第141話 九頭竜川(くずりゅうがわ)

10分後……。


「う……うん、ふぅ~~はぁ~~良く寝た、ってナロ君どうしたの?」


「あ、コルトさん……。すみません、色々ありまして」


ナロ君はエナ、マル、ミル、に関節技を決められている。


いったいどこでそんな技を覚えてきたんだ。僕一度も見せてないんだけど。


「それじゃあ、僕は少年の様子を見てくるよ。ナロ君、そのまま子供たちの面倒をよろしくね」


「は、はい……」


僕は雨具を着て馬車から出て病院に向う。


僕は病院の入り口までやって来て扉を開け、中に入った。


――まだ数分しか経ってないはずだから、どうなるか分からないけど、現状を看護師さんに聞いてみよう。


僕は受付にいる看護師さんに話しかけた。


「すみません。少年の容体が知りたいんですけど、教えてもらえますかね」


「まだ、治療中なのでどうなるか分かりません。現状から考えると相当厳しい状況にいると思います。命の保証は……まだできません」


「そうですか……。あの、治療費はいくらくらいかかりますか?」


「最低でも中金貨1枚は掛かるかと思います」


「分かりました。大金貨1枚払っておきます。余ったら、少年に渡してください」


「ちょ! 大金貨って桁が違いますよ」


看護師さんは目を丸くして大金貨を僕に返してきた。


「最低でも中金貨1枚は掛かるんですよね。それならこれくらい掛かる可能性もあるじゃないですか」


「そうですけど……助かるかどうかもまだ分からないんですよ」


「助からなかったら、家族を探す捜索金か、少年を埋葬する埋葬金に使ってください。僕はここにずっといる訳にもいきませんから」


「えっと、父親かご兄弟の方ではないんですか?」


「いえ、僕は川でおぼれていた少年を助けただけです。彼とは何のつながりもないですね。ですが、もっと早く気づいてあげられていれば、あそこまで酷い状態にはならなかったと思います」


「川でおぼれていた……。あの、今、凄い雨ですけどほんとに川で溺れていたのですか?」


「はい……。そうですけど」


「この村から一番近くを流れている川は九頭竜川と言って、昔、九つの頭を持ったドラゴンが這った跡だと言われているんです。普段は穏やかな川なんですけど、雨が降ると何者にも塞き止められないほど強い激流に変わるんです。その流れに飲み込まれて亡くなった方は数知れず、雨の日は決して近づいてはいけない場所なんです」


「そうだったんですか。すみません、全く知りませんでした」


「この村の子たちは皆、子供のころから川の怖さを教えられています。ですから雨の日には川に絶対に行きません。なので、あなたが連れてきたあの子はこの村の子供ではないはずです」


「なるほど。それだけでも、親御さんを見つけられる可能性が上がりますね。僕たちは川の傍を馬車で上りながら、親御さんを探してみます。旅人かキャラバンらしき人がいだら声を掛けてみます」


「そうしてあげてください。今頃、きっと辛い思いをしているはずですから」


「分かりました」


僕は病院を出る。


先ほどよりも雨が酷くなっており、集中豪雨が長時間、降っている状況に近い。


「これじゃあ馬車も上手く走れないな。雨が少しでも弱まるのを待った方がいいか」


僕は馬車に戻る。


「御者さん。この雨の中じゃ、馬はうまく走れませんよね」


「そうですね。さすがに雨が強すぎます。もう少し止まないと馬も走らせられません」


「ですよね……」


――僕たちが動けないんだ。親御さんたちの方も身動きが取れないはず。それなら雨がやんでからでも十分さがせるはずだ。今は様子を見るしかないな。


「御者さん、休憩できる場所を探しましょう。馬達も雨に当てられて寒そうにしてますし」


「分かりました。近くで雨を避けられそうな場所を探しましょう」


「お願いします」


僕は馬車に乗り込む。


「あるじ~、今からどこに行くの~」


「雨が治まるまでこの村に待機かな。皆は暇かもしれないけど我慢してね」


「エナ。勉強するから、平気~」


エナは紙と鉛筆を取り出して、床に置く。


「偉いな、エナ。勉強するのはとても大切だからね。自分から進んでやるなんてすごいよ」


僕はエナの頭を撫でる。


「えへへ~ でしょでしょ~」


エナは僕に撫でられたいから勉強をしているのかもしれないが初めはそれでもかまわないと思う。


勉強が好きなら勉強すればいいし、したくないならしないでもいい。


平仮名さえ書けて読めれば、日常では困らないはずだ。


エナを見て他の子も続々と勉強し始める。


馬車の外で大雨が降っているため、人の声や馬車の車輪音などは全て掻き消され、ざーーーッという音だけが僕の耳に届いていた。


馬車は移動し、大きな木の下にやってきた。


この場で雨が弱まるの待つらしい。


その後、結構待ったが一向に雨はおさまらない。


おさまるどころかさらに激しさを増し、今日は雨がずっと降り続けると考え、場所を移動する。


「コルトさん、村の宿に着きました。私は馬達を厩舎に入れてきますね」


「分かりました。皆、宿に移動しよう」


「は~い!」×子供


僕達は宿に到着した。


今日は早めに宿に泊まり雨が過ぎ去るのを待つ。


宿の一室を借りて食事を取り、午後9時ごろに眠った。


そして午前7時頃に目を覚ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る