第144話 大柄の男

「待て、お前……ここに何の用だ。今、この区域は危険な魔物が蔓延っている。通るなら大回りして森を抜けずに避けて進め」


「いや、えっと……、リーダーさんにお話ししたいことがありまして……」


「なに……。今、リーダーは取り込み中だ。そもそも、こんな日にここを訪ねてくるお前が怪しい……」


「え……。僕は怪しい者じゃないんですけど」


僕の目の前に剣と槍を突きつけられる。


――どうしよう。どうやったら敵じゃないと知らせられるんだろうか。


僕が返答に困っていると中の方から大声を張る何かが迫ってくる。


「リーダー! 落ち着いてください。マインさんは他の者達に探させますから!」


「いや、俺が行く! 俺が行かなければならないのだ!」


その男は数10人の冒険者さんに塞き止められているにも関わらず、力任せに押し進む。


――凄い力だ。他の冒険者さんを軽々と動かしているぞ。


「ちょっと! 入口にいるあんたたちも手伝って!」


「は、はい!」


「了解しました!」


僕に武器を向けていた2人はリーダーと呼ばれている大柄の男性に向っていく。


「放せ! マインがいないんだぞ! 昨日から見つかっていないんだ! なぜ探しに行ったらダメなんだ!!」


「仕事が終わってないからですよ! リーダーがいないと万が一の時我々では太刀打ちできません!」


「1日でも戻る! 1日で戻るから、探しに行かせろ!!」


「ダメです、1日でもここを離れられると困るんですよ!」


僕の視線の先には押して押されて、を繰り返している人たちがいる。


「あの……。すみません……」


「うろああああ!!」


「ぐああっっ!」


大柄の男が周りにいた冒険者達を全て跳ねのけ、入口の方に向ってくる。


「そこを退け! 今から娘を探しに行くんだ!」


大柄の男性は腕を引き、なぜか殴りかかろうとしてくる。


「ダメですリーダーその人は一般人です!」


「なに! ぐっ!」


殴り掛かる途中に言われて咄嗟に止めようをするも自分でも制御できていないのか僕の顔面に向ってその大きな拳を放ってきた。


「話は、ちゃんと聞いてくださいね……」


僕は大きな拳を、首を右に傾けただけで回避して左手で男の手首を掴み、懐に入ったところで右手で胸ぐらを掴んで背を向ける。


殴り掛かってくる力をそのまま使い、お辞儀するようにして大男を背中で持ち上げると、巨体が宙を舞った。


僕はそこで持っている手首を一気に引きながら、そのまま地面に叩きつけた。


「がはっ!!」


「す、すごい。あの一般人、リーダーを地面に叩きつけたぞ!」


「いったい何が起こったのか全く見えなかった」


後ろの冒険者さん達がざわついている。


――子供達がお腹を空かせているので、早めにことを済ませたい。


「えっと、グラス・ラントスさんですよね。マイン・ラントスさんのお父さんでしょうか?」


「な、なぜその名前を! あんた、マインを知っているのか!」


グラスさんはすぐさま立ち上がると僕の肩に両手を置いてきた。


グラスさんの凛々しい顔や黄色い髪色はどことなくマインさんに似ており、すぐに父親なのだと分かった。


身長は僕を優に超え2メートル近い。


真上から威圧されるようににらまれ、なぜか押しつぶされる。


「あ、あの……力強くないですか……」


「あ、すまない。気が立つと制御が難しいんだ。それで、なぜマインを知っている! 今どこにいるんだ!!」


こんどは肩をギュッと潰されるように力を入れてくる。


僕は横に広げるようにしてその腕を振りほどくと、また後ろからざわついた声が聞こえてきた。


「今、マインさんは村の病院にいます。無事ですから安心してください」


「そ、そうか。そうなのか! は、はぁ……。よ、よかった……」


グラスさんは地面にへたり込み、両膝を付く。


目からは大粒の涙を流して泣き崩れていた。


――そりゃそうか。娘がいなくなったんだから。僕だってエナがどこかに消えて、無事だと知らされたらこうなるよ。


「グラスさん。マインさんは無事なので、仕事に集中してください。マインさんもそう言っていました。病院にいるので絶対に安心ですよ」


「そ、そうだな。さっさと仕事を終わらせて、マインに合いに行かなければならない! そうだ、まだ自己紹介してなかったな」


グラスさんは立ち上がり、涙と雨を腕で拭うと自己紹介を始めた。


「俺の名前はグラス・ラントス。このグラスキャラバンでリーダーをやっている。冒険者の職種は戦士だ。よろしく頼む!」


「僕の名前はコルト・マグノリアスと言います。一応冒険者です。職種は剣士ですかね。よろしくお願いします」


グラスさんが右手を差し出してきたのでそれに合わせるように僕も右手を出す。


握手を交わすと、グラスさんはいきなり魔力を放出して思いっきり握り返してきた。


『ゴゴゴゴゴゴ!!』


地面が振動し、僕の立っている地面が割れる。


「り、リーダー! な、何で魔力を!!」


「さっきやられたんでな! 負けっぱなしは性に合わない!!」


「しょっぱなから、思いっきり握られるなんて……。思ってませんでしたよ!!」


僕も思いっきり握り返す!


『ドドドドドドドド!!』


僕が力を入れるとさらに地面が揺れ、辺りの木々が蠢き出した。


「うろああああ!! な、何が起こってるの!!」


後ろの方で何やらもめている声が聞こえるが、目の前の大男から手を放せられない。


「は! 中々の力だ!! さすが俺を投げただけはある!!」


「そちらも、凄い力ですね。僕も結構全力なんですけど!!」


すると、グラスさんの魔力がしだいに静まっていく。


「うん! 気に入ったぞ! コルト! 友達になろうぜ!」


「は、はい……?」


僕はグラスさんに肩を組まれ、キャラバンの中に連れ込まれる。

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