第80話 最速でSランク冒険者になった貴族の男
「た…大変申し訳ございません。この依頼ではこれ以上の依頼料を出すわけにはいかないんです。これ以上出すためにはギルドマスターの許しがないといけません」
「あ? 誰に口きいてんだおい…。俺は貴族の息子でしかもSランク冒険者だぞ! どう考えてもギルドマスターより強いに決まってるだろうが!」
「いえ…その、強さとかそう言った話ではなくてですね…」
『ドッゴン!!!』
「うわぁああ」
地面が激しく縦に揺れる…。
その場にいた者達は立っていられず、床に倒れ込んだ。
僕はなんとかその場に立ち続けた。
――凄い揺れだったな…。浮き上がるかと思った…。いったい何をしたんだ…。
「おい…もう一回同じ話をしてやる…。この依頼料を2倍にしろ。火龍の退治だろ、この依頼はSランクの俺にしか遂行できないはずだ」
「確かに…そうですが…。白金貨3枚を2倍にするのは…さすがに私の一存では無理です…」
「ち! じゃ、この依頼は受けねーよ。せっかくやる気になったってのに、遊ぶ金すら稼げねーじゃねえか」
Sランク冒険者と名乗っていた男はギルドの奥部屋から受付の方へ歩いてきた…。
そして僕の目にも映る…。
黄色い髪に赤い瞳…。
右側の口角を上げて上から目線で全てを見ている…。
全身は銀よりも遥かに輝きの強いオリハルコンで出来た鎧を身に纏っている。
鎧は体から1㎜もズレていない。
体を測って作ってもらわなければそんなのはあり得ない…。
つまり…鎧の部品を全て自分の体に合うように作ってもらったようだ…。
しかもオリハルコンで…。いったい、いくらかかるんだ。
鎧だけじゃない…羽織っている赤いマントもただの布じゃない…。
少し動く度に虹色に光っている…魔力を織り込んで作ったんだ…。
威力の弱い魔法なら一瞬で相殺してしまうだろうな…。
腰に付けられた剣は鞘に大量のダイヤモンドが散りばめられており、僕からすればただの飾りだった。剣の…柄が全く汚れていない、一度も抜いていないのだろう。
――この男は…、ドラグニティ・バトライズ…貴族の息子。最年少でSランクになった冒険者だ…。
「どいつもこいつも、貧乏臭い顔してんな~おい。マジで、体から異臭レベルで放出されすぎて臭いだが…。いったいどうしたらそんな糞みたいな臭いになるのか…マジで疑問だわ」
ギルド内は誰も動かない…、そして誰もその男に目を合わせようとする者はいない。
「これじゃあ…何のために冒険者やってのか分からなくなってきたわ。親父が社会勉強の為とか言って勝手に冒険者登録済ませやがってよ~。家の小遣いの方が金になるんだが~。はぁ~だり~、めどくせ~。俺、めちゃくちゃ強いのにギルドが金を上げてくれねえなんてな。マジでふざけてるわ~」
ドラグニティは冒険者の間をズカズカと割って入り、備え付けられている食事施設へ向かう。
「おい、女。エールを一杯くれよ」
「え…えっと…、銅貨5枚です…」
「はぁ 銅貨5枚? なんだそれ… そんな金知らねえよ。それに、俺は貴族だぞ、貴族に対して金を要求するとか訳分からね。いったい誰のおかげでこの国が回ってると思てんだ? なあ、さっさとエールをよこせ」
「わ…分かりました…」
女性店員はエールを木製ジョッキに入れ、手渡した。
「あ? なんだこれ… これがエール。切ったねー色だなおい。しかも木製のジョッキとか腐ってるだろ、ガラス製のジョッキが買えねーのか。こんなもん俺に出しやがって」
『バッシャー!』
ドラグニティはエールを手の甲ではじき、店員の方へばらまいた。
木製のジョッキは粉砕し、存在を消した…。
「うわぁ、マジさ悪だわ~。俺の新品でしかも特注品のグローブが切ったねー木製ジョッキの黒ずみが付いちまったじゃねえかよ~、なぁ、どうしてくれるんだ? このグローブ大金貨1枚だぞ、おい!」
「た、大変申し訳ございません…すぐ…洗濯いたしますので…」
「は? 庶民の洗濯で綺麗に落ちるわけねーだろうが、貴様はこの後俺と寝ろ、それでチャラにしてやる」
「そ…それは…」
ドラグニティは店員さんの腕を掴み、連れ出そうとする。
「おい! 娘に何を!」
「は? 誰に口きいてんだ」
ドラグニティは店主に掌を向けた。
「うがあぁあああ!!」
止めに入った店主は、ドラグニティに掌を向けられた瞬間吹き飛ばされた。そのまま木壁に衝突し、意識を失ってしまった。
「お父さん! っつ!」
店員さんが店主に駆け寄ろうとするのをドラグニティは無理やり自分に引き寄せた。
「おいおい、何逃げようとしてんだよ。お前には今、大金貨1枚の借金があるんだぞ、それを払ってもらわないと、貴様を裁判にかけて奴隷にでもしてやっていいんだぞ…」
「ひぃ…」
「おい、いい加減に!」
その状況に怒ったのか、周りにいた屈強な冒険者達はドラグニティへ向かい、取り押さえようとする。
『ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!』
「うぐぅぅぅぅ…」
ドラグニティの辺り一帯を上から押し付けるような力が発生し、周りにいた屈強な冒険者達は、ギルドの床へ俯せにめり込み、全く動けない。
「おいおいおいおい~、何俺に指図してんだよ~。力でねじ伏せられるとでも思ってんのか~。あ~。馬鹿じゃねぇの。俺はスキルを六個親父に買ってもらってんだよ。それもとびっきり強いスキルをな!」
ドラグニティはめり込んだ冒険者の頭を踏みつけながら、スキル自慢を始めた。
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