第142話 中性的な顔立ち
「まだ雨が降っていますね……」
「でも昨日よりは弱まっているように思えます」
「そうですね。僕、病院に行って少年の様態を見てきます。ここから病院までは近いので、御者さんは出発する準備を整えておいてください」
「分かりました。馬達の体調を見てきます」
僕は雨具を着て宿から病院まで走った。
地面がぬかるんでおり、靴は既にドロドロだが気にしていられない。
病院に到着し、靴の泥を少し落としてから中に入る。
「おはようございます」
「あ、昨日の……。まだ村に滞在していらしたんですね」
「昨日は雨が酷くて村を出られなかったんです。今日は雨が弱まっているので、探しに行けます。その前に少年の容体と聞いておこうと思いまして」
「えっと、昨日の少年は少年ではなくて、ですね……」
「はい? それはどういう意味でしょうか」
「昨日の少年は女性でして、少女というべきなんですよ」
「え……そうだったんですか。全然気づきませんでした。声も少年に近かったので、てっきり……」
「まぁ、性別はこの際関係ないですね。こちらです」
受付にいた看護師さんは僕を先導し、ある部屋に連れて行ってくれた。
「あ……。えっと……あなたが助けてくれたんですか」
病室にいたのは入院服を着た少年……、ではなく少女がベッドに横たわっていた。
短い金髪に二重だが切れ長の目、眉毛は少し太めで男性っぽい、中性的な顔立ちでベッドに横たわり肩まで布団をかぶっているので本当に性別が分からなかった。
――女性と言われないと気づけなかったよ。でも僕心臓マッサージをしてたんだよな、膨らみがなかったから女性だって気づかなかったのか……。
「よかった。生きてたんですね」
「はい。あなたのおかげで助かりました。ありがとうございます。寝たきりの状態ですみません……」
「いいんだよ。君が助かったくれて本当によかった」
「あなたの声が、ずっと聞こえてたので私は生きてられたんです」
「そうなんだ」
「私の名前はマイン・ラントスと言います。キャラバンのリーダー、グラス・ラントスの娘です」
「僕の名前はコルト・マグノリアスと言います。キャラバン……。やっぱりそうでしたか。予想はしてましたけど、川の近くに設営してたんですか?」
「はい……。私達のキャラバンは魔物を討伐するのを生業とした、冒険者達の集まりなんですけど、この付近で魔物が大量に発生していると聞きつけてやってきたんです」
「確かに大量発生しているみたいですね。僕も数日前にゴブリンの大量発生に見舞われました」
「そうだったんですか……。それなのに生きてらっしゃるなんて、強いんですね……」
「いや、運が良かっただけですよ。良い剣を手に入れたので、そのお陰です」
「剣だけじゃ人は強くなれませんよ……」
マインさんは少し暗い顔をする。
「マインさんはどうして川に流されてたんですか?」
「え、えっと……恥ずかしいんですけど。私も冒険者になりたくて……。雨の日にも鍛錬を欠かさずにしてるんです。昨日も川の近くで鍛錬をしてて、父に見つかりそうになったので川の近くまで行って岩の陰に隠れてたんです。父には見つかりませんでしたが、岩が濡れてそのまま私も川の中に落ちてしまって」
「そうだったんですか。お父さんはきっと心配していると思います。僕、探してここまで連れてきますね」
僕は病室から出ようとする。
「あ、あの! 父には内緒にしてもらえませんか……」
「え……何でですか?」
「私、冒険者になるのが夢だと言いましたよね。父は……それを反対しているんです」
「そうなんですか。でも、キャラバンにはいさせて貰えているんですよね」
「はい……。でも、一番安全な場所にずっといることが条件なんです。魔物が現れても戦わせてもらえず、見ることも許されていないんです」
「きっとマインさんが大切だから過保護になっているんですよ」
「その過保護さが異常と言うか、息苦しいと言うか、ですから……せっかく解放されたので、少しくらい自由な日々を送ってみたいなと思ってまして」
「そう言われても……子供がいなくなるなんて、そんな苦しい思いをマインさんのお父さんにさせるわけにはいきませんよ。僕も親の気持ちは少し分かるので、娘が消えるなんて考えただけで頭が真っ白になります」
「コルトさんも結婚されてるんですか」
「いえ、結婚はしてませんよ。数人の子供達を引き取った里親です」
「なるほど、里親……。まだ若いのに凄いですね」
「マインさんも若いじゃないですか」
「まぁ、そう見えますよね……」
「え? 子供じゃないんですか」
「私、こう見えて14歳なんですよね……。成人一歩手前なんですよ」
「え、なんか……すみません。失礼な発言ばかりしてた気がします。僕、ずっとマインさんを少年だと勘違いしてましたし……」
「皆、間違えます。気にしないでください。父が悪い男が寄らないようにと男っぽい格好と髪型にさせられているんですよ」
「なるほど、確かに過保護ですね。僕はそこまで許容しませんから」
「やっぱり異常ですよね」
「でも、放っておけないので探しに行きます。仕事にも支障が出るでしょうし、魔物の被害も心配です」
「そうですよね……。仕事をほったらかしにして私を探すような人ですから、私が見つからなかったらずっと探し続けるはずです。一応キャラバンのリーダーですし、統率を取ってもらわないと……」
マインさんはため息をついて、少し笑う。
「コルトさん。父を私の所まで連れてきてください」
「分かりました。見つけてここまで連れてきますね」
「よろしくお願いします。父は九頭竜川を上った所にキャラバンを待機させているはずです。川を上っていけば多分会えると思います」
「了解です。今日中に連れてこれる分かりませんが、日にちが経っても必ず連れてきますから。安心してください」
「はい、それまでは自由な時間を楽しんでますね」
マインさんは八重歯を見せて笑う。
僕は笑い返し、病室を出た。
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