第82話 ゴミ…? いったい何を見てゴミと言っているんですか…

「いったい何を言ってるんですか…。ゴミ…。どこにゴミがあるんですか…」


僕はドラグニティが何を言っているのか分からず…、辺りにゴミが無いか見渡す…。


それでも…ゴミなど見当たらない…。


いったいドラグニティは何を見てゴミだと言っているんだ。


「おい! ドラグニティ、貴様の冒険者登録を剥奪する!」


ウルフィリアさんは、ドラグニティに言い放つ。きっと何か嫌な予感を察したのだろう。


「あ~、マジか~…俺、冒険者じゃなくなっちまった~。でも…まぁいいや。『冒険者の職業は俺に合ってなかった。だから止めた』と改ざんしておこ~。さてと~ゴミは掃除しないとな。王都の環境を綺麗に保つのも~貴族の務めだ」


ドラグニティは右掌を一度額に当て、首を横に振った。


そのまま右掌で前髪をつむじの方へかきあげ、口角を釣り上げる。


「ドラグニティ! 貴様の一家が大成したのは誰のおかげだと思っている。私のギルドで問題を起こしたら、ただじゃ済まさんぞ」


「うっせーな婆…、自分のギルドならゴミでも守るのかよ~。ゴミを守る元貴族とか~ありえね~。ほら…早く移動しないと、ゴミの頭が吹っ飛んじまうぞ~。なぁ、婆~」


「いったい…何を言っているんですか…。いったい何がゴミなんですか。僕には分らないので…教えてください」


僕はどこにゴミがあるのか…本当に分からなかった…。だから…ドラグニティに質問した。


「は…? 獣人族なんて皆ゴミだろ。俺の実家でもゴミみたいに扱ってるぜ。あいつらどんな乱暴に扱ってもいい顏するんだわ~。マジでゴミなのに、ちょっと優しくすると簡単に尻尾振りやがるんだ、後でどうなるかも知らずによ~。尻尾振ってるゴミの頭を吹っ飛ばすのがさ~、今めっちゃはまってるんだよね~。マイブ~ムってやつ、ありゃ快感だわ~」


その場にいた者すべてが両手を握りしめ、憎悪により身を震わせていた。


だが…コルトは違った…。


「あ…主…どうしたの…」


コルトは、体に抱き着いている子供達を1人ずつゆっくり自分の後方へ移動させる。


「お〜 なんだなんだ! どうしたんだよ。まさかゴミに同情してんのか~。どうせお前、奴隷商の上手い口車に乗せられて全財産使わされたんだろ〜。たぁー! バッカだなー。バカすぎる〜。これだから田舎者は嫌だよな! ちゃんと教育受けてるのかよ~ 足し算引き算分かりますか~なんてな。 服装とかマジで田舎臭すぎるし。 あのな~田舎者。獣人族の奴隷ってのはな、この国でゴミなんだよ! いや、ちょっと違うな、上流階級にとってはゴミか。でも田舎者だから仕方ないな~ 田舎に住んでいるやつすらゴミなんだから。ゴミどうし通ずる何かがあったか~、さすがゴミ」


コルトは何も言わず、下を向きながら棒立ちになっている。


その後ろにはコルトの様子がおかしいと感じている9人が立っている…。


先ほどとは全く雰囲気が違い、本当に同一人物なのか疑ってしまう。


エナはコルトに近づこうとするも、マルとミルがエナの手を掴み頭を横に振る。


「あ~、婆! この田舎者は誰だ、今からこいつと遊ぶけどいいよな。おい田舎者、死んでも文句は言うなよ〜。あ…死んだら文句もいえないのか。まぁ安心しろ、お前が死んだら後ろの奴らもゴミみたいにこき使ったあと、同じところに送ってやるから」


「ドラグニティ! いい加減にしろ。お前の尊敬している男はそんな行動をとるわけないだろ!」


「おいおい、婆…。いったい、いつの話をしてんだ。俺はもう15だぞ。立派な大人だ。そんな物語の人物を言われても何も響かねえんだよ。じゃあな〜田舎者。恨むんなら俺の誘いを断ったあの女を恨め」


コルトは未だ動かない。


『ポロトの剣』の柄を握りもしない。


「そうだな…、どうやって遊ぼう(殺そう)かな~よし決めた。やっぱりスカッとするから、頭を吹き飛ばして遊ぼう。『空気圧縮』のスキルでお前に攻撃する。名前を付けるのならば『エアキャノン』単純だが、その名の通り空気の大砲だ。レッサードラゴンくらいなら余裕で体を貫通する威力だぜ。このスキルで王都近くのレッサードラゴンを刈りつくしたのは楽しかったな~。たった50頭倒しただけでSランクに上がれるなんておもってもみなかったぜ~。評価甘すぎるよな~。 あ、もう俺はここの冒険者じゃねえのか。まぁいいや、どうせ他のギルドで雇ってくれるっしょ。何たって、レッサードラゴンを無双できる『エアキャノン』は『空気圧縮』と『MP自動回復』のスキルで無限に放てるんだわ。マジ便利だよな! どっちも50億したんだぜ~、金で無双するの楽しいよな~」


レッサードラゴンとは…ドラゴンの亜種。

ドラゴンから知性を抜き取ったような存在だ。

ドラゴンと同等の硬い皮膚を持ち、並大抵の攻撃では傷など付かない。

『エアキャノン』は、言うなればドラゴンの皮膚を貫通するほど、威力の高い攻撃なのだ。


それを無限に放てるドラグニティは右掌をコルトに向ける。


MPを消費し、『無詠唱』の効果で『エアキャノン』と唱えずとも空気の砲弾を発射した。


『ドンッツ!!!』 


空気の弾が発射される際、ギルド内部に轟音が鳴り響き、多くの冒険者達の鼓膜を劈いた。聴覚の高い獣人族は皆耳を塞ぎ、その場に伏せる。


ギルドにいた者は皆…耳を塞ぎ、瞼を閉じていた…。


悲惨な光景を見たくなかったからだ。


だが…戦いに興味をそそられてしまうのは冒険者の嵯峨…。


悲惨な光景になっていると思っていても瞼を開けてしまう。


皆の瞳に映ったのは…その場に立ち尽くし…いつの間にか剣を抜いている少年の姿だった。


血しぶきどころか…体に外傷の1つもない。


「は? おい…何で倒れてないんだ。当たってるだろ、どう考えても…。ん? お前…いつその剣を抜いた…」


「あの…、ゴミって何を見て…ゴミと言っているんですか…。教えてください…」


コルトは足を一歩踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る