第145話 キャラバンの中で食事
「何だ、お前ら。そんな所に固まりやがって。漏らしたのか?」
「い、いえ……。ち、ちびっただけです……」
男性冒険者達が団子状に固まり震えていた。
――何がそんなに怖かったのかな……。
「雨でよかったな。シミが目立たない。お前ら飯の用意をしろ、コルトの分も用意しとけよ」
「は、はい!」×冒険者
僕はグラスさんに天幕の中に連れ込まれる。
「あの、ちょっといいですか」
「何だ」
「僕の家族が馬車の中にいるんですけど、昼食を取っていないのでこの中で一緒に食事をしてもいいですかね?」
「何だ、コルトも父親だったのか。もちろんだ! 食事は多い方が楽しいからな!」
僕はグラスさんに開放され、天幕の外に出る。
「はぁ……。なんか、強引な人だな。強いのは手を握っただけで分かったけど、キャラバンの人たち大変そうだ」
僕は入口を出て馬車に向う。
「あ、コルトさん。さっきすごい地震がありましたけど大丈夫でしたか?」
「は、はい。大丈夫です。それより、了承を貰えたのでキャラバンの中に入りましょう。馬車も入れるくらい入口が広いので、そのまま来てください」
「分かりました」
「主~。さっき、ごごごってした~! 主の力~、びんびん感じたよ~」
「エナ、雨に濡れるから顔を出したらだめだよ」
「は~イ」
エナは窓から顔をひっこめる。
「それじゃあ御者さん、移動しましょう」
御者さんは馬車を移動させ、僕達はキャラバンの中に入った。
「馬車……。この馬車はあなたの馬車ですか?」
先ほど入口で剣を向けてきた冒険者さんが話しかけてきた。
「僕のではないです。僕が乗ってきた馬車ですよ」
「そうでしたか。えっと……、先ほどはすみませんでした!」
冒険者さんは頭を深々と下げる。
「え、いや……。何を誤ってるんですか」
「危険人物と疑い剣を向けてしまったことを誤っています!」
「そうですか。なら別に気にしないでください。あなたはただまっとうに仕事をしていただけなんですから」
「そう言っていただけるとありがたいです! では、失礼します!」
その冒険者さんはもう一度深くお辞儀をして、僕のもとから去っていった。
「何か……ここの人は皆、力強いな」
僕は気おされながらも、大きな天幕の張られた場所に移動する。
「皆、出ておいで。昼食を取るよ」
「は~イ!」×子供達
「お、元気のいい返事だな!」
天幕の奥で待っていたグラスさんが馬車の近くにまで歩いてくる。
「はは……、元気過ぎて困ってます」
「主~。この大きなおっさん、誰~?」
エナはグラスさんを指さして僕に聞いてきた。
「エナ、指をさすのはやめようね」
僕はエナの手を握って、下げる。
「ハハハ! おじさんはな。コルトの友達だ! さっき仲良くなったばかりだがな!」
「おっさん声デカい! 耳ガンガンする~!」
エナは耳の裏を持ち頭にくっ付けて、音を拾わないようにする。
「お、すまんすまん。いつもの癖でな。それにしてもコルト、皆獣人の子供だな。しかも鉄首輪が着いてるということは奴隷か?」
「そうです。いろいろあって家族になりました」
「そうか!! 大人数で大変結構!! 日々が楽しくて仕方ないだろ!!」
「そりゃあもう。毎日が楽しいですよ」
「主……。エナ達がいて楽しいの?」
「そうだよ。毎日が幸せいっぱいで溢れてるんだ」
僕はエナを抱きよせて頬ずりをする。
するとエナの顔が明るくなり同じように頬を摺り寄せてきた。
それを見た、他の皆も同じように頬を摺り寄せてくる。
「ハハハ!! 種族は違えど仲睦まじい親子じゃないか!!」
「おじさん! うるさい!」
「す、すまん……」
僕達は風通しがよく、雨を凌げるキャラバンの中で火を起こしてご飯を炊いた。
ご飯のお供はキャラバンの人たちが提供してくれた。
「うわぁ~! 肉いっぱ~い! 主~! 食べていいの~」
「グラスさんがお裾分けしてくれたんだよ。ちゃんとお礼しないとね」
「グラスさん! ありがとうございます!」×子供達
「さ、いっぱい食べてデカくなれよ!! お代わりはいくらでもあるからな!!」
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます!!」×子供達
子供達、ナロ君、モモ、御者さん、は肉にがっつく。
「すみませんね、グラスさん。ワイルドボワの肉を分けてもらっちゃって」
「いやいや。娘を助けてもらったんだ。こんなんじゃ恩は返しきれんよ! それにしても、マインはどこにいたんだ?」
「川に流されていました」
「な! 川に! って、どこの川だ。まさか……九頭竜川」
「はい。確かそんな名前だったと思います」
「昨日の九頭竜川に流されていたマインを助けてくれたのか……」
「はい。そうですよ。川の流れが速くて、ギリギリでしたけどね。助けられてほんとによかったですよ。あ、このワイルドボワ美味しいですね、臭みが全然ないです」
僕は干し肉以外の肉を食べるのは久々だったので余計に美味しく感じた。
「もぐもぐ……。ん? え、えっと……、グラスさん。何しているんですか」
グラスさんはおでこを地面に付け、四つん這いになっている。
それは、どう見ても土下座だった。
「あんたは、娘の命の恩人だ! 俺一番の感謝の仕方がこれしか思いつかん!」
――いや……神をあがめてるわけじゃないんだから。
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