第81話 ギルドマスターのウルフィリア…

「俺のスキルは『無詠唱』『重力操作』『空気圧縮』『超耐久』『MP自動回復』『体力回復』全部、レアスキルだぜ~いいだろ~。強いスキルは、金で買えるんだからいい時代だよな~。貧乏人は貧乏人らしく糞神から貰った1つのスキルを使って一生懸命に生き延びてくれよ~。まぁ、これ以上はスキルボードがいっぱいで追加できないんだがなって、あ~もうこの汚いオッサンには聞こえてねえか。何で頭を上げないんだろうな~。このまま窒息死しないといいけどな~、勝手にこの木偶の坊が地面に倒れ込んでいるだけだからな~」


ドラグニティは冒険者を踏みつけている足をさらに押し込む。


床の木材は破損し、冒険者さんの頭は地面へめり込む…。


僕はドラグニティを止めに入ろうと思い、身を前に出そうとした。その時…。


「おい! それ以上は止めろ。ここは私のギルドだぞ…、ドラグニティ…」


ギルドの奥から現れたのは、ギルドマスターのウルフィリアさんだった…。


――僕は冒険者新聞や伝記などでしか顔を見た覚えはなかったが…この世に存在していたんだ…。


僕にとっては雲の上に存在しているような人で、自分の目に映っていると現実かどうかを疑ってしまう。ウルフィリアさんはアイクさんと同じくらい有名な冒険者だった人だ…。


でも…僕の想像していたよりも大分小さい…。


「ち! やっと出てきやがったか…婆…、その醜い姿をいつまで晒す気だ。貴族の恥さらしがよ~」


「どっちが貴族の恥さらしだ、分をわきまえろ」


「るっせ~な…。婆はもう貴族じゃねえから、俺の方が立場は上だろ。貴族の俺を指図してんじゃね~よ」


「これ以上このギルドで暴れるのならば、貴様の冒険者登録を破棄する。これで二度とこのギルドで冒険者にはなれない。私のギルドで冒険者登録を破棄された貴族など、信用問題に関わるが…それでもいいのか」


「はぁ…、分かってねーな婆…。俺は別に暴れてねーだろ。60点の女をちょっとナンパして、オッサンに絡まれたから、正当防衛でぶっ飛ばした。むさ苦しい男が集まってきたから、虫かと思って潰した。ただそれだけだろ。それで冒険者登録を破棄するなんて言われてもな~。まぁ別にこのギルドじゃなくても冒険者登録は出来る。それに俺の情報なんていくらでも改ざんできる。これぞ貴族の特権だわな~。 ハハハハハ!」


ドラグニティは詫びる気など一切無いらしい…。


それどころか両手を広げて高らかに笑い始めた。


「ガキが…。人様に迷惑をかける貴族がいてなるものか…」


ウルフィリアさんは歴戦の猛者といっても過言ではないオーラを全身から放ち、ドラグニティを睨みつける。ウルフィリアさんから距離のある僕の肌にも、矢が刺さるような刺激が襲う…。


「あ~ 婆~なに威嚇してんだよ。俺とやるのか~。別にいいぜ~ 昔みたいにへこたれるようなガキじゃなくなったってところを見せてやってもよー!!」


ドラグニティは、先ほどから婆と言っているが…、ウルフィリアさんは全く老けておらず、逆に幼い少女の姿をしていた。


深い青色の短髪に黒色の瞳。大きな目は怒っている為か細長くなり、眉間にしわを寄せている。小さいがスッと通っている鼻に子供っぽく軟らかそうな唇。


身長は145㎝くらいだろうか。結構低い。

服装は体全体を覆うように大きめの白いローブを着ている。

首元にはウルフィリアギルドのエンブレムが装飾されておりカッコいい…。

両手首を後ろに回し、腰辺りで握っている。

そのまま少し前かがみになっており、全体像を見るとお婆さんのようだ。

顔と姿勢は全く合っておらず年齢のズレを感じる…。

子供なのか…お年寄りなのか…どっちだろうか…。

アイクさんと冒険者パーティーを組んでいたって言うのに…、どうなってるんだ…。

老けないスキルなのか…でもそんなスキル知らない。

ウルフィリアさんの情報があまりにも少なすぎて、僕の頭は新しい情報でいっぱいになっていた。


「やっぱり出会って最初の挨拶は大事だよな~婆!」


ドラグニティはウルフィリアさんに掌を向け、ニヤリと笑う。


それに対してウルフィリアさんは全く動かない。


「ぶっ飛べ!」


『ドンッ!!!』という衝撃音と共に、風圧は辺りを巡った。


僕の髪も激しく靡く…。


「何をしている…、当たったら危ないだろ」


空気の砲弾はウルフィリアさんの突き出した右掌に相殺される。


「ち! 消しやがった…。合い変わらず、うぜースキルだな…『消失』ってのはよ…。おい…」


「分かっただろ、お前が私にどれだけ空気の弾を打ち込んでも意味は無い。おとなしく家に帰れ」


「あっそ…。ま~消されるなら、婆を狙わなければいいだけだ。丁度いいゴミが何体もいるしな…。そうだな~ガキの頭が吹っ飛ぶのも面白いか…」


ドラグニティは受付の方に掌を向けた…。


「な。 お前…何をする気だ…その手を下げろ! 狙うなら私を狙え!」


ウルフィリアさんは物凄い剣幕でドラグニティに語りかけるが…その男は耳を貸さない。


「なぁ、そこのゴミを大量に従えてる田舎者。そいつらさ~汚いから殺すわ。同じ空気吸ってるだけぶっ殺したくなるんだな~、だから殺す。奴隷なんて俺がまた買ってやるよ。今度は人間の奴隷でも買って小さい家でせっせと猿みたいにやってろ。人間を殺す趣味はね~からよ。だから、そこを退け田舎者」


ドラグニティは、…誰に口をきいているのか分からなかった。


しかし…そいつの目線の先には僕達がいた…。

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