第85話 才能という言葉が嫌い
「何かあったら訪ねて来な…。今回のお詫びもかねて話を聞いてやろう。あと言い忘れたていたが、今回の修繕費は全てギルドが持つから君は何も払う必要はない」
「そうですか…ありがとうございます…。でも…もうこの部屋には来ないと思いますよ…」
「さぁ…それはその時にならないと分からない…」
僕達はウルフィリアさんの元から離れた。
――何で僕はこんなにイライラしているんだろう…。才能って言葉が耳に引っかかる…。スキルに選ばれるのも才能…。上手く使いこなせるのも才能…。何でもかんでも才能で片づけられるのは…嫌だ…。僕が勇者のスキルを使いこなせるようになるまでどれだけかかったと思ってる…。いや…『怪我せずに使えるようになれたと思っている』か。多分…勇者のスキルをほとんど使いこなせていなかったんだろうな…。
「ご主様…よかったんですか…」
モモは表情を固めて僕に聞いてくる…。どうやら怖がらせてしまったみたいだ。
「うん…、これでよかったんだ…」
僕はギルドの特別室から多くの人がいる受付にまで戻ってきた。
ギルド内はドラグニティによって破壊された床や、僕が壊してしまった壁の補修を行っていた。
「あ、あの! 助けていただいてありがとうございました!」
僕達が戻って来るや否や、先ほどドラグニティに絡まれていた女性は頭を下げてお礼を言ってくれた。
「い…いえ、僕は何もしてませんよ。それに、お礼ならあちらの方達に言うべきなのではないですか?」
僕は地面から引き上げられている冒険者さん達の方に目を向ける。
「はい、あちらの方々には先ほどお礼をさせていいたので…」
「そうでしたか…。それじゃあ…僕はこれで…」
「あ、あの! エールを一杯飲んで行きませんか。お礼に奢らせてください」
僕は女性に引き留められ、断るのも悪いと思い了承した。
「何でこうなった…」
「いや~! さっきのはスカッとしたぜ! マジで! いったい何をやったんだ」
「ほんとほんと、あのクソうぜー貴族様をぶっ飛ばしちまうんだからよー!」
僕の周りには、その場にいた多くの冒険者達が周りを囲んで飲み惚けていたのだ。
僕も一杯の木製ジョッキを持ち、少しずつ飲んでいる。
――ここのエールも冷えてておいしいな…。でも昼間から飲むのは…すこしダメな男っぽくて嫌だな…。お茶にしてもらえばよかった…。
「はぁ…丁度お昼時だし、皆も何か食べてこうか。ハルンさんとルリさんはこの場が僕達と最後の食事ですね。昼食代は僕が出しますから好きなだけ食べていいですよ。僕たちはこのあと、村に帰りますから今日の夜から2人で冒険者生活を頑張ってください。食事がすんだあとにギルドの依頼を受けてもいいですから」
「わ…分かりました」「寂しいですけど…仕方ないですね」
ハルンさんとルリさんは瞳に涙を浮かべ、縮こまってる。
「もう会えないみたいな顔しないでくださいよ。いつでも会おうと思えば会えるんですから」
――さてと…昼食は何にしようかな…。
僕はテーブルに置かれているメニュー表を見る。
大きな文字で定食と書かれていた。
――定食か…美味しそうだな。でも種類が多くて決められない…。外れもあるかもしれないし…、当たりを引きたいから…この質問をするか。
「すみません、定食の中で何がお勧めですか?」
僕は飲んでいる冒険者さん達に聞いてみた。
「そうだな…、昼はやっぱり唐揚げ定食じゃねえか」
「ここのから揚げ定食のから揚げはめっちゃデケーからな腹持ちが良いぜ。子供にはお子様ランチでもいいんじゃねえか?」
武骨な冒険者さんから的を得た助言を貰い、僕達の昼食は決まった。
「なるほど…、分かりました。教えてくれてありがとうございます」
僕は座っている席から立ち、先ほどの定員さんの元へ向かう。
ドラグニティから攻撃を受けた店主のおじさんは、店の奥であくせくと働いていた。
どうやら大事には至らなかったようだ。
「店主さん無事だったんですね」
「はい、ウルフィリアさんにもらった、ハイポーションのお陰です」
「そうですか…、ほんとに無事で良かったです。えっと…、それじゃあ唐揚げ定食5人前とお子様ランチ5人前お願いしてもいいですか」
「はい、勿論です。量はどうしましょうか? 小、中、大、特大までありますが…」
「そうなんですか…。どうする皆?」
僕は体に抱き着く子供たちに聞いてみる。
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