗っているのだが頭皮がそんなに気持ちいのだろうか。


 耳が近くにあるから敏感なのかもしれないな。


 僕は子供たちの耳にお湯が入らなきよう配慮しながら髪の毛に着いた石鹸を落としていく。


 エナの大きな立った耳をヘたらせ、後ろからお湯をかける。


 そうすれば耳の中にお湯が入ることはない。


 マルとミルの耳は小さ目なので二回に分けて泡を流していく。


 片耳を手で塞ぎ、泡とお湯が入らないようしっかりと流していった。


「マル、あんまり動かないで。耳にお湯が入っちゃうよ」


「そ、そんなこと言われてもぉ、耳、擽ったいですぅ。体、ぞわぞわしちゃいますぅ」


 マルはじだんだをふんで、身を屈めようとする。


「すぐ終わるから、ちょっとだけ我慢して」


 僕はマルの髪に付いた石鹸をお湯で落とした。


「じゃあ、次はミルの番だね。僕に触られるのが嫌だったら自分で隠してもいいよ」


「大丈夫……、ミル、くすぐったいの好き……」


「変わってるね……」


 僕はミルの耳を塞ぎ、髪に付いた石鹸をお湯で洗い流していく。


「んっ……、耳、主様に触られてる……。くすぐったい……。でも、これ好き……」


 ミルは尻尾をくねらせるほど、耳を触られるのが好きらしい。


 マルの反応からして好き嫌いが分かれるみたいだが、耳が敏感なのには変わりがない。優しく触れないとな。


 僕は皆の髪を洗い終えた後、尻尾を洗っていく。


 マルとミルの尻尾はとても洗いやすい。


 だが、エナの尻尾は泡モコになり過ぎて逆に洗い辛い。


 尻尾がどこにあるのか一瞬分からなくなる。


「主に尻尾を洗われると……、背中、ビリビリするのぉ……。凄い気持ちよくて、漏らしちゃいそう……」


「お風呂場だから漏らしてもいいけど、癖になるからあんまりやらない方がいいよ。もう少しで終わるから、我慢しようね」


「うぅ……。むりぃ、早くトイレ行きたい……」


「分かった。すぐに行こう」


 僕はエナの尻尾についている泡をお湯で洗い流し、脱衣所に備え付けられているトイレに駆け込んだ。

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