第136話 年季の入った馬車

川岸にたどりついた瞬間。


『ぶるるるるるる』


「うわっ!」


エナが体を震わせて、水飛沫を飛ばした。


長い髪はまだ水気が残っているが尻尾や体はタオルで拭いたような状態になっている。


「主~」


エナはせっかく水気が無くなったのに、びちょぬれの僕にまた抱き着いてきた。


「さ、体を拭いて服を着ようね。そのあとにご飯を食べよう」


「は~イ!」


僕とエナは焚火の方に向う。


「あ、コルトさん。ご飯がいい感じに炊けました」


ナロ君は濡れタオルを使って飯盒を持ち上げ、僕に見せてくる。


「うん。いいんじゃないかな。僕たちはすぐ戻ってくるから、先に食べててもいいよ」


「いえ、そうはいきませんよ。コルトさんが来るのをちゃんと待っています」


「そ、そう……。分かった、すぐ戻ってくるから」


僕とエナはタオルで水気を拭き取り、新しい服を着た。


その後皆のもとに戻る。


『ぎゅるるるるるるる~~』×子供


子供達はお腹がすき過ぎて、皆涎を垂らしている。


ナロ君が待てと言ったのか、皆はご飯と干し肉をじっと見つめながら我慢していた。


「あ、主様! は、早く!」

「……お腹が減った」

「……ぎゅるるる……」

「コルト!! まだダメなのか!!」


「このままじゃ食べられないからね。今よそってあげるから、もうちょっと待って」


「ぎゅるるるるるるる~~!」×子供


僕は3つの大きめの飯盒で炊いたご飯を7等分して、紙皿に盛りつけていく。


御者さんの分はおにぎりにして持っていく。


しゃもじとスプーンは馬車に乗っている間に作っておいた。


冒険バックに入っていた小さいナイフで木を削って作ったのだ。


「よし、これでいい」


「主~早くちょうだい~」


「はいはい、皆に配ってくからね」


僕は皆の前にご飯と数枚の干し肉を持った紙皿を置いていく。


「それじゃあ、いただきます!」


「いただきます!」×子供


皆、遊んだ後だからか、とんでもない速さで食事を進めていく。


「この食欲なら、米俵なんてすぐ無くなっちゃうな」


僕たちは食事を済ませ、からからに乾いた下着を回収した。


お腹が満たされて眠くなったのか、子供達は木陰で昼寝をしている。


寝ている間はとてもおとなしいので、安心して見守れる安息の時間だ。


「本当に子供は元気ですよね。僕達もまだ若いですけど、ここまで活発に動けませんもん」


ナロ君はハオの頭を撫でながら、僕に話しかけてくる。


「そうだね。でも、病弱で動き回れない子に比べたら凄く恵まれていると思うよ。僕の村にもたまに病弱の子が生まれてくるからさ、そういう子を見るといたたまれなくて……。きっと荒野を駆け回りたいだろうに」


「確かに。病気は辛いですよね。直せる病気ならまだしも直せない病気だったら、運命を恨むでしょうね」


「受け入れるしかないと思うよ。そうしないと前に進めない。あと誰かの差さえも必要だね。どんなにつらくても支えてくれる誰かがいれば、がんばれるんだよ」


「支えですか……。僕もそんな存在になれますかね」


「なれるさ。というか、ナロ君は子供たち、モモ、僕の支えになっているからね。僕はナロ君を凄く頼りにしているんだから、もっと自信を持っていいよ」


「は、はい!」


僕とナロ君、モモの3人はその後子供たちの面倒を見ながら、そこはかとない話をして時間を潰す。


午後3時頃、気温も下がってきたので移動し始める。


皆を馬車の中に乗せ、僕は御者さんに話しかける。


「御者さん、馬の方と馬車の点検は終わりましたか?」


「はい、問題ありません。荒い運転をしていた割には損傷個所が少なかったので、助かりました。この馬車も年季が入っていますからね」


「そうなんですか。凄く綺麗に見えますけど……」


「見かけだけですよ。私の祖父の時代から走っているのでガタがきてます。本当に長持ちなんですよ。祖父が大切に使って来たからだと思うんですがやはり50年以上も走っていると替えが効かない部品も出てきてしまったので、もうすぐ買い替えようと思ってるんです」


「そうなんですか。50年も走っているなんて……。僕の大先輩ですね。御者さんは仕事をされて長いんですか?」


「スキルを貰った10歳の頃からやっています。長い付き合いですが、お客さんを危険な目に合わせる分けにはいきませんから」


御者さんは少し悲しそうな眼をしていた。


「大切に使ってあげてくださいね。馬車も長間使ってもらえて凄く嬉しがってますよ。魔物に襲われたり、盗賊に襲われたり、したら馬車はすぐ壊されますからね。これだけ綺麗に持っていると言うことは長い間安全にお客を運んだ証拠ですよ」


「本当にそうですね。良い物は長持ちと言いますけど流石に頑張り過ぎですよ。でも、まだ走れるようだったら、地元の近場を走る専用の馬車にしたいと思います」


「そうしてあげてください。僕達がこの馬車にとって最後のお客ですね。それなら絶対に負傷するわけにはいきません。最後の最後で仕事に失敗したら、後味悪すぎますからね」


「配慮しながら安全運転を続けていれば、問題ないですよ。森に入らなければそこまで多くの魔物に出会う頻度は下がりますから」


「ですね。それじゃあそろそろ、出発しましょう」


「はい」


僕と御者さんは前座席に乗り馬を走らせる。

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