第89話 永遠の別れかもしれない…

「それじゃあ、ハルンさん、ルリさん、僕達は村に向います。えっと…住所を教えておかないといけないですね。今、住所を書くのでちょっと待っててください」


僕はショルダーバッグから一切れの紙とペンを取り出し、村の名前をすらすらと書いた。


「『この村に連れて行ってください』と言えば、御者さんが乗り換え先などを教えてくれますから」


僕は紙切れをハルンさんに渡す。


「わ…分かりました。3か月後の12月の終わりに帰ります。それまで、なんとかして冒険者に慣れようと思います」 


「そうですね。初めの3ヶ月は慣らしで冒険者をやってみて、自分たちにあう依頼を見つけてください。その後、少しずつ難しい依頼にしていき、最後に1000万円貯められたら大成功です。もし1000万円貯められなくても、焦らないでくださいね。僕に言ってもらえれば何とかします」


「わかりました。頑張ります…」


ハルンさんは目線を下に向けて俯く。


「そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。会おうと思えばいつでも会えるんですから。いいですか、会うためにはハルンさんとルリさんが生き残らないといけないんです。依頼中にもし死にそうな場面に直面したら迷わず逃げてください。例え獣人族の神様が『立ち向かえ』と言っても僕が許しません。鉄首輪に銘じておきます。死にそうになったら逃げる。いいですね」


「は、はい。分かりました」


「一つだけ例外を入れておきます。仲間が死にそうだったら助けてあげてください。助けられる場合だけですが…。もし、誰かを助けられるのであれば積極的に助けてあげましょう。そうすればいずれ助けた恩は巡り巡って帰ってきます。逆に悪い行いをすればそれも回り巡って帰ってきます。僕の祖父から聞いた言葉なので、同じように2人へ伝えます」


「肝に銘じておきます…。コルトさんの顔に泥を塗る分けにはいきませんから…」


「私も…頑張ります」


ハルンさんは面を上げ、僕をじっと見つめる。


ルリさんも僕から決して目線を逸らさない。 


どうやらしっかりと意思を固めたようだ。


ーー良い顔をしている。これなら心配いらないな。


「皆もハルンさんと、ルリさんに言っておきたいことがあったら今、話しておくんだよ」


僕は、子供達の背中を押し2人の方へ行かせる。


僕は出来るだけ聞かないようにした。


理由は分からない。


子供達は泣いて抱き着いたり、噛みついたり…てんやわんや…。


もうすぐ成人のモモとナロ君も2人のお世話になっていたのか、泣きながら話している。


僕があれだけ逃げろと言っても、死ぬときは簡単に死ぬ…。


格上相手とばったり遭遇して、殺されるなんて…よくある話だ…。


低ランクの依頼をこなしている途中にドラゴンなんかが出てくるかもしれない…、でもそんな空想を考えても仕事は出来ない。


~かもしれない…、そう言ってどれだけ挑戦から逃げて来たか…。


これほどまで人の行動を止めてしまう言葉があるだろうか…。


死ぬかもしれない…、無理かもしれない…、逆に言えば生きるかもしれない、出来るかもしれないになる。


何だってそうだ、負の逆には正がある。


光の裏には影がある…、人は良い部分だけを見ていたい生き物だ。


正解があるなら正解を知りたい…、物事の明るい部分だけを見たい…、逆に間違いは無駄、物事の暗い部分は絶対に見たくない…。


それは本当にそうだろうか…。


間違いは無駄なのだろうか…。


暗い部分は見ない方がいいのだろうか…。


自問自答しても答えは出ない…。


一生を掛けて自分なりの答えを見つけるつもりだ…。


自分が死ぬときに、何を思って死ぬのか…。


僕はそれがすごく気になる…。

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