第149話 モモの気持ち
「ご主人様! 来ます!」
「まさか!」
僕は馬達の後方に回り、馬車を思いっきり引っ張って馬の進行を止めた。
その瞬間、馬達の目の前に2頭のタルピドゥが飛び出し、何も咥えないまま上空に跳躍していく。
「あ、危ない……。馬が食べられるところだった」
僕はその場で跳躍し、なぜ自分たちが空中にいるのか分かっていない様な顔をしているタルピドゥたちに『ポロトの剣』で2撃加え、真っ二つにした。
――音を出したらその地点を狙われるかもしれない。着地するときも音を出すな。
僕は猫のように力を殺して地面に着地する。
そのため、音を全く鳴らすさせずに済み、タルピドゥが地面から飛び出しては来なかった。
「皆。早くこの馬車に乗って。御者さん、僕は馬車の隣で大きな音を出しながら並走します。僕の方が大きな音を出しますので、馬車の方は狙われにくいはずです。思いっきり馬車を飛ばして、この場から脱出してください」
「は、はい!」
御者さんは馬車の前座席に乗る。
「モモ、ナロ君、子供達と一緒に早く馬車の中に入って」
「分かりました」×2
――周りでグラスさん達が動いてくれているおかげか、僕達の方にはまだ襲い掛かって来ないな。でも、馬車の音はさすがに引き寄せられるはずだ。僕の方が大きな音を出すにはどうすれば……。
僕は剣を持って考える。
「そうだ。地面を切りながら移動すればいいんだ」
「こ、コルトさん。また訳の分からないことを……」
「御者さん、行きますよ。僕の後に付いてきてください」
「わ、分かりました……」
僕は走り始めた。
それと同時に、右横の地面に向って斬撃を放つ。
『ドゴン!』
地面に亀裂が入り、地割れのように割れる。
すると、その場所からタルピドゥが飛び出してきた。
「やっぱり。地面が動く振動に反応しているんだ。このまま、続けていれば何とか抜けられそうだぞ」
『ドゴン、ドゴン、ドゴン、ドゴン!!』
僕は馬車よりも速く走り、地面を何度も切りつけた。
その度に、地面から巨大なタルピドゥが現れる。
「いったいどれだけいるんだ。大量発生とは聞いていたけど、3メートル越えのタルピドゥがこんなにいるなんて……」
僕達は無事にキャラバンを抜け、先ほど走っていた道に出る。
「ここまで来れば、安全かな。いや……もっと先に行こう」
僕は安全を見越して、さらに遠くに避難させる。
「御者さん。子供達を先ほどの村まで送ってください。僕はタルピドゥの駆除に行ってきます」
「分かりました。気を付けてくださいね」
「はい、分かってます。僕は簡単には死にませんよ」
僕は又もや子供達と離れなければいけなくなり、今回はちゃんと話しておく。
「皆、僕はさっきの化け物を倒しに行ってくるよ。だから、安全なところで待っていてほしい。待っていられるよね」
「主……また、どっか行くの……」
エナは僕の右腕にしがみ付き、放そうとしない。
「大丈夫。この前も帰ってきたでしょ」
「でも、主様……さっきの、凄く大きかったです。あんなの、勝てないですよ……」
「大丈夫。僕は皆を守るためなら強くなれるんだ。安心して」
マルは泣きそうな顔で足にしがみついている。
「……うぐ、……ひぐ」
ミルは先ほど見たタルピドゥがよっぽど怖かったのか、泣きながら僕の足にしがみついている。
「もう大丈夫……。ここにいれば安全だから」
僕はミルの頭を撫でながら、宥めた。
「ご主人様。今回は私も行きます」
モモが、冒険バックをしょって僕の前にくる。
「な、何言ってるのモモ。危険だよ」
「子供たちの安全を考えるのなら、私もご主人様と一緒にこの場を離れた方がいいと思います」
「どうして……」
「私は、災いを呼び寄せてしまう体質なんです。生まれた時からそうでした……。ですから、行く先々で私の周りで多くの災いが起きてきたんです……」
「そ、そんなの、たまたまだよ。今回だってたまたま、大量発生し賜物がいたんだ。ただの思い込みだよ」
「いえ……。思い込みなんかじゃありません。私は呪われてるんです……、狼族の白髪は呪われている象徴。常に災いを引き寄せてしまうんです……」
「たとえそれが真実だとしても、モモを危険な場所には連れていけない。モモに何かあったらどうするの」
「私がいなくなれば、ご主人様たちは無事に村にたどり着けます。私がいるから移動する先々で酷い目に合うんです……」
モモは泣きながら下を向いてぶつぶつと喋る。
僕はモモの両頬に両手を添えてグッと上を向かせる。
「モモ、下を向いたダメだ。常に上を向く。そうしないと気持ちが下がるでしょ。あと、自分がいなくなればとか絶対に言わない。分かった」
「で、でも……」
「でもじゃない。何なら鉄首輪に命令してもいい。もう、自分がいなくなればいいなんて絶対に思わないこと。分かった」
「は、はい……」
「モモは僕の大切な家族だ。たとえモモが呪われていようが関係ない。僕がその災いを払えばいいだけだ。例えどんな災いが降り注いできても僕は皆を絶対に守る。普通の人間になったとしても、命がけで守ればいいだけだ。皆も、モモにいなくなられたら嫌でしょ」
「嫌~! エナ、モモ好きだもん!」
「私もです!」
「……私も」
「……僕も……」
「ハオ様も!!」
「僕だって」
「ほらね。皆モモが好きなんだよ。だから、自分を追い詰めなくていいよ」
「は……はい……」
モモは僕の目を見ながら大粒の涙を流した。
「それじゃあ、僕は行くよ」
僕はモモの頬から手を放し、馬車を出ようとする。
「待ってください、ご主人様! 私も行きます」
「いや……だから……」
「私はご主人様を助けたいんです! だから手伝わせてください」
「モモ……」
「あの化け物がどこから来るかは分かりませんが、土の中にいるかどうかは分かります。奴らの攻撃手順も覚えました。私の身体能力なら咥えられる前に逃げられます」
モモは真剣な眼差しで僕の方を見てきた。
ーー本気の目……。
「分かった……。それじゃあ、モモにも手伝ってもらおう。いっしょにあの化け物たちを駆除しようか」
「は、はい! 頑張ります!」
「ナロ君。子供たちの面倒をよろしくね。これは君にしか頼めないから」
「はい! 任せてください。僕は戦えませんけど、子供達の面倒くらい見れます!」
「皆、おとなしく待ってるんだよ」
「はい!」×子供
泣いている子もいたが、どうやら了承してくれたようだ。
まだ子供なのに物分かりがいい。
きっと賢く育つんだろうな。
僕とモモは雨具を着て、キャラバンに走って向う。
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