第134話 溶けるほどの暑さ

馬車に揺られて数時間後。


「暑い……。こりゃ、人が死ぬ暑さだ。御者さん、そろそろ休憩しましょう。木陰か川の近くに馬車を寄せてください」


「分かりました」


御者さんは川の近くにある木の陰に馬車を寄せる。


「ここで昼食にしましょう。丁度正午ですし、午後2時過ぎまで休憩ですね」


「そうですね。この暑さじゃ、馬も満足に走れませんから」


僕は馬車の前座席から降りて、馬車の中にいる皆に話しかける。


「皆、休憩するから出ておいで。各自水分補給を忘れないようにね」


子供達は各自の革水筒を持ち、馬車の中から出てきた。


「主~。馬車の中、暑すぎ~」


「そうだね。小窓を開けてるとはいえ、この暑さは変わらないか。でも、どうしようもないから、耐えてもらうしかないね」


「エナ~ 暑いの苦手~」


「僕も苦手だよ。近くに川があるから、そこで涼もう」


僕は飯盒にお米を入れ、川の方に向っていく。


皆は僕の後ろについてきた。


「よし。ここで火を起こして、ご飯を炊こう。おかずは干し肉でいいかな」


川の近くで、落ちている枯れ草や細い木の枝を拾い集める。


僕は集めた木の枝をテントの形に立て掛け、枯れ草を内に詰める。


残った枯れ草を球状にして、火打石で着火する。


火種をテント型に立て掛けた枝の隙間に入れ、小さな焚火を作った。


焚火の端に大きめの石を2個置いて飯盒が使えるようにする。


「よし。これで火の準備は完了。次はご飯の準備だ」


僕は川の水でご飯を洗い、お米の二倍量の水を飯盒に注いだ。


飯盒を焚火の方に持ってきて、火にかける。


「よし。あと3回同じ工程を繰り返してと……」


残りの飯盒も同じようにして火にかけた。


「あとは待つだけだ。子供たちは……どこ行ったかな」


僕は辺りを見渡す。


パーズは剣の素振りを行っていた。ミルは僕のすぐ隣にいる。


エナとマル、ハオは川辺で遊んでいた。


「主~。川の中に入ってもいい~?」


「ちょっと待って。僕も近くに行くから。ナロ君、飯盒から水が漏れ出したら重しを乗せて、焚火を強くしてくれる」


「分かりました」


僕はミルの手を取り、3人の近くに向う。


「主様……」


「ミルは川がやっぱり怖いかな」


「はい……」


「僕にしっかりと捕まっていれば大丈夫だから」


ミルは頭を縦に小さく振り、僕の手を強く握る。


「主~早く~」


「はいはい。今、行くよ」


僕は川の様子を確かめるため、ギリギリまで近づいた


「流れは穏やかだな。深さは……中央にまで行かなければ僕の膝あたりか。子供たちにとっては少し深いかな」


「主~ 早く入りたい~ 暑くて溶けそう~」


「マルも、水で遊びたいです!」


「ハオ様にかかればこんな川、余裕で渡れる!」


「川は危険だから、子供だけで遊んだらダメだよ。モモはハオとマルの手を持ってあげて。僕はエナとミルの手を持つから」


「分かりました。2人ともおいで」


「はぁ~い!」×マル、ハオ


「それじゃあばんざいして服を脱ごうか。そのままだと服まで濡れちゃうからね」


「は~イ!」「……うん」


「水着があればよかったんだけど、生憎今は無いから子供たちは下着のままでいいか。僕はズボンを膝までたくし上げれば良いし、モモは丈を上げればいい」


僕はエナのパーカーとショートパンツを脱がす。


ミルのショルダースカートと長袖の白シャツを脱がす。


僕はズボンの裾を捲り、ひざ上まで持ってくる。


先に僕が川に入り、具合を確かめる。


「うん……。やっぱりそこまで流れが速くない。エナとミルも川に入って問題ないよ」


「うわぁ~イ!」


『ザッバン!』


「ちょ、エナ。飛び込んだら危ないでしょうが」


「でも大丈夫だったよ~。水、冷た~い」


エナは頭までずぶ濡れになり、燥いでいる。


僕が手を握っていなかったらどこまででも行ってしまいそうだ。


「ミル~はやくはやく~! 冷たくて気持ちいよ~!」


「え、エナちゃん。ちょっと待って……。川、怖いよ……」


ミルは未だに川に入れないでいる。お風呂は入れたのに川はダメみたいだ。


ミルは川と陸地の狭間で出たり入ったりを繰り返していた。


「ミル、大丈夫だよ。僕が傍にいるから。何があっても絶対に助けてあげる。だから勇気を出して飛び込んでみて」


「主様……。わ、分かりました……」


ミルはギュッと目を瞑り、川に向って飛び込んだ。


『バッシャン!』


「ひゃい!」


飛び込んだ瞬間、川の水が相当冷たかったのか、ミルは身を縮こます。

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