第151話 冒険者の誇り
「はぁあ!」
僕は地面を強く蹴り、跳躍する。
何も咥えていないタルピドゥの腹が無暗に晒されており、下半身の方から上半身に駆けて僕は切り上げた。
お腹だけを裂くつもりだったのだが、タルピドゥは空中で真っ二つになっていた。
どうやら鱗まで切り裂いてしまったらしい。
「す、すごい……。タルピドゥの硬い鱗まで切り裂けるのか。ポロトさん、あなた本当に新米鍛冶師ですか」
僕は真っ二つにされた巨体を足場にして、周りにいるタルピドゥに切りかかっていく。
切っては足場にして移動、切っては足場にして移動を空中で繰り返した。
「おいおい……。ありゃ人間の動きじゃねえぞ」
「ドチャっ……」×数十頭
「スタッ……」
僕は切り終えたあと、他のタルピドゥが反応しないように無音で着地する。
「ドドドドドドドドド」
「グラアアアアアアア!!」
まだ地面にいたタルピドゥ達は仲間たちの死体を咥え天高く跳躍した。
きっと落ちてきた死体を餌だとおもったのだろう。
「ドッツ!!」
僕は地面が半球状に凹むほど力を入れ、跳躍する。
先ほどよりも数は多いが、やることは先ほどと変わらない。
切り裂いて足場にして移動を繰り返すだけだ。
空中にいる間はほんの5から6秒程度だが、問題なく対処できている。
――本当に力が衰えてないんだよな。スキルどうなってるんだよ。これが僕の身体能力とは考えづらいんだけど……。
「どちゃっ、ぐちゃっ、どちゃっ」×多数のタルピドゥ
「スタッ……」
「モモ! あとどれくらい!」
僕は遠くに離れていたモモに話しかける。
「も、もう、その下にはいません……」
「そう。ならいい。ドルトさん、親玉を見つけにいきましょう」
「あ……あぁ、分かった」
ドルトさんに『得体のしれない何かが目の前にいる』と言った表情をされ、深く落ち込む。
でも、タルピドゥを駆除しないと他の人たちにも危険が及んでしまう。
それの方が僕は嫌なので、自分の感情は押し殺して大量発生を鎮めるために力を尽くそう。
「今回は魔石を壊さずに倒せたな。でも、何頭かは魔石ごと切ってる個体もあるか。まぁいいか、今は親玉を見つけないと」
僕はモモのもとに走る。
モモも僕の方に向って走ってくる。
「ご主人様。個体数が減って、1つ大きな刺激が常に突き刺さってきます」
「どこから?」
「森の方からです。多分、今の個体は偵察だったのではないかと思います」
「偵察だと。3メートルを超える巨大なタルピドゥ達がか?」
グラスさんは僕達のもとに駆け寄ってくる。
「はい。弱い個体を先に戦地に向わせ本陣は森に待機しているのではないかと考えられます」
「なるほど。そうなると、親分の大きさがますます分からなくなってきた」
「はい」
「ドドドドドドドドド!!!!」
「!!!!」
地面から突き上げられるような強い地響きが鳴る。
僕達は体勢を崩し、よろめいた。
「な、何だ! この揺れ!」
「分かりません!」
「ご主人様! 何かが地面の中を動いてるのかもしれません。山の方からどんどん近づいてきています」
「親玉本体が動き始めたのか……。グラスさんと他の冒険者さん達はこの場で残ったタルピドゥの駆除を、僕達は親玉を倒しに行きます」
「ちょっと待て。それは俺達の仕事だ。コルト達にそんな危険な仕事は任せられねえ」
「ですが……」
「確かにお前が強いのはさっきの動きで確信した。だが、本来はキャラバンだけで片づけなければならない仕事だ。今、お前の力を借りたら、俺達は顧客の信用を無くしちまう」
「僕は黙ってますけど……」
「そう言う問題じゃねえ。俺達にも冒険者って言う誇りがあるんだよ。本当にきつい状況になったら手を貸してくれ」
グラスさんはキャラバンのリーダーらしく僕に頭を下げてきた。
――そうか……。僕は、いつの間にか冒険者さんの誇りを傷つける言動をしてたんだ。
「分かりました。なら僕は、モモとこの場で残ったタルピドゥ達の駆除をしていますね」
「ああ、頼む」
「リーダー!! 今動ける仲間を集めてきました!!」
20人ちょっとの冒険者さん達がグラスさんのもとに集合した。
「よし! 皆、俺の後について来い。走りながら説明する」
「はい!」
グラスさん達は森の方に走って行った。
「モモ、僕達は残りのタルピドゥを駆除するよ」
「はい!」
僕達はキャラバン内に残っているタルピドゥを探しに向かう。
「モモ、タルピドゥはどこら辺に残ってる?」
「もう、こまごまとしか残っていませんけど、数頭こっちにいます」
「分かった」
僕達はモモの後ろについてく。
「ここです」
モモが示したのは簡易ベッドが並べられた睡眠用の天幕が張られた場所。
既に怪我をした数人の冒険者さん達が眠っていた。
「ここで暴れられる訳にはいかないな。別の場所におびき寄せよう」
「分かりました。あと、おびき寄せる役目は私が引き受けます」
「え……でも、危険なんじゃ」
「大丈夫です。私もご主人様の役に立ちたいですから、囮役くらい私が引き受けます」
モモはなぜかやる気満々で、耳と尻尾を小刻みに動かしている。
「分かった。モモに手伝ってもらうよ」
「はい、頑張ります!」
「それじゃあ、僕は出てきたタルピドゥを倒す。モモは振動を起こして誘き出してほしい」
「了解です!」
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