第148話 タルピドゥ
「グラスさん、このキャラバンは何を目的にしているんですか」
「今回は、魔物の大量発生について調べていた」
「どの魔物ですか?」
「タルピドゥだ」
「タルピドゥ……。厄介な魔物ですね」
タルピドゥとは別名、土龍(もぐら)もどきと言い、地面の中で生活している魔物だ。
全量は小さい個体で30センチ、大きな個体で3メートルを超える。
主な食事は木の根や土の中の生き物だが、地面を出て人を襲う場合もある。
全身が硬い黒色のうろこに覆われており、ワニとドラゴンを合わせたような見かけをしている。
通常は四足歩行で移動し、土の中で生活している。
「タルピドゥがこの近くで頻繁に目撃されるようになったらしくてな。大量発生が起こる前に食い止めたかったんだが、間に合わなかったみたいでな。今、地道に駆除しているところだ」
「そうだったんですね。タルピドゥの駆除は大変だと聞きますが、やっぱりそうなんですか?」
「そうだな。地面にいる時が多いからな。しかも夜行性だ。昼間は身を隠し夜出てくる。人はどうしても夜は思ったように動けなくなるからな、中々進んでいない状況だ」
「なるほど……。でも、この状況はヤバいですね」
「ああ……。そうだな。昨日と今日、既に大量の雨が降り注いだ。土の中は水で大量に埋め尽くされているはずだ。いつ大量に出てきてもおかしくない。何なら今でも……」
『ドドドドドドド!!』
「!!」
「!!」
地面が揺れ始めた。
僕とグラスさんは全く力を入れていない。
僕たち以外の何かが地面を揺らしているらしい。
「ご主人様! 下です!」
モモが何かに感づいたらしく、僕に大声で叫んできた。
「下……」
僕は『ポロトの剣』に手を掛けて身構える。
グラスさんも、体から魔力の衣をまとい、臨戦態勢に入った。
『ドドドドドドドドド!! グラアアアアアアア!!』
「くっ!」
「グラスさん!!」
グラスさんの足もとから体長3メートルを超えるタルピドゥが姿を現し、大口を開けてグラスさんもろ共、天幕を突き破りながら空中へ飛んだ。
タルピドゥが得意とする餌の取り方だ。
生き物を加え、高く跳躍する。
地上から10メートルほど飛び上がり、頭の重さを利用して地面に衝突しながら自分の体重を咥えている生き物に与え殺す。
顎の力は強く、決して放そうとしない。
普通の人では決して逃げられず、地面に大の字を描くように血をぶちまけて死亡する。
タルピドゥは頭が異常に硬く、たとえ地面に打ち付けられても死なず、死んだ生き物を食す。
そんな魔物の巨大な個体にグラスさんは捕まった。
「あの、タルピドゥ! 10メートル以上跳ねているんだけど! どうなっているんだ!」
「ご主人様、まだ来ます!!」
「つ! 皆、僕の近くに集まって!!」
キャラバンの中には子供達もいる。
天幕の下から地面を突き破って出てきたと言うことはどこからでも狙われる可能性がある。
「モモ、どこから来るか分かる」
「いえ……。いるのは感じるのですが、どこから来るか、までは分かりません」
「そう……。モモと、ナロ君は子供達を抱き寄せて、絶対に放さないで」
「はい!」「わ、分かりました!」
グラスさんは未だに落ちてこない。
どれだけ高く跳躍したんだ。
「ぐあぁああああ!」
「う、うわぁあああ!」
キャラバンの周りで多くの冒険者達の悲鳴が聞こえる。
「他の所からも出たんだ。助けてあげたいけど、子供達が……」
「オラアアアア!!」
『ドグチャッ!』
「グラスさん! 大丈夫ですか」
「ち! しくじった。まさか、俺が先に食われるとはな」
グラスさんは真っ二つに割かれたタルピドゥを持って落ちてきた。
「すまねえな、コルト。巻き込んじまったみたいだ」
「いえ、こればっかりはどうしようもありません。グラスさんのせいじゃないですから」
「俺は、仲間たちを助けに行く。コルト達は早くここから離れろ。子供達には危険すぎる」
「はい、分かりました。子供達を安全な場所に移動させたあと、僕も戻ってきます」
「そうしてくれるとありがたい。人ではいつも足りないんだ」
「ぐあぁぁぁああ! リーダー!!」
「ち! 今、行く!」
『ドッツ!』
グラスさんは地面が抉れるほどの力で跳躍し、声のした方向に向かっていった。
「あ、あるじぃ……怖いよぉ……」
エナは珍しく震え、尻尾も耳を全く動かさない。
「大丈夫、僕が絶対に守るから」
――でもどうする。タルピドゥがどこから来るのか分からないんじゃ、先に攻撃できない。地面を攻撃しても、足場を失ったんじゃ逃げられないし。まず、第一に子供達を逃がさないと。
「御者さん。馬達を呼べますか」
「は、はい! よ、呼べます」
「馬車に繋がっていますかね」
「繋がっているはずです。縄は外していませんから」
「今すぐ呼んでください。それで脱出します。この人数を逃がすには馬車しかありません」
「わ、分かりました!」
『ピーー!』
御者さんは指笛を吹く。
すると、馬達が馬車と一緒に僕達のもとに駆け付ける。
だが……。
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