第159話 親玉の共闘 VS グラスとコルト、モモの共闘

「グラスさん! ブラックトロントの根がそっちに向いました!」


僕はグラスさんに第二の脅威が向かっていることを咄嗟に知らせる。


「な! コルトか! って、黒い木の根……ブラックトロントまでいるのか。ぐおっ!」


グラスさんの脚は黒い根に巻き付けられ、振り回されたあげく地面に叩きつけられる。


「がはっ!」


一度では終わらず、2度、3度と繰り返され、最終的に森の土壁に投げ飛ばされ、大の字になってめり込む。


「ブラックトロントがギガントタルピドゥを助けた……。魔物が助け合うなんて、ありえない。それより、グラスさんが心配だ。モモいくよ」


「はい!」


僕は地面を走るのは危険だと思い、木の枝を伝いながらグラスさんの投げ飛ばされた土壁を目指す。


「痛ってぇなぁ。まぁ、地面の中を泳ぐよりましか」


山が切れたように盛り出ている土壁からグラスさんは顔を出した。


「グラスさん、大丈夫ですか!」


僕は木の上からグラスさんに話しかける。


「ああ、問題ない。だが、まさか親玉が2体いるとはな……。しかも、ギガントタルピドゥにブラックトロントとは恐れ入ったぜ。さすがに俺1人じゃきついな」


グラスさんは頭部から真っ赤な鮮血を流しており、黄色髪が赤色に染まっていく。


「僕達も加勢します!」


「さっきは偉そうに断っちまったが、こうなったら頼まざるおえない。コルト、嬢ちゃん手を貸してくれ」


「はい! もちろんです!」


「わ、私も頑張ります!」


僕とモモはグラスさんのもとに駆け寄る。


「今、包帯を巻きますね」


「頼む」


モモは冒険バッグから包帯と飲み水を取り出した。


グラスさんの髪が泥と血で汚れていたので、ある程度水で洗い流したあと包帯を巻いていく。


「出来ました」


「ありがとうよ、嬢ちゃん」


「いえ、私にはこれくらいしか出来ないので」


僕はグラスさんの応急処置が終わるまでギガントタルピドゥとブラックトロントの様子を見ていた。


ギガントタルピドゥは森を這うようにして動き、木をなぎ倒しながら僕達の方に進んできていた。


グラスさんの与えた攻撃は既に完治し、凹んでいた腹部も元に戻っている。


ブラックトロントは本体を見せず、黒く長い木の根を地面から何本も生やし、ギガントタルピドゥによって倒された木を取り込んで、太さと大きさを増していった。


「あの2体……何で戦い会わないんだ」


グラスさんも異変に気付いたらしい。


「僕も同じことを思っていました。あの2体の縄張りには確実に入っているはずなのに、争わないなんて。魔物は同種族としか手は組まないはずです」


「奴らにとって俺達の方が、別種の魔物より脅威だと察知した。そう考えるのが自然かもしれないな」


「なるほど。確かに理屈は通りそうですね。でも、僕達はギガントタルピドゥとブラックトロントより脅威に感じられているなんて……」


「はは、俺達がそれだけ怖いんだろ。強い奴らには共闘してでも勝つ。それは人も同じだ。行くぞ、コルト。俺は、そのままギガントタルピドゥをうける。コルトは範囲が広いかもしれないがブラックトロントを頼む」


「分かりました。モモは僕と一緒にブラックトロントの足止めをするよ」


「はい!」


「しゃっあ! ボコボコの穴だらけにしてやるよ!」


『ドッツ!』


グラスさんは勢いよく走り始めた。


地面が抉れ、土砂が後方に舞い散る。


目の前からギガントタルピドゥが大口をがばっと開けて4足歩行で地面を這いながら突進してくる。


木々や土がギガントタルピドゥの口の中にどんどん入っていく。


このままいたら、きっと僕達もギガントタルピドゥに食べられてしまうだろう。


「まずはその口を閉ざしてやる! 『身体強化』」


グラスさんは職業:戦士が得意な強化系魔法を使い、全身淡い光に包まれる。


「はっ!」


グラスさんが跳躍すると、地面が凹み圧縮されていた。


僕が見上げたころにグラスさんはギガントタルピドゥの口付近にいた。


人の大きさだと、大柄なグラスさんでも小さく見えてしまうほどギガントタルピドゥは巨大だった。


それでも、グラスさんは臆さずに両手を握り、1つの拳を作り、勢いよく頭上に振り上げて構える。


『グラスハンマー!!』


『ズッドン!!』


グラスさんはギガントタルピドゥの上口に拳を思いっきり叩き込んだ。


すると開いていた口が勢いよく閉じてギガントタルピドゥの上半身は地面にめり込み、下半身が地面から浮き上がる。


「す、すごい力だ。あそこまで力の強い人を見た覚えがないよ」


「私もです」


僕とモモはギガントタルピドゥの右側を通りながら後ろに回り込む。


ギガントタルピドゥが倒した木々を取り込んで強化しているブラックトロントは先ほどよりも根の太さが2倍、本数が3倍ほど増えており、見たところ強度も上がっている。


「モモはブラックトロントの注意を逃げながら引き付けておいてほしい。攻撃の手数が多いと困るから僕は少しでも木の根を切り裂いて本数を減らす」


「分かりました」


今、僕達は先ほどと同じように木の枝を足場にしながら移動している。


ブラックトロントが現れた時から通常のトロント達が姿を現さなくなった。


タルピドゥもそうだ。


ギガントタルピドゥが出てきてから一頭も姿を現さなかった。


きっと出てきても親玉に巻き込まれると分かっているのだろう。


「でも、僕達にとっては好都合。1体の魔物に集中できる」


「では、ご主人様、行ってきます!」


「うん、気をつけて」


「はい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る