第93話 休憩で村による
僕はエナを抱きかかえ、御者さんの馬車がある広い平地へ向かった。
到着すると、馬車の中にいる皆を起こし、夕食の準備をする。
「コルトさん。薪を集め終わりました。これだけあればいいですか?」
ナロ君は一晩の間、焚火を絶やさないほどの薪を集めてくれた。
「うん、それだけあれば十分だよ」
焚火を囲いながら、干し肉を食べる。
少し物足りないが、子供達は美味しそうに干し肉を頬張っていた。
僕たちは夕食を食べ終わり、すぐ夜を越そうと思っている。
僕は先ほど寝たので、何ら問題なく起きられそうだが子供たちはもう眠たそうだ。
――野宿するのは危険だ。火を絶やさないようにして、周りに気を付けていないと。襲われたらひとたまりもない。僕が対処できる相手ならまだしも強い相手が出てきたら大変だ。
「主~、エナ~ 眠たい…」
「眠たいなら寝るのが一番だよ。僕が守ってあげるから安心して」
「ん…分かった…」
エナは僕の腕にしがみ付きながら眠る。
2つのテントのうちモモのいる方へエナを連れて行き、手渡した。
寝ているはずなのに、僕の腕を離そうとしない。
僕はしかたなく、焚火の前で座りながらエナを抱き、見張りを続けた。
ぱちぱちと焚火から火の粉が舞い、暗夜を赤色に染める。
その日はとても星が綺麗で、キラキラ輝いていた。
「痛っつ…、何か掴むの強くないか…。そんなに怖いのかな…」
エナの顔に目をやると、健やかな眠りではなさそうだ…。
余っている左手を使い、頭を撫でる。
少しでも不安を取り除いてあげたかった。
夜は無事に過ぎ去り、朝日が昇った。
僕の視界もうつらうつらしていたが日光を浴びたおかげで多少なりとも目を覚ます。
焚火の火は消えかかり、白い煙が立ち上っている状態だった。
「さてと…、もう朝だ。皆を起こして出発しないと…僕も馬車の中でちょっと寝たいし…」
僕達は野宿の後始末を終え、馬車で移動し始める。
馬車内で眠ろうと思っていた僕だったが…あまりに元気過ぎる子供たちに揉みくちゃにされ、眠るどころではなかった。
「コルトさん寄れる村がありますけど、どうしますか?」
「そうですね…寄ってもらえますか…、ちょっと寝たいので…」
馬車の窓ガラスに映る僕の顔には酷いクマが出来ていた。
御者さんは村に寄り馬車を止める。
「ナロ君と、モモ…。悪いけど子供たちを連れて村を見てきてくれないかな。少しだけ仮眠してから僕も向かうから…」
「分かりました、ご主人様」
「はい、子供たちは僕達に任せて少し休んでいてください」
「ありがとう、凄く助かるよ」
――舐めてたな…、まさか同じ場所にいるのがこれほど大変だとは…。子供たちの飽きる速度が尋常じゃなく早い…。何か暇をつぶせるものがあるといいんだけど…。この限られた空間で何が出来るだろうか…。読み書きは覚えてもらった方がいいから、教えたいけど勉強好きじゃなさそうだしな…。いや…まず僕が今は眠らないと…。
コルトは眠りに落ちた。
10分眠り…、コルトは目を覚ます。
「ん~~。よし、眠気はさめたな。便利な体だよな、少し寝れば1日起きられるんだから」
コルトは限りなく睡眠をとらなくても生きて行ける、変わった体をしていた。
寝た方が勿論いいが、寝なくてもそれなりに行動できる。
どうしても眠たいときは数分眠れば眠気は解消され、また1日を普通に起きていられる。
「さてと…僕も村を物色と行きますか…」
僕は馬車の扉を開け、外に出る。
「あれ…、コルトさんもういいんですか?」
御者さんは驚いた顔をして僕の方を見る。
「はい、もう十分回復しました。これで今夜も見張りが出来ます。ちょっと、村の中を見てきますね」
「はい、私はここで待っていますので。出発するときになったら言ってください」
「分かりました」
僕は『ポロトの剣』を左腰に付け、歩いていく。
「それにしても…こんなに静かな村…珍しい…」
――立っている建物自体は新しい、人が少ないという訳では無さそうだ…。
「ん…なんだあれ…」
僕が目にしたのは1か所に集まっている人たちだった。
「あ、主~。見て見て~。伝説の剣だって~~、伝説って何~」
エナが大きく僕の方を向いて手を振る。
少し歩いた所にある広場に、多くの人が集められていた。
どうやら訪問販売が来ているらしい。
訪問販売とは商人たちの仕事の1つだ。
今回はその中で広く知られている武器商人がこの村に来ているようだ。
「それにしても…伝説の剣って、いかにも胡散臭い武器だな…」
僕は武器をいくどとなく壊してきた。
多少なりともいい武器と悪い武器の違いくらい分かる。
ドリミアさんの武器を言い当てたくらいだ。
ちょっとくらいは自信を持って良いだろう。
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