第84話 才能の塊
「主~! たっちゃダメ! まだ傷口ぺろぺろしてない」
「いや、僕の腕を舐めるなんて汚いよ。だから舐めなくていい。えっと…新しい包帯を巻かないと…」
「ちょっといいかな」
「へ…、ウルフィリアさん。 どうして僕のところに…」
「私に腕の傷をちょっと見せてくれ」
「え…。はい…分かりました…」
コルトはウルフィリアに右腕の傷を見せる。
「ん~…これくらいなら、通常のポーションで問題ないか…」
ウルフィリアは着ている白ローブのポケットから緑色のガラス瓶を取り出した。
そして蓋を外し、瓶と同じ色の液体をコルトの傷へ掛ける。
「つ! 傷にめちゃくちゃ沁みますね…」
「傷口に病原菌が繁殖していた証拠だ。即効で利くポーションではないが、包帯で巻いておけば、傷口はしだいに塞がる」
さらにウルフィリアはポケットから包帯を取り出し、コルトの腕に巻き付ける。
「ありがとうございます。えっと…どうしてウルフィリアさんがここに? 滅多に部屋から出てこないという噂なんですけど…」
「今回は非常事態だと思ったからな。私が出なければと思ったんだ。だが…あの男はあれほどまでに非常識な男だったとは…。昔はもっと可愛げのある子供だったんだがな…」
「そうなんですか…。僕は何が起こったか全く覚えてないんですけど…。確か…ドラグニティがあのおじさんを吹き飛ばして…、ウルフィリアさんがギルドの奥から出てきたあと…、ドラグニティが僕達の方に手を向けた辺りから記憶が飛んでるんです…」
「そうなのか…。ところで…君はいったい何者だね。どこかで見た覚えはあるんだが…。ん~~、うまく思い出せないんだ。名前は?」
「僕の名前は、コルト・マグノリアスと言います」
「え…、あ! 思い出した。ゆう…っと危ない…。私の首が飛ぶところだった…」
「あ…。そんな魔法ありましたね…。でもウルフィリアさんに覚えてもらってるなんて光栄です。勇者アイクさんと一時だけパーティーを組んだ魔法使いラタニア・ウルフィリアさんに出会えるだけでもすごいのに…存在を覚えていて貰えたなんて。サイン貰っていいですか?」
「あ…ああ、別に構わないが…。それより…この場は目立つ。場所を変えよう」
「へ… そうなんですか?」
僕が周りを見渡すと、多くの冒険者達さんたちはこっちの方を見ていた。
「うわ…ホントに目立ってる…。あんまり人の眼は気にしないようにしているけど…さすがにこの人数で気にしないのは無理だな…」
僕達はウルフィリアさんに連れられ、ギルドの特別室へ招かれた。
「改めて…今回の件…誠にありがとう…。ウルフィリアギルドのギルドマスターとしてお礼を申し上げたい」
「いや…その…僕頭を下げられるような行動しましたか…? 身に覚えが全くないんですけど…」
「ウルフィリアギルド内に設置された魔道具に先ほどの映像が残っているはずだ。それを見て貰おうか」
「え…は…はい、分かりました…」
僕は身に覚えのない攻撃を放たれところから、ドラグニティを吹き飛ばす場面までを映像で見た…。
「嘘…。僕…ドラグニティとこんな話してたんですか…。全く覚えてないんですけど…」
「そうみたいだな…。だが…なぜだ、今の君にドラグニティを吹き飛ばすほどの力があるというのか?」
「いやいや…僕にそんな力は無いですよ、……多分ですけど。だって相手はSランク冒険者のドラグニティですよ…」
「それにしてはあの時の圧力があまりにも強力だった。あれは魔法やスキルの類ではない」
「ギルドにいた皆さんが床に倒れ込んでいる映像ですか…。そんな力知りませんよ…」
「後ろの獣人族の彼女も感じただろ、コルト君の圧力を…」
「はい…感じました。今でも体がぞくぞくしてます…。すごい力でした」
ルリさんは長い尻尾を振りながら答える。
「やはり…君は周り一帯の人物を床に押し付けるだけの圧力をかけたらしい…。敵味方関係なく…」
「えっと…それで…。何でしょう…僕…帰ってもいいですか」
「ああそうだな…。君の力はいったい何なのか気になるところだが…、この映像からは君の剣さばきがえげつないという事実しか分からない。ドラグニティから攻撃を一度も食らわないとは…凄い才能だな」
「いえ…才能なんて、僕には無いですよ…」
「そうかね…、私には才能の塊にしか見えないんだが」
「才能があろうがなかろうが…僕には関係ありません…。行こう…皆」
僕は徐に立ち上がり、特別室を出て行こうとする。
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