第143話 キャラバン

「マインさんの容体はよさそうですね」


「はい。先生も奇跡に近いと言っていましたよ。応急処置が完璧だったからだろうと言っていました」


「そうですか。僕の努力は無駄じゃなかったんですね」


僕は病院をあとにして宿に戻る。


「あるじ~。お帰り~」


「エナ、ただいま。おりこうさんにしてたかな?」


「うん! ずっとお勉強してたの~。皆の名前~、書いたんだよ~」


エナは、紙に書かれた僕達の名前を見せてきた。


「お、よくかけてるね。凄いぞ~」


「えへへ~。もっと褒めてもいいよ~」


僕はエナの頭を思いっきり撫でまわすと、エナははちきれんばかりに尻尾を振り、喜んだ。


他の子供達の頭も同じように撫でていき、御者さんのいる厩舎に向かた。


「御者さん。馬の様子はどうですか?」


「はい、昨日大雨に当てられていた割にはすごく元気です。今日も走れます」


「そうですか、よかったです。それじゃあ早速出発したいので、お願いできますか」


「はい、すぐに馬車を移動させますね。えっと、宿の入り口付近で待っててもらってもいいですか」


「了解です」


僕はエナ達と一緒に宿の入り口に集まる。


御者さんの馬車が宿をぐるっと回った反対方向からやってきた。


「主~、馬、来たよ~」


「そうだね。今日もあの馬さんに頑張ってもらわないといけないみたい」


馬車は僕達の前で止まる。


「さぁ皆、馬車の中に入ってね」


「は~い」×子供


子供達は馬車の中にそそくさと入っていく。


モモとナロ君も馬車に入り、出発の準備は整った。


「御者さん。昨日の川を上るように走って行ってください。キャラバンがあると思うのでそこまでお願いします。そこのリーダーさんが昨日溺れていた子の親御さんらしくて、病院にいると教えに行きたいんです」


「分かりました。あの川を上っていけばいいんですね」


「お願いします」


「お安い御用ですよ」


僕が馬車の中に入ると、馬が足を動かし、馬車が進み始める。


「あるじ~他の勉強無いの~。エナ、文字覚えた、計算も覚えた~。他にも何か勉強した~い」


「え……。もう覚えたの。でも、エナに必要な勉強はほとんど教えたんだけどな……」


「なら、次これやる~」


エナは馬車の後ろにしまってあった、木剣を取り出した。


「剣術か。確かに、扱えたらいいけど……。エナは戦う必要ないんだよ、それでも剣を振りたいの?」


「主の為になるのなら、使えるようになりた~イ」


「なら、パーズみたいに毎日やらないとダメだよ。剣の腕はすぐになまっちゃうからね」


「は~イ!」


エナは笑顔で返事をして木剣を掲げた。


「こら、危ないから馬車の中で木剣は持ったらいけません」


「はい……」


エナは尻尾を垂らし、申し訳なさを顔に出す。


「分かってくれたんだね。偉い偉い」


僕はエナの頭を撫でる。


すると嬉しそうに耳を動かし、尻尾を振った。


その後、僕たちは昨日の川付近にやってきた。


「今日も川の水が濁ってる……。近づき過ぎるのは危険だな」


雨は未だに降り続いており、止む気配はない。


「何かいましたか? コルトさん」


「いえ……。人影は見当たりません。進みましょう」


「了解です」


僕たちは川を上っていく。


雨で人が見えにくく、モモの鼻でも人のにおいが雨に掻き消されて、探すのが難しい状況だ。


それからどれほど川を上っただろうか。


日が見えないので時間の経過が分からず、御者さんに尋ねたところ、3時間ほど走っているらしい。


出発したのが午前8時なのでもう昼頃らしく、子供達もお腹を空かせていた。


――どうしよう。ここら辺は雨を凌げる場所がほんとに無いんだよな。平地で、洞窟もないし……。かといって馬車の中で火を起こすわけにもいかないしな。


僕が悩んでいたころ、御者さんが何かを発見した。


「コルトさん、大きな天幕が見えます。多分、キャラバンだと思われます」


「ほんとですか」


僕は窓を少し開けて外を見る。


「ほんとだ。隠れやすいように濃い緑の天幕が見えますね……。よかった。僕達もあそこで休憩と目的の男性がいるか調べましょう。御者さん、近づいていってください。きっと警戒されますので僕が先に話を付けてきます」


「分かりました」


馬車が天幕に近づくにつれて大きく、数が増していった。


大きな天幕が計6張りあり、その全体像は1つの村に見えた。


「結構大きなキャラバンですね。有名な団体でしょうか」


「分かりません。僕はキャラバンに関してはあまり詳しくないので……。まぁ、とりあえず話を付けてきます。了承がもらえたら呼びに来ますので、外で待機していてください」


「了解です」


僕は『ポロトの剣』を腰に掛け、雨具を着ながらキャラバンに近づいていく。


「放せええええ!! 俺はあの子を探しに行かにゃならんのだあああああ!!」


「リーダー!! ダメです!! 今、我々は魔物の調査に来ているんですよ!! リーダーがここから離れられると困るんです!!」


「うるせえええー! あの子がおらんのに、仕事なんてできるかあああ!!」


――あ……聞く手間が省けた。絶対あの人だ。あの人以外ありえない。


キャラバンにつく前に大きな声が響き渡っており、僕はマインさんの親父さんだと一瞬で決めつける。


僕はキャラバンの入口らしき柵に近づいていく。


すると、2人の冒険者らしき人に止められた。

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