第156話 小を洗礼させれば大に勝る
僕達は森の中で冒険者さんを見つけた場所まで戻ってきた。
「ここから先に進むけど、僕はトロントの気配がしたら迷わず切っていく。モモも、木か分からないなら同じように片っ端から殴り倒すか蹴り倒していくんだ」
「分かりました!」
僕達はただの木だとしても、先制攻撃を与えてトロントか見分けていく。
トロントが人ではないので出来る荒業だ。
本物の木には悪いが僕達に危険が及ぶため、泣く泣く切り倒されてくれ。
「はぁあ!!」
「せい!!」
僕は本物の木を切り裂き、モモは擬態したトロントを蹴り飛ばした。
高さ5メートル以上ある太い木を蹴り飛ばすほどの脚力があるのはさすが獣人族だ。
――僕が守る必要あるのかな……。
「モモ、中々やるじゃないか。トロントも倒せてるし普通の魔物はそこまで気にしなくてもよさそうだね」
「獣人族なので普通の人よりかは動けます。ちゃんとした鍛錬を積んでいる訳じゃないので洗い攻撃ですけど……」
――確かに。獣人族特有の物凄い力で無理やり突破している感が否めない。僕も誰かに教えてもらったわけじゃないけど出来るだけ無駄のない動きを意識している。
その点モモの動きには無駄が多いな……。と言うか、色々と揺れてて目のやり場に困る。
「モモ、無駄な動きをもっとなくすんだ。回し蹴りをするにも流れの中に落とし込む感じで滑らかに」
「はい、やってみます」
僕達は森の中を進みながらトロント達を倒していく。
タルピドゥはめっきりでてこなくなったがトロント達はまだまだ森の中で潜伏していそうだ。
「はっ!」
「はっ!」
僕はモモにお手本を見せるように、回し蹴りで木を攻撃する。
木は幹から半分に折れたが、またしてもトロントではなかった。
モモは僕の動きを真似して小さな動きでも最大の火力がでるよう、踏み込み際から加速する回し蹴りの仕方を覚えた。
「す、すごい。なんか、動きは小さいのに力が入ります」
「何事も大きくすれば力が伝わるわけじゃないからね。大きな動きはその分、隙になるし、懐に入られやすい。多くの敵と戦うときは出来るだけ小さな動きを意識するんだ。そうすれば……」
「グワワワワワ!!」
僕の真後ろから木に擬態したトロントが襲い掛かってきた。
「ふっ!」
僕はぬかるんだ地面を思いっきり蹴り、足先を最高速度に一瞬にして持っていく。
『ボガッツ!!』
僕はトロントの幹に回し蹴りを当ててへし折る。
「す、すごいです。ご主人様」
モモは目を輝かせながら僕を見てきた。
「こうやって不意な攻撃にも対応できる。大は小を兼ねるっていうけど、小は洗練させれば大を凌ぐんだよ。要は使い方が重要なんだ。まぁ、小さい動きに限界があるのも確かだけどね」
「でも、弱い相手ならどれだけかかってきても大丈夫じゃないですか! すごいです。私もできるようになりたいです!」
モモは跳ねながら僕を褒めてきた。何だろう、凄く嬉しい……。それより、やっぱり揺れてるな。
「ガサゴソ、ガサゴソ、ガサゴソ……」
「モモ、今の動きを洗練させるには数をこなすしかない。でも、丁度いい相手が今は大量にいるみたいだ。モモの力量を見てたけど、守る相手がいないならモモと僕で十分対処できそうだから、ここで自分の血肉にしてしまおう」
「はい! 頑張ります!」
僕達の周りには20本以上のトロント達が集まってきていた。
先ほどから暴れていたのがトロント達に気付かれていたらしい。
「モモ、今から戦うけど体力は大丈夫?」
「はい。体力には自信があります」
「なら心配いらないね。何かあったら叫ぶんだよ。僕が助けに入るから」
「はい!」
――今のところ、まだ親玉にたどり着けていない。でも、これだけの数が出てきたんだ。親玉に近づいている証拠か。なら、冒険者さん達もここら辺にいる可能性が高いな。トロント達の動きはそこまで早くない。異様に攻撃範囲が広いだけの木みたいな魔物だ。木を折れるだけの力があれば倒せる。トロントにグラスさんがやられたとは考えづらい、親玉と交戦して怪我を負った可能性の方が高いな。
「モモ、行くよ!」
「はい! ご主人様!」
僕はモモに背中を預け、目の前のトロント達に集中する。
剣の攻撃と拳、脚の攻撃だと僕はやはり剣の方が扱いやすい。
前までは剣を使うよりも拳や脚を使ったほうが楽だと思っていたが、僕の無茶な動きに応えてくれる『ポロトの剣』が便利すぎるのだ。
もう手放せそうにない。
――こんなに良い剣を持つとどうしても切りたくなってしまうんだよな。危険な衝動だ。出来るだけ助長しないと剣に頼りすぎてしまう。僕が強いんじゃなくて剣が凄いんだ。それを忘れてはならない。
僕は『ポロトの剣』を引き抜き、迫りくるトロント達の木の枝を切り刻みながら前進する。
出来るだけ低姿勢でどこからの攻撃にも対処できるよう心掛ける。
『ズシャッ!』
地面から杭のような大きな木の根が突き出してきた。
地面擦れ擦れを移動していた僕は身を翻し、回避するも体勢を崩される。
――木の根でも攻撃してくるのか。本当にどこからでも攻撃が飛んでくるな。
「モモ! 地面からも攻撃してくるから気をつけて」
「はい! 擬態していなければ攻撃する敵意が感じられますから、大丈夫です」
「油断は禁物だよ。常に最悪を意識して行動するんだ」
「分かりました」
僕はすぐさま体勢を立て直し、トロントの伸ばしてきた枝を掴んで僕の方に引き寄せる。
力勝負とはあまり芸がないがたまには一興になるか。
「はあああっ!」
僕はトロントを地面から引き抜き、空中に放り投げる。
『メテオスラッシュ!』
僕は空中に浮いているトロントに向って横一線の斬撃を放った。
僕の技は森中で使ったら、普通の木まで切ってしまう。
自然破壊は僕の趣味ではないので、配慮して使った。
僕は包囲の開いた部分に自ら進み、脱出する。
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