第160話 ブラックトロントに挨拶
モモは木の枝から地面に飛び降りる。
すると黒い根が3~4本、地面から突き出してきた。
先端が尖っており、きっと突き刺さったら体を貫通するだろう。
モモは地面を走りながら木の根をかわしていく。
「よし、モモが引き付けている内に僕は本体を探そう」
モモの俊敏性があれば、逃げるだけならそう難しくないはずだ。
攻撃と逃げを合わせると格段に難しくなるが逃げるだけを意識すれば今のモモなら容易い。
「モモの負担にならないよう、すぐ見つけないと……」
僕はブラックトロントがどこにいるのか大方予想は付いていた。
「あの場所だけ不自然に地面が緩かったからな。あそこにいるはずだ」
僕が向かったのは冒険者さん達が埋まっていた沼地地帯。
ここだけ明らかに地面の質が違う。
僕は木の枝を伝って沼地に移動していた。
「さてと、まさかブラックトロントも地面に隠れてるとは……」
僕は木の枝から沼地の状態を確認する。
「まずは、挨拶がてら。杭を1本投げてみますか」
僕は木の枝を切り、先端をとがらせて緩い地面に向って投げ込む。
既にキャラバンの人たちは皆、救助したのでどれだけ激しくしてもかまわない。
「よっこいしょ!!」
『ズボボボボ……』
大きな泥しぶきを上げて、木の杭は地面に飲み込まれていく。
「さて……、いるなら姿を見せてくれ」
『ゴポ、ゴポ、ゴポ……』
地面から空気が上がってくる。
その度に泡が泥を押し上げ、耐えれなくなって弾けていた。
「地面から空気が出てくるのは、何かがいる証拠……。ガスかもしれないけど悪臭はしないから大丈夫なはずだ。もう一回挨拶しておくか」
僕は再度杭を作り、投げ込もうとする。
その時。もう挨拶は必要なかったのか、拒否してきた。
地面から多数の黒い根が出てきたのだ。
一直線に僕の方にやってくる。
僕に近づくにつれて、バラバラだった根が絡み合い、一本の巨大な根になって襲ってくる。
「切るか、回避するか、迷うな。ん~ここは回避だな」
僕は根が目の前に着た瞬間、枝を使って跳躍し沼の上に移動した。
僕に一直線だった根は地面に突き刺さり、一瞬硬直した。
「そこにいるなら出ておいでよ。隠れてないでさ!」
『スターコルトスラッシュ』
僕は『ポロトの剣』を5回振り、沼地を大きな星の形に抉る。
『ドバッシャン!!』
沼地の土と木が風圧によって波紋状に吹き飛び、大きな円形の沼地に星型の跡だけが残っている。
『ごぼごぼごぼごぼごぼ……』
星型の中心部である五角形が少しずつ盛り上がってきた。
「来た……。やっとお出ましかな」
僕は沼地と地面の境目に着地し、現れるのを待った。
「ご主人様。木の根が追って来なくなりました……って、な、何ですかこれ……」
モモが木の枝を伝って僕の元まで帰ってきた。
「あ、モモ。お疲れさま。モモが引き付けてくれたおかげで疲れずに済んだよ」
「私は体力と力だけには自信があるので。お安い御用です」
「モモ、気を引き締めて。出てくるよ」
「はい!」
星型の中心がさらに盛り上がり、木の葉が現れる。しかも、真っ黒だ。
「間違いない……。ブラックトロントだ」
ブラックトロントは既に怪我を負っていた。
僕の投げた杭が太い幹に深く刺さっており、5回の斬撃が根や枝を切り落としたのか、伐採された後、加工した木のようになっていた。
相当怒っているらしく、大きな口が蠢いていた。
『ガアアアアアアア!!』
「モモ、来るよ」
「はい、分かっています!」
ブラックトロントは切られた部分から一瞬で枝を伸ばし、何本も枝分かれして僕達の頭上に広がり、鋭い枝が槍のように地面に突き刺さってきた。
「さすがブラックトロント。攻撃範囲が異常だね」
僕は『ポロトの剣』を使って降り注いでくる枝を切り裂いていく。
モモは、ダンスを踊るように枝と枝の狭い隙間を掻い潜りながら避けていた。
危険な状態なら助けに入ろうと思っていたが、モモの身体能力は思っていた以上に凄い。
「な、何とか回避できました」
「今の攻撃を身体能力だけで回避できるなんてすごいね。僕だったら何本か体に刺さってると思う」
「い、いえ……。私も何でかわせたか分からないので、もう一回同じ攻撃が来たら、かわしきれないと思います」
「大丈夫。今の回避した動きはモモの実力だから、次も出来るよ」
「だといいんですけど……」
――やっぱり自信がないんだ。モモは凄いんだけどな、どうしたら自信を持ってもらえるんだろう。何か成功体験が必要かもしれないな。
ブラックトロントは、攻撃をかわされて少し動揺していたがすぐさま別の攻撃に替えてきた。
『ドドドドドド……』
「ご主人様、下です!」
「そうみたいだね」
『ドッ、ドッ、ドッ、ドッ』
地面から杭のように尖った黒い木の根の先端が突きだしてきた。
無作為に突き出てくるため、地面にいるのは危険だと判断し近くの木に飛び移る。
だが……。
『ドッ!』
飛び移ろうとした木から地面につき出ている木の根と同じ形の攻撃が飛んでくる。
「周りの木を操れるのか!」
僕は『ポロトの剣』を振りかざして、杭の攻撃を切り裂く。
体に突き刺さる前に切り落とせたのでよかったが、ブラックトロントの攻撃範囲が分からず、うかつに動けなくなった。
木を操れるとなると、この森一帯がブラックトロントの攻撃範囲と言ってもおかしくない。
あまりにも広いので目の前のブラックトロントに集中した方がよさそうだ。
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