第158話 親玉の2体
「ズブズブズブ……」
僕は地面に木を強めにねじ込んでいき、刺しきったら抜き、また別の場所に突き刺す。
この工程を繰り返していると、木の先端に何かに当たった。
木の入った長さは1メートルほど、僕は地面に殴りつけるようにして腕を入れる。実際は僕達が立てるほど地面は硬めなので力を入れないと腕が入らない。1メートルほど地面の下を探ると、服らしき肌触りを感じた。それを掴み一気に引き上げる。
「ふっ」
泥まみれだがどう見ても人で、キャラバンにいた冒険者の1人だった。
「がはっ、がはっ」
冒険者さんは土を口から吐き、深く息を吸い始めた。
「た、助かった……。ありがとう」
僕が助けた冒険者さんには意識があった。
「トロントに襲われたんですか」
「分からない。いきなり地面に引きずり込まれたんだ。気づいた時には土の中だったよ」
「あの、動けますか。動けるのならあの気絶している冒険者さんと森を一緒に出てください」
「分かった」
冒険者さん達は森を出ていく。
僕とモモで冒険者さん達の埋まっていた付近を徹底的に調べていくと、ほぼ全員埋まっていた。
意識のある人と無い人で別れており、死者はいなかった。
発見したのが早かったからかもしれない。
ただ、グラスさんだけ見つけられなかった。
「モモ、そっちはどう?」
「ダメです。見つかりません」
「そうか……」
僕はこのままグラスさんを探すのか、親玉2体を討伐しに行くのかを迷っていた。
「このまま探していても、時間だけが過ぎていく。倒すのが遅れれば遅れるだけ敵が強くなるから親玉を先に探して討伐しよう。グラスさんが見つからないのは、グラスさんが地面に埋まっていないのかもしれない。それか1人で森の中をさまよっている可能性もある」
「そうですね。これだけ探してもいないんですから。その可能性も十分考えられます」
僕は泥濘地帯を移動する。
「モモ、今も強い視線を感じる?」
「はい。森の中に入った時からずっとしているんですけど、どこから発せられているのか分からなくて……。雨が止めばにおいでも探せるんですけど……」
モモは申し訳なさそうな顔をしていた。
「そんな顔しないで。別にモモが悪い訳じゃないから。何ならモモに索敵をお願いして申し訳なく思ってるくらいなんだよ」
「私がもっとお役に立てれば……」
――何だろう、モモって結構落ち込みやすい性格しているのかな……。自分に自信が無いのかも。まぁ、僕も自分に自信なんて全くないんだけどさ。
「モモ、下を向いてても仕方ないからさ。前を見て歩こうよ」
「はい……」
僕はモモの後ろに立ち、辺りを確認しながら進む。
『ドドドドドドドド……』
「また地震か……。地面の中を動いているんだな」
「そうみたいですね。地面の下で暴れ回っているみたいです」
「何かと戦っているのか?」
「分かりません。ですけど、地面の中で暴れるなんて、戦う時くらいしかないと思います」
「まぁ、そうだね」
『ドドドドドドドドド』
「うわっ! 揺れが大きくなってきた。どうなっているんだ」
「地上にどんどん近づいているみたいです!」
「親玉の可能性はある?」
「はい!」
「なら僕に近づいて。絶対に離れないように」
「わ、分かりました」
モモは僕の後ろに着く。
僕は『ポロトの剣』を構えて、臨戦態勢に入った。
『ドドドドドドドドドドドドド』
僕達の周りの木々が浮き上がってくる。
その際、地面が割れながら隆起してきた。
「ここは危険だ。移動するよ」
「きゃっ」
僕はモモをお姫様抱っこして地面から跳躍する。
『グラアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「おらおらおらおらおらおら!!」
地面から全長50メートルはありそうな巨大なタルピドゥが飛び出してきた。
「こ、この大きさは、ギガントタルピドゥ……。それに、グラスさん!」
グラスさんは泥まみれになりながらギガントタルピドゥに捕まり、どてっぱらに右拳を何発も打ち込んでいた。
その威力はすさまじくギガントタルピドゥの腹部にいくつもの大きな凹みが出来ている。
ただ、決定打にはなっておらずギガントタルピドゥが暴れ回っているため、体に付着している土が雨のように降ってきた。
「モモ、あいつが地面にいたやつ?」
「そうです、あの個体で間違いありません」
僕は近くの木の枝に着地し、モモを下す。
「ごめん、咄嗟だったから」
「いえ……ありがとうございます」
「とりあえず、タルピドゥの親玉は見つけた。グラスさんが戦っているし僕まで加勢する必要はなさそうだ。モモ、トロントの親玉を探そう。こっちも大きな個体が親玉の可能性が高い。なるべく大きな木をすぐっていこう。きっと擬態しているだろうから気を抜かないように」
「はい!」
『ドッゴオオッン!』
空中に漂っていたギガントタルピドゥが地面に落ち、あまりの衝撃に地面が震える。
その時。
地面から多数の黒い木の根っこが生えだして、ギガントタルピドゥの方に向っていった。
「な、何だ。この根……黒い……。まさか、ブラックトロント」
「ブラックトロント?」
「トロントの最上位種だよ。トロントは強さによって色が変わるんだ。茶、黄、赤、黒。その中でも黒いトロントは滅多にいない貴重種であり、最も強い。大きさ自体は普通のトロントと同じだけど、異常なまでの攻撃範囲と物理耐久力。『魔法耐性』のせいで魔法攻撃は効かない。この状況から察するに、本体は地面の中に隠れている可能性があるな」
「でも、何で今になって木の根が生えだしたんですか」
「分からない……。でに、ギガントタルピドゥの方に根を伸ばしているのは分かる。このまま、親玉同士で戦ってくれるといいんだけど」
だが、僕の予想とは裏腹に、黒い木の根の向かった先はギガントタルピドゥではなく地面に落ちてからも一向に攻撃の手を緩めていないグラスさんだった。
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