第83話 コルトの怒りは、頂点まで達している…

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」


ウルフィリアギルド内部ほぼ全ての人物は地面へうつ伏せになり倒れる。


それはドラグニティも例外ではない。


もちろん、コルトの後方にいる獣人たちも同じ状態だ。


ただ1人、ウルフィリアのみがその場にかろうじて立てている。


「な…何だ…この圧力…。『重力操作』じゃない…。何かに押しつぶされる…、魔法なら私のスキル『消失』の効果で影響を受けないはず…。ならば、いったい…何なんだ。それにあの者は…」


ウルフィリアは、感じた覚えのない威圧を放つ少年を凝視し、顔を必死に思い出す。


「グァぁァァ…『重力操作!』はぁはぁはぁ…おい…お前、いったい何をした?」


ドラグニティは自身のスキル『重力操作』を使い、身の周り一帯の重力を軽減させる。


そのお陰か、ドラグニティはその場で何とか立ち上がる。


「何をした? 今は私が質問をしているだ…。貴様の言うゴミとは何だ…」


「くっ、 俺が質問してんだから答えてればいいんだよ! 答えねなら、死んどけぁ。 オラァァアアーーー!」『エアキャノン』


ドラグニティはコルトに両手を向け、考えるのを止めた。


そして…ただ『エアキャノン』を放ち続けた。


「オラオラオラオラ!」


あまりの威力に辺りは台風並みの風圧が押し寄せた。

木々が倒れ、石が金属の鉄板を突き破るほどの風を巻き起こす台風だ。

その場に伏せている者でも全身に力を入れていないと簡単に吹き飛ばされてしまう。


「ドラグニティ、もうやめろ。跡形もなくなる!」


ウルフィリアは叫ぶ、強風によって足が前に行かない。

魔法の類はうち消せても、魔力の無い現象はうち消せないのだ。


「アハハハハハ! 俺に逆らうからだろうが~~~! 」


ドラグニティは正気を失い、気の赴くままコルトへ攻撃を続ける。


「いったい何をしているんだ…、空気の弾を放っている意味が分からない…。今の時代はこれが強いのか…。何とも…滑稽だな」


「はぁああ ふざけるなぁあ 何で立ってるんだよ。どれだけ放ってると思ってる!!」


コルトは『ポロトの剣』を光の速度で振るいドラグニティの放つ『エアキャノン』を全て切り裂いている。


あまりの速さに剣筋は全く見えない。


ただ、ギルド内の照明に剣身が一瞬照らされ、チカチカと光っているだけだ。


「この剣は中々…うむ。良い品を買ったな…。小年、常日頃から攻撃の対処を怠るな。あとは任せるぞ…」


『エアキャノン』はコルトへ当たる寸前に『ポロトの剣』で相殺され、ただの風となり両脇へ流れていく。


そしてコルトはさらに一歩前へ左足を踏み出した。


「グアァぁぁァァぁぁァァ!!! どうなって…、こっちは…『重力操作』使ってんだぞ! なんで俺が押しつぶされなきゃなんねえんだ!!」


「早く答えろ…。いったい何がゴミなんだ…。僕にはゴミが全く見えないんだ…。教えてくれ…。いったいゴミはどこに在るんだ…」


「ひ!」


コルトは、瞳の奥まで黒く染まり、表情筋は死んでいる。怒りが頂点まで達している。

獣人達はコルトの顔を見れず、どうなっているのかですら理解できない。

先ほどから雰囲気が変わっている。

今までのコルトではないと直感で理解し、近づこうにも地面に押し付けられ全く動けず、近寄れる雰囲気ではない。

声を掛けても、強風に煽られてコルトの耳まで届かない。


コルトが2歩目を出したとき、唯一立っていたウルフィリアですら地面に押し付けられ、状況の把握が全くできていない状態だった。


「ふ…ざけるな…。俺が…地面に押し付けられる…なんて…許してなるものか…」


『身体強化』『重力操作』『脚力上昇』


ドラグニティは魔法とスキルを『無詠唱』で扱い、その場に立ち上がる。


「貴方は…ドラグニティ・バトラさんですよね…。Sランク冒険者の…」


「そうだ。俺が、ドラグニティ・バトラ様だ…。最年少でSランク冒険者になった天才なんだよ…。その俺様が…、田舎者ごときに膝を付かされるなんて…あってなるものか…」


「最後にもう一度だけ聞きます…。いったい…どこにゴミはあるんですか…」


「はぁ、ちゃんと見てろよ…ゴミが揃いもそろってゴミくずみたいな服着てるじゃねえか…、お前の後ろによ!」


コルトはその場でドラグニティへ向って頭上から真下に『ポロトの剣』を振るった。


ドラグニティは未だに『エアキャノン』を放っていた。


コルトの剣が振りきられたとき…、全ての『エアキャノン』を吹き飛ばし、ドラグニティの体もろとも、ギルドから遥か遠くへ吹き飛ばした。


ウルフィリアギルドの壁は縦一直線に切り裂かれ、青い空が見えている。


「グァう…。痛い……あれ…いったい…」


コルトは、片膝を付きながら右腕の傷に左手を持って行った。


昨日、折れた剣が刺さったときの右腕の傷は大きく開いている。


右腕から床に血だまりを作るほど、大量の血液が流れ出していた。


「コルトさん!!」「コルト君!」「主~! 」「主様!」「主様…!」「…コルトさん…」「コルト!!」「コルトさん!」「ご主人様!」


今まで伏せていた獣人たちは、一斉にコルトへ駆け寄った。


「え…皆…どうしたの…。凄い髪型になってるけど…」


「そんなのどうでもいいです! 早く腕の血を止めないと!」


「あ…昨日の傷が開いたのか…。でも何で…。あれ、僕いつの間に『ポロトの剣』を抜いたんだ…」


コルトの右手には未だ『ポロトの剣』が握られていた。


「覚えてないんですか…」


「え…いったい何を? あ、あのSランク冒険者のドラグニティなら覚えてるよ。でも…もうどこかに行ったみたいだけど…。というか…ギルドの中滅茶苦茶だね…。床にこんな破壊跡があるなんて、いったい誰がやったんだ。冒険者さん達の憩いの場を壊しちゃって。特にあの壁…さっくり切り裂かれてるよ。酷い行いをする人もいるんだな…」


コルトは『ポロトの剣』を鞘に戻し、立ち上がる。

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