第152話 ちょっとした油断

実際、タルピドゥを感知しているモモならば攻撃される前に避けるのも容易だと思い、僕はモモに囮役を任せた。


僕とモモは天幕を出る。


そのまま、少し広めの場所を見つけて移動する。


「それでは、タルピドゥを誘き出します」


「うん、お願い」


僕はモモから少し離れた。


モモは足を肩幅に開き、拳を硬く握りながら地面に狙いを定める。


「はぁああああ!!」


『グシャアアア!!』


「うわっ!」


モモが地面を殴ると、グラスさんまでとはいかないが地面が凹み中心から亀裂が走る。


地面がぐらつき、十分すぎるまでに振動を与えた。


「ご主人様、来ます!」


モモは殴った地面から離れる。


『ドドドドドドドドド!』


地面が浮き上がり、1頭のタルピドゥが飛び出してきた。


「よし」


大きさは1メートルほど、先ほどよりも小柄なので、さほど恐怖心はない。


『ドッツ!』


僕は地面に力を与えて跳躍し、小さ目のタルピドゥを真っ二つに切り裂いた。


「小柄なら生かしておいてもよかったかな……」


僕は油断していた。


先ほどよりも個体数が少ないと聞かされ、最初に飛び出してきた個体も小さかった。


その2つだけで油断する要因になってしまったのだ。


「ご主人様! まだ来ます!」


「え?」


「グラアアアアアアア!!」


3メートルを超えるタルピドゥが空中で移動できない僕の真下に迫っている。


僕は切り裂いたタルピドゥを足場にして力を入れるも、回避できるほど移動できなかった。


「ぐっ!!」


「ご主人様!!」


僕はタルピドゥに咥えられた。


ものすごく鋭い歯が何本も口に並んでおり、僕の体に突き刺さる。


歯の一本一本に返しが付いており、簡単には抜けない。


顎の力はものすごく強く、簡単に開きそうもなかった。


僕は地上から10メートル以上の高さにいる。


景色は雨で曇っているためよく見えない。


――さて、どうやって抜け出そう。両腕も一緒に噛まれちゃったから上手く動かせないんだよな。僕は肩から手頸までタルピドゥの口の中にある幸い『ポロトの剣』が食べられていないから、何とか切りかかれそうだ。


僕は『ポロトの剣』を持ち替え、タルピドゥの顎下に剣先を向けた。


その時、地面から何かが飛んできた。


「だ、大丈夫ですか。ご主人様!」


「モモ! ここ、地面から結構高い位置だよ!」


「跳躍してきました」


「跳躍って……。獣人族はこの高さを跳躍できるの?」


「私は運動神経がいいので、できます。もちろんできない獣人もいますよ」


「運動神経の問題なんだ……」


「今から、この口を開けますね」


「え、凄い力が強いけど……」


モモはタルピドゥの微妙に開いている口に両手を入れ、外側に力を加えた。


「ふっ!!」


『バガッ!』


モモが力を加えるとタルピドゥの口は180度に開いた。どう見ても完全に顎が外れている。


「あ、ありがとう、モモ」


「いえ、私の伝え忘れが原因ですから。あの……ご主人様。ちょっといいですか」


「ん?」


「私、このままだと上手く着地が出来ないので、抱えてもらっても、いいですかね」


「はは……、着地できないのになんで来ちゃったの」


「ご主人様を助けたい一心で……」


モモは頬を赤くしながら視線をそらす。


「分かった。でも、抱えると肌に触れるから。それで叩かないでよ、結構悲しいからさ」


「あ、あれは……、条件反射と言いますか、ビックリしたと言いますか……」


モモはなぜか慌てふためき、いつもの冷静さを失っていた。


その様子が新鮮でとても愛らしく、モモの素顔をやっと見れた気がした。


「それじゃあ、ちゃんと捕まってるんだよ」


「は、はい」


僕はポロトの剣を鞘に戻し、モモをお姫様抱っこしてタルピドゥの口から出る。


モモは僕の首に手を回し、目を瞑っていた。


――そんなにこの高さが怖かったんだ。それなのに助けに来てくれるなんて。モモは優しい子なんだな。


「よっと!」


僕はタルピドゥの口から地面に向って落ちる。


臓器が重力で浮き上がる感覚を得るも、先ほどから何度も経験しているのでもう慣れた。


僕達とタルピドゥは同時に地面に到着する。


『ドシャーーン!』


「スタッ……」


タルピドゥは勢いよく地面にぶつかり、僕は音もなく着地する。


「う……。あれ……、もう地面ですか」


「そうだよ。モモ、どこか痛いところとかない?」


「わ、私は大丈夫です」


「そう、よかった。モモに何かあったら、僕の責任だし。こんなに可愛い子に怪我させちゃったら護衛として恥だからね」


僕はモモに向って微笑む。


「な、なな……」


僕はモモを地面におろす。


すると、尻尾がはち切れんばかりに振られており、何か嬉しいことでもあったのかと疑問に思う。


「モモ、尻尾が凄い動いてるけど、何か嬉しいことでもあった?」


「え、いや、こ、これは……な、何でもないです!」


モモは尻尾を押さえつけようとするも、別の生き物のようにずっと振れている。


「まぁ、別に支障がないならいいんだ。さ、残りの個体を駆除してから地上にいるタルピドゥの魔石や素材を集めておこう」


「は、はい!」


僕はモモの示した場所でタルピドゥ達を狩っていった。


モモの感覚で判断できるタルピドゥ達は森の方にいる個体だけになり、キャラバンは安全な場所に戻った。

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