村までの道のり偏

第92話 プロローグ

王都を出発してから数時間たち、既に日も落ちて暗くなっている。



エナは、馬車の中で爆睡していた。


「ん~…主、主~どこ…」


馬車の揺れが止まった振動で、浅かった眠りから覚めてしまった。


周りを見渡すとモモ、ナロ、パーズ、ハオが眠っている。


「主…と、マル…ミル…どこいった…」


エナは馬車の中をもぞもぞと動き扉の取っ手を握る。


「うー…硬い、何で動かないの…」


馬車の扉には鍵がかかっており、外さないと開けられない仕組みになっていた。


鍵と言っても、コックを横に動かすだけの簡単な作りで、開け方を知っていればだれでも開けられる。


エナはそれを知らないので、ガチャガチャと取っ手を動かすだけだった。


少しして、扉が開く。


エナは取っ手を握っていたので外に投げ出されそうになった。


「おっと、危ない。エナ、起きたんだ。エナもおしっこする?」


コルトの両足にはマルとミルの姿が。


「危なかったのですよ。主様~」

「うん…危なかった…」


「2人が服汚したくないからって言うから手間取っちゃったんでしょ。…それでエナは?」


「おしっこ…する…」


「そう、ここら辺は危ないから、すぐすませよう」


コルトはエナを抱きかかえ、マルとミルを外より安全な馬車の中に移す。


「主の…村…まだ~」


「そうだね、出発したばかりだからまだ遠いかな」


エナは僕の腕に体をこすり始めた。


「あーハイハイ、おしっこしたいんだったね。ちょっと待って…」


僕は急いでエナのズボンを降ろし、濡れないようにする。


「あとは自分で出来る?」


「うん…恥ずかしいから…主、あっち行ってて…」


「分かった」


――排泄時は一番無防備になる…、この瞬間を狙われるのは危険だ…。だから出来るだけ2人で行動しないと…。


「コルトさん。そろそろ道も見えなくなってきたんで、少し先の平地で野宿しましょう。馬も大分疲れてますんで」 


茂みにいる僕へ、御者さんは話しかけてきた。


「分かりました! すぐ行きます!」


――さすがにこの暗さで進むのは難しいよな。野宿か…、出来れば村の宿でも借りたかったけど、仕方ない。


「きャー!」


「!」


エナの甲高い叫び声が聞こえ、僕はすぐさま駆け寄る。


「主~! ニョロニョロ!」


エナは僕の腕に飛び込んできた。


相当怖い物を見たのだろう。


エナの指差す先には…蛇のようにうねる生き物がいた。


「これは…ミミズだね…。エナ、大丈夫ミミズは怖くないよ。ミミズさんはとっても優しいんだ」


地面には掘った跡がある。


どうやらエナは習性に従っておしっこに土を掛けたのだろう。


その時掘り返してしまったと考えられた。


「ニョロニョロ…怖くないの…」


「うん、怖くないよ。エナはこれからいっぱいミミズさんと触れ合わないといけない。今から慣れておこうか」


――僕の実家は農家なんだ、ミミズにビビっていては仕事を一緒に出来ない。エナなら余裕だと思ってたけど…、やっぱり知らない生き物は怖いよね。


エナは僕の腕から離れ、地面をうねっているミミズを指先でつつく。


「うねうね~、うねうね~」


何もしてこないのを知ると、驚くほどビビらなくなった。


そしてエナは指先で摘まみ上げる。


「エナ…何する気…」


「はぁ~ 」


エナはミミズを口元へ持っていこうとする。


『子供は何でも口に持っていこうとする、何が何でも阻止せよ!』


おばちゃんから習った育て方の教えを僕は一瞬で思い出し、エナの口元を手で押さえる。


「み…ミミズさんは生で食べないから…」


――あっぶな…。ミミズは調理すれば食べられるけど、生で食べさせるわけにはいかないよな。


「はぶぅっ♡」


エナは狙いを変え、僕の腕へ噛みついてきた。

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