第157話 冒険者達が見つからない

僕はトロント達の真後ろを取り、一方的に切りかかっていった。


――卑怯とは思わないでくれよ。君たちだって僕達を囲んでいたんだ。動きが遅い分、後ろを取られると防戦一方になるのがトロントの弱点だな。


僕の方は終わったが、モモはまだ苦戦しているようだった。


「くっ!」


トロント本体に未だ近づけず、敵の攻撃を受け流すか受け止めるといった防御の体勢を取っている。


「モモ! どうしたの、もっと動かないと近づけないよ」


「そ、それが。どこもかしこも攻撃される刺激ばかりで……」


――なるほど。感覚が鋭いせいで、敵に囲まれると全身に攻撃の敵意が向けられるから、絞り切れないのか。だから、攻め切れない。


「モモ! モモの感覚が鋭いのなら、敵の攻撃が来る瞬間にも感じ取れるはずだよ。それはモモを倒しにかかってくる攻撃だから敵意も強くなるはず。それが分かれば反射神経の卓越したモモなら回避できると思う。迷わず突っ込んで攻撃に専念するんだ。敵の攻撃は体に任せてみよう。今は体に戦闘を慣れさせて、自分に合った戦い方を見つけるんだ。危険があったら僕がすぐ助ける。安心して突っ込んでみて」


「は、はい!」


モモは防御の体勢から身を屈めて、地面を思いっきり蹴る。


その加速力は僕を越えているかもしれない。


すぐに最高速度に達し、正面にいたトロントに向っていく。


『ゴゴゴ……』


「くっ!」


低姿勢で走っていたモモに地面から杭状の鋭い根が襲い掛かる。


モモはすぐに反応し、身を翻して回避した。


空中で体勢を整え速度を落とさずにトロントに重い一撃を食らわせる。


『ドガッツ!!』


トロントは叫び声すら出せずに殴り飛ばされた。


――威力は申し分ない。加えて空中での身のこなしも上手い。多数の敵との戦闘経験があまりないだけで鍛錬を積めば相当戦えるようになるはずだ。


「モモ、いい感じだよ。その感覚を忘れないように、つぎつぎ行こう」


「はい!」


その後、モモは攻撃を巧みにかわしていき、囲まれていたトロント達を無事全滅させた。


「モモ、すごくよかったよ。だいぶ感覚がつかめて来たいだね」



「はい。防御に回ってしまう理由は、恐怖で動けなかったのが原因だったと知れてよかったです」


「そうだね、恐怖心は必要だけど大きすぎると体を硬直させてしまうから緊張感くらいの張りつめ具合がいいかもね」


「そうですね」


「それじゃあ、先に進もう。冒険者さん達が心配だ」


「はい!」


僕達は森の奥へとさらに入っていく。


「グラスさん! グラスさん! いたら返事をしてください」


「冒険者の皆さん! 冒険者の皆さん!」


僕とモモは大きな声を出して冒険者さん達を呼んだ。


ただ、寄ってくるのは小さなタルピドゥとトロントばかり。


「魔物は寄って来るのに人の気配がない……」


「これだけ探しても見つからないなんて……。どこかに隠れているんでしょうか」


「隠れている可能性も無くはないけどあの人たちは隠れるより攻めていきそうな性格しているからな。もう少し探してみよう」


「分かりました」


僕とモモはもう少し森の奥に入り、冒険者さん達を探す。


行けども行けどもあるのは森の木ばかり、これ以上森の中に入ると迷ってしまいそうだった。


そんな時、地面から剣先が飛び出ているのが見えた。


――何だ、これ……。何で剣先が見えているんだ? 着き刺したんなら柄の尻が見えていないとおかしくないか。


僕はそう思い、剣身を指で摘まんで持ち上げる。ただの剣にしてはあまりに重く、力いっぱい引っ張る必要があった。


「ふっつ!!」


すると、土の中から剣を握りしめて気を失っている冒険者さんが姿を現した。


「な! 冒険者さん。土の中から出てきた……。まさか……」


僕は冒険者さんの様態を真っ先に確認する。


「よかった、息はある。でも、土の中にいるとは……盲点だった。でも、地上で人が全く見つからないのなら地中にいる可能性が出てくるな。最初に見つけた冒険者さんは木に吊るされていたから森の上の方を見てきたけど全くいなかった。ここら一帯でまだ探していないのは地面しかない」


僕は埋もれていた冒険者さんを地面から引っこ抜くと、足首に木の根が巻き付いていた。


「この根が地面に引き込んだのか。でも、地面だとヤバいぞ……。この人は運よく息があったけど、土が雨に濡れて空気がほぼ無いはずだから窒息している人がいるかもしれない。モモ、ここら一帯の地面をくまなく探そう。あと、僕から絶対に離れないようにして」


「分かりました」


モモは小さく頷いた。


僕は長く頑丈な細めの木を見つけ『ポロトの剣』で切り裂く。


「ご主人様、その木でどうするんですか?」


「この木を地面に刺していって、中に人がいるかを探す。地面が硬い部分にはいないはずだ。ここら辺は足が沈みそうな程地面が軟らかいから、木が突き刺さっていって引きずり込まれた人が土の中いたら木に当たるはずだよ。その感触を頼りに冒険者さん達を探していく」


僕はモモの分の木を切り、手渡した。


「思いっきり突き刺したらだめだよ。冒険者さん達に突き刺さっちゃうから」


「はい、分かっています」


僕とモモは泥濘状の地面を少しずつ調べながら歩いていく、先ほど見つけた冒険者さんは木の上に避難させておき、他の冒険者さんの救助を急ぐ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る