第150話 タルピドゥの駆除

「モモ、雨のせいで鼻は効いていないはずだけど、どうしてタルピドゥの場所が分かるの?」


「感覚です。獣人族は敵の攻撃しようとする意識にも反応できる戦闘の感覚を持っています。私は特にその感覚が強いので、見なくても攻撃をかわせるんです」


「あぁ、ゴブリンの時見たく、見ないで蹴りを入れたりもできるわけか……」


「その通りです」


「なるほど、僕にはそんな感覚ほとんどないから、モモがいてくれてよかったかもしれない。モモ、助けに来てくれてありがとう」


僕はモモに向って笑顔でお礼を言った。


「い、いえ……。ご主人様を助けるのは、奴隷の役割の一つなので……」


「モモは奴隷じゃなくて、僕の家族ね。そこは重要だから、訂正してよ」


「で、でも……」


「でも、は無しって言ったでしょ。モモに好きな相手ができて、僕のもとから離れていくまではずっと家族だよ」


「す、好きな相手なんて……」


「僕にはそう言う感覚が全く分からないけど、普通の生き物だったらそう言う感情があるんでしょ。大丈夫、モモが選んだ相手なら僕は大歓迎だから」


「ななな……」


モモの白い肌が紅色に染まっていくのがとても愛らしい。


僕達はキャラバンの入り口に到着する。


先ほどから何頭ものタルピドゥが上空に飛び上がっており、悲鳴も鳴りやまない。


「早く個体数を減らしていかないと被害が増える一方だ。モモ、タルピドゥが一番多い所に案内して」


「はい! こっちです!」


モモは僕の前を掛ける。


僕はモモの後ろについていき、たまに飛び出してくるタルピドゥを切って進んだ。


走っている途中、大声が聞こえた。


「おらああああ!!」


『ズゴォーーーーン!』


グラスさんがタルピドゥの尻尾を持って背中から地面に叩きつけていた。


タルピドゥは大きな口から血を噴き出し、死亡している。


「グラスさん。今、戻りました」


「おお、コルトか。助かる。思ったよりも数が多くてな。俺達だけじゃ手に負えなかったんだ」


「僕も、タルピドゥの個体数を減らします。それと、奴らの親玉を見つけないといけません」


「そうだな。大量発生は率いている奴がいて、初めて脅威になる。今回の集中攻撃も親玉の指示だろう。考えられるのは、グランドタルピドゥかギガントタルピドゥのどっちかだな。一個体の大きさが他の大量発生と大違いなのを考慮すると、親玉も相当デカいはずだ」


「僕もそう思います。魔物は自分達より強い個体にしか従わないはずですから」


「ああ、だが……どこにいるのか見当もつかない。地面の中に隠れられると人の俺達じゃ、後手に回っちまう。何とか先手を打ちたいんだがな」


「それなら大丈夫だと思います。ね、モモ」


「はい。数を減らしていけば、しだいに大きな個体も判別できると思います。ただ、今は地中に個体が多すぎてどれが親玉か判断できません」


「なんだ、白髪の嬢ちゃんは『索敵』が使えるのか?」


「いえ、ただ感覚が鋭いだけです」


「なるほど、獣人族特有の勘ってやつだな。俺達の中まで索敵ができるやつがいたんだが、今は動けない状態になっちまってたからありがたい。俺達も頼りまくるがゆるしてくれよ。嬢ちゃん」


「はい! ご主人様の為になるのなら、いくらでも働きます」


僕とモモ、グラスさんはタルピドゥの集まっているという場所に向う。


僕達はキャラバンの中心辺り、やけに開けている部分にやってきた。


「ドルトさん、ここは?」


「ここは宴会用に用意してあった場所だ。だから他の天幕は張っていない」


「なるほど」


「ご主人様、ここの下にたくさんいます。数は多すぎて分かりません。少なくとも100頭はいるかと思われます」


モモは地面に耳を付け、音を確かめていた。


「そんなにか……」


「グラスさん、地面に強い振動を与えてください。大量に飛び出してくるはずです。それを僕が切り刻みます」


「了解した」


「モモはこの場からできるだけ離れるんだ。それで、移動した場所から動かないこと。そうしていれば襲われる可能性は低いはずだよ」


「はい! 分かりました」


モモは広場から離れる。


「よっしゃぁあ!! 行くぜ、コルト!! 半径10メートルの範囲を一気にへこませる。俺は自分で対処できるから守らなくていい。飛び出してきたタルピドゥを駆除してくれ」


「分かりました」


僕は『ポロトの剣』を構える。


「はぁ…………」


グラスさんの体から大量の魔力が溢れ始める。


その魔力はまるで燃えているように靡き、しだいにグラスさんの体に纏わりついていった。


それでも、魔力は常に溢れ出し、拳にどんどん集まっていく。


『デストロイブロー!!』


グラスさんは拳に溜めた強大な魔力を地面にそのまま叩きつけた。


『ドッゴオオオオオ!!』


殴られた部分から波紋状に振動が伝わり、中心からひびが何本も走っている。


地震が起きたような揺れをグラスさんから離れている僕ですら感じる。


地面にいるタルピドゥ達が感じていない訳がない。


『ドドドドドドドドド』


「コルト、来るぞ!」


「分かってます!」


――ふぅ……。大丈夫。タルピドゥ背中は硬いけど、腹部分は容易に切れるはず。魔石を切らずとも、お腹を裂けば止血多量で死ぬはずだ。


『ぼこ、ぼこ、ぼこ』


地面の一部が少しずつ浮き上がってきている。


『グラアアアアアアア!!』


「来た!」


グラスさんの周りから1頭のタルピドゥが姿を現す。


続いて2頭、3頭と飛び出してきた。

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