第243話 幸せの輪
「他の奴隷がどんな仕打ちを受けているか、僕は知らない。でも、辛い目に合っているというのは分かる。でも、それが分かったところで僕達にはどうすることも出来ないんだ。僕達が出来るのは他の者よりも幸せに生きて幸せの輪を広げていくことくらい」
「幸せの輪?」
「幸せな人の周りは幸せになるって言う意味だよ。多くの人が幸せならそれだけ多くの人が幸せになる。逆もしかり、不幸な人の周りはどんどん不幸になっていく。そう言った流れがあるんだ。だから、僕達は幸せに生きているだけで周りを幸せに出来るんだよ」
「なるほど。私達が幸せに生きれば周りも幸せに出来る。それなら、いつの日か幸せな人だらけの村にしましょう。この村の人たちが皆幸せになれば、周りの村にも幸せが伝染するはずです」
モモの表情は少しだけ明るくなった。
「そうだね。僕達だけが幸せになっても意味がない。皆で幸せになるんだ。その為には僕達が幸せになる必要がある。幸せじゃないと、幸せのお裾分けは出来ない。皆を幸せにするには僕達が幸せにならないと」
「僕は今でも十分に幸せなんですけど。今、以上に幸せになれるんですかね?」
ナロ君は空を見上げて呟いた。
「大丈夫、幸せになる好機はまだまだあるよ。小さな幸せをしっかりと掬い上げて行けば、いつの間にか今以上に幸せになっているはずさ」
「確かにそうですね。小さな幸せなんて殆んど見えないですから、しっかりと掬い取らないと見落としそうです」
「まぁ、幸せを貯める器も必要だけど、皆の器は壊れている訳じゃないし、壊れていても僕が塞き止めるから、幸せはこぼれない」
僕はエナの頭を撫でる。
エナは口角をあげ、尻尾を揺らした。
「さぁ、掃除の続きをしよう。今日でお風呂場の掃除を終わらせれば屋敷のお風呂で汚れを落としていけるよ。あとは二階の掃除を終わらせれば屋敷の掃除はおしまいだ」
「掃除の終わりが段々近づいてきましたね。色々ありましたけど、ちゃんと進んでいるんですね」
「そうだよ。ここで暮らす日々がもうすぐそこまで来ているんだ」
「そう考えると、凄いですね。僕達がこんな大きな家に住めるなんて嘘みたいです」
ナロ君は屋敷の方を見て、未だに現状が信じられないみたいだ。
「嘘じゃないよ。ここで皆と暮らせるんだ」
その後、僕達は風呂場の掃除を再開し、午後5時ごろにお風呂場の掃除が終了した。
「うお~! お風呂が綺麗になったぁ! 凄い凄い! ピカピカしてる!」
エナはお風呂場をはしゃぎ回っていた。
確かに、はしゃぎたくなる気持ちもわかる。
大人が十人くらい入っても息苦しくないくらい広い湯船に銭湯かと思うほどのお風呂場、お湯の出るシャワーも壁際に付いており、取っ手をひねればお湯と水が出てくる。
シャワーから出てくるお湯は川の水や雨水を一度大きなタンクに溜め、魔石を使って温める湯沸かし器に通し、作っているみたいだ。
僕は以前討伐したトロントやタルピドゥの魔石を各箇所に設置されている魔石回路に入れて行ったところ、脱衣所の壁に設置されているスイッチを押せば、お風呂場の天井に埋め込まれている魔石に明かりがついた。
同じ要領で、湯沸かし器にも魔石を入れるとシャワーからお湯が出るようになったのだ。
トイレも水洗式でレバーを引けば勝手に流れてくれる。
どうやら屋敷の地下には下水管が通っているらしい。
「いや、いい所すぎるだろ! 貴族の暮らしかよ!」
「コルトさん、心の声が漏れてますよ。でも、確かに貴族の生活みたいで、僕達は早くメイド服か執事服に着替えたいです」
「ナロ君、メイド服でもいいの?」
「い、嫌ですよ」
「そうだよね」
「嫌ですけど、コルトさんが着てほしいと言うなら仕方なく着ます」
「え……?」
僕は今まで塞き止めていた源泉の元栓を緩め、木製の台からお湯が流れる状態にする。
お湯が溜まっていくと汚れが浮き上がり、最終的にお風呂から汚れがお湯と共に出ていき、排水路に流れていく。
源泉を流し始めてから三十分後。
「おぉ~。主、お風呂綺麗になった!」
エナは綺麗なお風呂に手を入れてばちゃばちゃとお湯を搔いている。
「そうだね。じゃあ、皆で入ろうか。モモとナロ君は恥ずかしくて入りたくないなら入らなくてもいいよ。水着があればよかったんだけど……、僕は女性用の水着を生憎持っていないんだよね。ごめん、モモ」
「いえ、気にしないでください」
モモは残念そうな顔をしており、お風呂場からとぼとぼと歩いて出て行った。脱衣所からも出ていき、時間を少し潰してもらう。
「今度、レイトに水着を注文しておくか……。でも、モモの大きさが分からないから、あとで聞かないとな」
僕は脱衣所で服を脱ぎ、全裸になる。
子供達の中で服を脱げる子は脱いでもらい、上手く脱げない子は僕が脱がせた。
長い布を腰に巻いて子供たちの服を各籠に入れておく。
さっきまで来ていた服と同じ服を着ることになるが、実家で着替えれば問題ないと思た。
「ナロ君、子供達が滑ると危ないからちゃんと手を繋いであげてね」
「は、はい。分かりました」
僕はエナとミルの手を持つ。
ミルのもう一方にはマルが手を繋いでいた。
ナロ君はハオとパーズの二人と手を繋いでいる。
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