第162話 木の鎧

「うおっ! な、なんだ!」


「グラアアアアアアア」


「ガアアアアアアアア」


うつ伏せに倒れ込むギガントタルピドゥに地面から真っ黒な木の根が巻き付いていく。


腕や脚、尻尾など巻き付き終わった際、腹部にも黒い根が巻き付いていった。


「何でブラックトロントが、ギガントタルピドゥに巻き付いているんだ。攻撃しているようには見えないが……」


グラスさんは様子を見ているのか、その場から離れようとしない。


「ご主人様、グラスさんを速く非難させないと危険です」


「そ、そうだね」


僕はモモの忠告に従い、グラスさんに向って叫ぶ。


「グラスさん! 今すぐその場から離れてください!」


「分かった!」


グラスさんは黒い根が迫りくる中、ギガントタルピドゥの腹部から離脱した。


そのまま僕たちのいる場所におりてくる。


『ズシャンッ!』


雨に濡れている地面が王冠のような水しぶきをあげる。


「はぁ、はぁ、はぁ……。いったい何が起こってやがる」


グラスさんは息を切らせて僕達の方に駆け寄ってきた。


「僕にも分かりません。ただ……、ブラックトロントとギガントタルピドゥがさらに手を組んだみたいです」


「ありゃ、木の鎧だな……。突破するのは相当骨が折れそうだ」


ギガントタルピドゥの全身はブラックトロントの木の根で覆われ、弱点だった腹部まで隠されている。


ギガントタルピドゥの大きな口と関節部分だけは木で覆われておらず、まさしく鎧をまとったギガントタルピドゥが僕達の目の前にいた。


ギガントタルピドゥは木の根によって仰向けからすでにうつ伏せになり、前進してくる。


直進してくるギガントタルピドゥの頭上にブラックトロントの本体があった。


まるで、ブラックトロントがギガントタルピドゥに寄生しているかのようだ。


「グラスさん、僕達も力を合わせて戦ったほうがいいみたいです」


「そうみたいだな。あっちが力を合わせるのなら、こっちも合わせて戦うのがお相子ってもんだ」


「作戦はどうしますか?」


「そうだな……。まずはあのデカい体をもう一度仰向けにして、腹を見せてもらわねえと。俺でも鱗の部分からじゃ打撃がさすがに通らねえ」


「僕の斬撃も、木の鎧で力を奪われるらしいので鱗で弾かれるかもしれませんね」


「ブラックトロントの作った木の鎧のせいで魔法の類は効かねえはずだ。単純な物理攻撃か武器による攻撃しか入らないだろうな。ここに魔法使いがいたらお荷物だったが、どうも前衛しかいないみたいだ。とんだバランスの悪いパーティーメンバーだな」


「確かに。ですが、今回は好都合です。攻撃の手数が増えれば、ブラックトロントの援護も追いつかなくなるはずなので、攻め続けましょう。僕達は体力ありそうですからね」


「あたぼうよ。俺は体力と力でこの世界を生きてきたんだ。持久力には自信があるぜ」


「僕もです」


「わ、私も頑張ります!」


「モモは危険だと思ったら一歩引いてもいいから。生き延びることだけを意識して」


「は、はい!」


『グオオオオオオオオオ!!』


眼の色を赤く染めたギガントタルピドゥが咆哮を放つ。


一帯の木々が吹き飛ばされ、空中に木の葉が舞っていた。


「あっちは準備完了しているみたいだ。俺達もそろそろ行かねえと、先制攻撃を食らっちまいそうだな」


「先陣はグラスさんにお願いします。僕は斬撃を飛ばして援護しますから突き進んでください」


「よっしゃ! 了解した!」


『ドッツ!!』


グラスさんは地面を勢いよく蹴り、加速。


そのままギガントタルピドゥを目掛けて走って行く。


「モモは、僕とグラスさんが攻撃している間、敵の隙を見て攻撃を打ち込んでいくんだ。ブラックトロントに2人じゃなく3人いると思わせて意識を分散させる。出来る?」


「出来ます!」


モモは耳と尻尾を立てて、凛々しい目を僕に向けてきた。


「よし、よろしく頼むよ」


「はい!」


僕はグラスさんを追い、木の枝を渡っていく。


『グオオオオオオオオオ!!』


「でかい口に、タコみたいな木の根がうじゃうじゃと……。新しい化け物だな!!」


『ドッツ!』


グラスさんは速度の乗った状態でギガントタルピドゥに目掛けて跳躍した。


体が淡く光っており『身体強化』を発動しているらしい。


ブラックトロントの根に当たると魔力が吸収されるため、できれば僕の斬撃で鎧を切り裂いてから打撃を撃ち込んでもらいたい。


『ガアアアアアアア!』


ブラックトロントは視界に入ったグラスさん目掛けて極太の黒い木の根を8本ほど向かわせる。


「コルト!!」


「分かってます!!」


『メテオスラッシュ』×8


僕は『ポロトの剣』を8回振ってグラスさんに当たらないよう斬撃を8発、放った。


『ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ』


極太の木の根をすべて輪切りにして、操作不能にさせる。


グラスさんはそのまま直進し、拳を振り上げた。


「先制攻撃はいただきだぜ! 化け物が! 『グラスハンマー!!』」


『ドッガアアアッツ!』


グラスさんの強烈な一撃がギガントタルピドゥの鼻に打ち込まれ、口が勢いよく閉じる。


激しい風圧が僕の所にまでとどき、あたりの木々の葉を揺らした。

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