第147話 筋肉の見せ合い
『バギバギバギバギ!!』
――う、うわぁ……。本当に骨を食べてるよ。この音なんか耳に響くなぁ。皆、余裕でかみ砕いてるよ。エナまでかみ砕けているということは、僕の腕もかみ砕こうと思えばかみ砕けるのか。今までは手加減してくれてたんだ。
『バギバギバギバギ!!』
「す、すごい食欲だな。コルト、食費が相当掛かるんじゃないか……」
「そうですね……。お腹いっぱいまで食べてもらうと、金貨10枚は軽く超えます」
「1回の食事で金貨10枚か……。コルト、頑張って働かないとな」
「そ、そうですね。自給自足で賄って、足りない分は買おうと考えてます」
――実際は働かなくてもいいくらいお金があるんだけど……。でも、何があるか分からないから、仕事はするんだけど。
「そうか、それもいいな。獣人族は元より、狩猟をして生きてるからな。人みたいに働かせるのはあまり向かない。それに、コルトが育てれば相当強くなるだろうな」
「え? 何で、そう思うんですか」
「獣人族は親に似るからな。親が強ければ子も強くなろうとする。ま、家族の絆が強いんだよ。親も子を守るために身を犠牲にすることはざらにある話だ」
「僕が強いかどうかは分からないですよ。スキルも持っていませんし」
「なに! コルト、お前スキル持ってないのか! それで俺と力勝負をして負けなかったって……。いったいどんな体してるんだ」
「昔、ちょっと鍛えてただけですよ」
「俺のスキルは『剛健』だぞ。ちょっと鍛えただけで渡り合える力じゃないんだが……」
「おっさん! 主の体、すっごいの。バッキバキのゴツゴツなの~」
「なに! そうなのか! 服の上からじゃそうは見えないが本当なのか?」
「自慢するものじゃないので、何とも言えませんよ……。僕は普通だと思ってますけど」
「なら見せてくれ! 何なら俺のも見せる! 筋肉の見せ合いはこのキャラバンではよくやってるぞ! 男の象徴だからな!」
――ここにも、ハルンさんみたいな筋肉大好きな人種がいた……。これは断わっても、しつこくせがまれる奴だな。さっさと見せて、終わろう。
グラスさんは上半身の服を脱ぎ捨て、もりもりに盛り上がった筋肉を見せてきた。
――凄い、獣人族のハルンさんと同じかそれ以上だ。
グラスさんは腕に力を入れたり、違う体制を取ったりして筋肉の大きさを際立たせている。
「どうだ、コルト。良い筋肉だろ!」
「は、はい……そうですね」
――僕には筋肉に良いも悪いもない気がするのだけど。
「それじゃあ、次はコルトの番だ!」
「は、はい……」
僕が服を脱ごうとすると、女子組は最も遠くに、男子組は最も近くに移動した。
「なぜ、そんなに離れるんだ?」
グラスさんも疑問に思ったらしく、エナ達に聞く。
「主の匂い、強すぎるから~ これくらい離れないと、意識保てないの~」
「匂い? 俺には全く分からないが。まぁ、獣人族だから嗅覚が鋭いのか。だが、男子組の方は相当近づいてるが……どうしてだ?」
「……僕も、強くなりたいから……」
パーズがグラスさんの質問に答える。
「匂いを嗅いだだけで強くなるわけじゃないがな。強い者に引かれる獣人族の習性か」
僕は上着を脱ぎ、長袖のシャツを見せる。
「お……。シャツが浮き上がってるな。なかなかの筋肉だ」
「あんまりまじまじみられるのは好きじゃないんだけどな……」
僕はボタンを外していき、黒い内着だけになる。
「おおぉ……。す、凄い腕だ。そんなに筋肉が集まっていたとわ」
僕は最後に黒い内着を脱いだ。
「お、おお、おおおお、おおおおおお! か、神だ……」
グラスさんは膝から崩れ落ち、呆然としている。
――どうしよう。グラスさんがこんな反応をするということは僕の体は普通の体ではないと言うこと。あぁ、僕が普通ではないと証明されてしまった。
「ぼ、僕の筋肉、普通じゃないんですか?」
「普通なら、俺はこうならない。まさか、筋肉を見ただけで膝を付かされるとは思ってなかったぞ。無駄な脂肪が一切ない、全身完璧に磨き上げられた筋肉の集合体。それを神と言わずして何と表現すればいいんだ。言葉が見つからないぞ……」
「そんなに言われると少し照れくさいんですが……」
僕はその後、キャラバンにいる多くの冒険者さん達に見られ感激された。
しまいには拝まれる始末。
僕は恥ずかしくなってすぐさま服を着た。
――もう人前で脱ぐのはやめよう……。
僕は食事の後片付けを行い、キャラバンの現状を聞く。
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