第161話 ブラックトロントとの戦闘

「モモ、ブラックトロントの攻撃範囲はこの森全体だ。至る所に奴の根が張り巡らされているから気をつけて」


「は、はい!」


僕はモモの負担にならないように、ブラックトロントの攻撃を引き付けようと考え真正面からぶつかっていく。


『ガアアアアアアア!!』


ブラックトロントは地面から無数の黒い根を出現させ、束ねて僕より遥かに太く大きい根を作り出した。


それが5本ほど、うねうねと動き、速攻を仕掛けてくる。


「はああああ!」


僕は『ポロトの剣』を構えて攻撃の体勢に入る。


5本の太い根が直進して僕を襲う。


5本とも僕を刺し殺そうとする気満々で容赦なく突っ込んできた。


僕はその攻撃を回避して進んだ。


根を切ると断面から再生され、僕の攻撃している隙を狙われると思ったからだ。


――1秒で20メートル以上進むほどの速度で攻撃している根を5本同時に制御するのは、ブラックトロントでも難しいはず。きっと方向転換が難しい上に魔力も酷く消費するだろう。でも、奴がブラックトロントだと考えると魔力は尽きないかもしれない。


魔力は地脈を通って世界に存在している。


土地の魔力を吸って大きくなるトロントとは違い、ブラックトロントは自ら地脈まで値を伸ばし、大量の魔力を吸い続けられるため、魔力は簡単に枯渇しない。


普通のトロントが地脈に根をとどかせ、長い間魔力を吸い続けると黒く変色していき、ブラックトロントになるらしい。


それ故に強く、冒険者の討伐難易度はAランクとなっている。


新米冒険者ではまず太刀打ちできない。


そんな危険な魔物がこの森にいるなんて。


僕は5本の根を抜けた先で横一線の斬撃を放った。


『メテオスラッシュ』


発生した斬撃はあたりの木々を風圧で蠢かし、轟音を響かせる。


『ガアアアアアアア!!』


ブラックトロントは地面から太い根を生やし、何枚もの壁を作製した。


僕の放った斬撃は黒い木の根で作られた壁を容易く破っていく。


ブラックロトンとは危機を感じたのか、極太の木の根を自身の幹周りに巻き付けていく。


直径10メートルほどある半球状の盾を作り出し、斬撃と衝突。


斬撃は大きな音をずがずがと立てて進んでいくも、威力はしだいに小さくなっていく。


「衝撃を吸収したのか。さすがにあれだけの本数を切り進んだら威力が弱まる。もっと近づいて放たないと攻撃がとどかないぞ。でも、何本も黒い根を切ったんだ。再生するのに時間が掛かるはず。僕は何度も攻撃して着実に削っていこう」


僕は沼地に足を踏み入れないようギリギリの距離を保ちながら攻撃を打ち込んでいく。


『メテオスラッシュ! メテオスラッシュ!』


僕は縦横に剣を振るい、2つの斬撃を合わせて放った。


『ガアアアアアアア!!』


ブラックトロントは先ほどの威力の実質2倍の攻撃だと気づき、防御体勢ではなく回避する戦法をとった。


黒い根をタコ足のように使い、沼地から這い出ると高らかに上昇し、僕の攻撃を避ける。


――かわされたか。でも、逃げの行為は僕の攻撃に脅威を抱いている証拠だな。


「はああああ!」


ブラックトロントが空中で停止しているのを見てか、後方からモモが攻撃を仕掛けていた。


「モモ! 無理するな!」


「いえ、行けます!」


ブラックトロントはモモに気づき、太い根から分かれさせた細く鋭い根を物凄い速度で動かし、攻撃を繰り出す。


『メテオスラッシュ!』


僕はモモに襲い掛かる木の根を斬撃で切り裂いた。


そのお陰でモモは攻撃を受けず、ブラックトロントの懐に入り込み、引いていた拳を幹に叩きつける。


「はぁあああ!」


『ズガッン!』


面食らったブラックトロントは殴られた衝撃で空中にいられず、地面に叩き落とされる。


地面を抉るように滑り、何度も跳ねて回っていた。


その姿は丸太を運んでいる最中に、急な坂で落としてしまった時のようだった。


ブラックトロントは中盤から、太い根を地面に叩きつけるようにして止まり、すぐさま立ち上がってくる。


僕はその隙を見逃さず、一気にたたみかける。


「はぁああああ!!」


『スターライトスラッシュ』


5回の斬撃を星形にしてブラックトロントに放つ。


「ガアアアアアアア!」


ブラックロトンとはあたりの木を操り、何層のも壁にして自身が移動する時間を稼いでいた。


僕の放った5回の斬撃は木の壁を星形にくり抜きながら地面に衝突。


水と泥が舞い上がり、地面に大きな星型の跡が残っている。


だが、ブラックトロントの姿が見えなかった。


「また逃げられた……。木の魔物なのに素早いなんて」


僕がブラックトロントを探すのに夢中になっている時、天がいきなり暗くなった。


「なっ! ギガントタルピドゥ!」


僕は咄嗟に横に飛び、頭上から降ってくるギガントタルピドゥを回避する。


『ドッシャンン!』


ギガントタルピドゥが地面に落ち、津波のような水飛沫が舞い上がり、僕の体に掛かる。


「おらあああああああ!! 潰れろ!!」


「グラアアアアアアア!!」


よく見ると、グラスさんがギガントタルピドゥの腹に乗っており、拳を撃ち込んでいた。


ギガントタルピドゥは通常のタルピドゥと同様、腹の辺りが軟らかく弱点になっている。


グラスさんは天から落ちた時に地面から跳ね返ってきた衝撃と自身の拳の衝撃の間にギガントタルピドゥを挟み込み、内側から臓器を破壊する作戦のようだ。


でもこれは、グラスさんの一撃が、落下した際の地面から受ける力に等しくないと効果が上手く出ない。


それにも関わらず、ギガントタルピドゥは口から大量の黒い血を吐き出しているのを見ると、上手く決まっているらしい。


グラスさんは相当やり手だ。


素手であそこまで戦える人を僕は知らない。

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