第140話 病院の先生に少年を預ける

それができるのは、きっと雨で外にいる人がいないからだろう。


動いていた馬車はしだいに止まっていく。


「コルトさん! 着きました!」


僕は少年を抱き上げて、馬車を飛び出す。


病院の入り口で馬車は止まっていた。


馬車の入り口が病院の入り口の目の前に丁度あり、僕は最短距離で病院に入る。


「すみません! 少年が川でおぼれたみたいなんです! 助けてあげてください!」


「ま! 大変! すぐ先生を呼んできますね!」


看護師さんは大慌てで持ち場を離れ、病院の奥の方に駆けていった。


「大丈夫だ、大丈夫だ! 君は助かるよ!」


看護師さんが駆けていって30秒足らずで男の人がやってきた。


白衣を着ているため、きっとお医者さんなのだろう。


「今すぐ治療します!!」


「はい! よろしくお願いします!」


僕は少年をお医者さんに託した。


お医者さんに少年を渡し終えた僕は全身から一気に力が抜ける。


膝から崩れ落ち、尻もちをついた。


「はぁはぁはぁ……。僕はやれるだけやった。あとはあの子しだいだ……」


僕は足に力を入れて立ち上がり、病院を出て馬車に戻った。


「御者さん、病院の前に馬車を置くのはやめた方がいいので場所を移動しましょう」


「そうですね。馬車を置ける場所に向います。コルトさんはどうしますか?」


「僕も行きます。川からずっと動きっぱなしなのでさすがに疲れてしまいました。馬車の中で少し休みます」


「分かりました。なら、馬車に乗ってください」


僕は馬車に乗りこんだ。


「主~ タオル~」


「ありがとう、エナ」


エナは乾いたタオルを僕に手渡してくれた。


僕の体は川の水と雨に濡れたままの状態だった。


動きっぱなしだったので、汗もけっこう搔いている。


ずぶ濡れのズボンと上着を脱ぎ、パンツ1枚になる。


「う……!」


女子は顔を背け、鼻をつまんだ。


「そ、そんなに臭いの……。なんか辛いな……」


「はぁ~~!」


「って、こっちはなんか視線が痛い……」


男子は逆に尊敬の念を瞳に宿し僕を凝視してきた。


あまりにも反応が違い過ぎる。


嗅覚はみんな大して変わらないはずだから、臭い訳じゃないのか。


僕は乾いたタオルで水と汗を拭き取り、女子が見ていないのなら下着も変えれると思い、すぐさま変えた。


やっと濡れた服から解放され、動きやすくなり体温も正常に戻っていく。


「ぷふぁ~! あ、主~! こんな近くで着替えたらダメ! 漏れちゃう!」


「ご、ごめん。外は雨だし、ここでしか着替えられなかったんだよ」


エナは息をずっと止めていて苦しかったのか目に涙を浮かべ、僕に尻尾を叩きつけながら怒る。


「……僕も、師匠みたいな体になれるかな……」


パーズは未だに目を輝かせながら僕を見てきた。


「なれると思うよ。僕は人間だけど、パーズは熊の獣人さんだから筋肉が付きやすいはずだ」


「……どうやったら、なれる? ……」


「ん~~。いっぱい食べて、たくさん寝て、毎日体を動かしていればなれると思うよ」


「……分かった。頑張る……」


パーズは両手を握りしめ、気合いを入れていた。


「僕は少し休むから、皆は出来るだけ静かにしててね。ほんの10分間だけでいいから……」


僕はすぐさま眠りに落ちる。


「スンスン……スンスン……。す、スゴ……、主のタオル……」


「ちょ、エナ。はしたないですよ。で、でも……私もちょっとだけ……」


「モモさん! ダメです、止まれなくなりますよ! でも……主様、寝てるしいいのかな……」


「……お姉ちゃん……なんかすごい……くらくらするよ……」


「これはまずい状況ですね。すみませんがこれは、投げ捨てます!」


「あ!!」×女子


『べちゃり』


「ナロ~ エナのタオル投げた~!」


「わ、ちょ! エナ、嚙みつかないで」

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