第77話 方向音痴? いや…道草が好きな女子だ…

「こ…ここは…、国立記念公園……」


「主~ こっち~!」


エナはスンスンと鼻を鳴らしながら、進んでいく。


「あ、ご主人様…」


エナ達に付いて行くと白髪の可愛い女の子が立っていた。耳の先端を少し揺らし、尻尾を小刻みに振っている。その隣にはいたって普通の服装を着た男の子…。モモとナロ君だ…。


「モモ、それにナロ君も…2人も臭いを辿ってきたの?」


「はい、僕たちも独特な臭いを辿って来たら、ここにたどり着きました」


「そうなんだ。それで…、ロミアさんは見つかった?」


「いえ、まだ見つかっていないです…。でも臭いはするのでここの近くにいるのだと思います」


「そうか…。それじゃあ早速手分けして探そう」


「分かりました…」


僕達は、手分けしてロミアさんを探した…。


記念公園の入口から歩いていき、くまなく探す。


そしてようやく見つけた…。


ロミアさんは勇者記念碑の裏にある大きなモモの木の下で眠っていたのだ。


「ロミアさん、ロミアさん、大丈夫ですか」


僕は強めにロミアさんを揺する。


「ん…ん……。ん? コルトさん ここは…」


「ここは国立記念公園ですよ。ロミアさんいったい何でこんな所にいるのか覚えていますか?」


「えっと…何でだろう…。よく分からない…です。何かに呼ばれたような気もしますけど…」


「何かに呼ばれた…いったい何に…」


「それは分からないですけど…、確かに何か…声がしたんです…。まだ酔ってたんですかね…。もしかしたら、幻聴が聞こえていたのかも…」


「その声はなんて言っていたんですか…」


「えっと…何だったかな、えっと確か『勇者を連れてこい』だったかな…今思い出すと笑っちゃいますよね、何でそんな声が聞こえたんだろう」


「『勇者を連れてこい』ですか…。確かに何でそんな声が聞こえたんでしょうね…」


――心当たりは無い。無いが…勇者と言う単語だけで心に何かが引っかかる…。僕はもう勇者じゃない…。だから…僕には関係無いはずだ…。


「本当ですよね…。あ、えっとごめんなさい…。こんな事態になるとは思ってなくて…。皆さんにご迷惑を…」


「いやいや…ロミアさんが無事でよかったですよ。誰かに攫われてしまったんじゃないかと思って焦りました。それじゃあ、ウルフィリアギルドに戻りましょう。ロミアさんを見つけたらそこで落ち合う予定になっていますので」


「分かりました」


僕はロミアさんに手を差し伸ばした。


僕の手をロミアさんは掴む。


グッと引いて、ロミアさんを立ち上がらせた。


「ナロ君とモモはハルンさん達とブレーメンの人達に見つけたと連絡を、それとウルフィリアギルドへ集まるよう伝えてください」


「分かりました」「了解です」


ナロ君とモモは既に2組の位置が分かっているかのように走り出していった。


「それじゃあ…。僕達もウルフィリアギルドへ向かいましょうか」


「はい…」


僕がその場を立ち去ろうとした瞬間。


「いだ…!」


「だ、大丈夫ですか…」


「あ…はい、大丈夫です…」


足元にはまだ青い桃の実が落ちていた…。


――また…桃の実…。たまたまか…。


僕は一度上を向くと、ハトが飛んでいた…。


「何だ…ハトが突いたのか…。まぁ…そういう日もあるよ…」


桃が落ちてきた現象をハトのせいにして、僕はその場を離れる。


ウルフィリアギルドへ向かう途中、ロミアさんは幾度となく道を間違えた。


「ブレーメンの皆の言う通り、本当に方向音痴なんですね…。ロミアさんって…」


「アハハ…すみません…。ちょっと興味をそそられるとすぐ道を逸れちゃうんですよね…」


「まぁ…それだけが原因じゃないと思いますけど…」


ロミアさんはこう見るとよく目立つ。


元々黒髪の人が少ないというのもあるが、どこか花のある人だと思った。


顔立ちも綺麗だし性格も優しい…。


しかし…僕は何も感じない…。


「あ、コルトさん見てください、ほら~饅頭のストラップですよ。可愛くないですか~」


「そ…そうですね…。白と赤で演技がよさそうです…」


「これをみんなに買っていこ~っと、やっぱり赤色の饅頭がいいですかね?」


「え…そうですね…赤色の饅頭でいいんじゃないですか」


「ん~、やっぱりこっちの白にします」


――なぜ一度僕に聞いたんだ…。


ロミアさんは白色の饅頭ストラップを買って戻って来る。


「何とか買えました…私そう言えば小銭を全然持ってなかったの忘れてましたよ」


「それじゃあ…ウルフィリアギルドへ戻りましょう…。皆も待っていますよ」


「はい、そうですよね。ちょっと寄り道しちゃいましたし。これからは道草を食わないようにしますね」


「そうしていただけると、僕の方はとてもありがたいですね…」


しかし、その後…ロミアさんは幾度となく道草を食べては、反省し、道草を食べては反省し、を繰り返していた。


そしてロミアさんを発見してから数時間後…、ようやくウルフィリアギルドへ到着した…。


「や…やっと着いた…」


「あれ…いつの間にかウルフィリアギルドへ付いてる…。さっきまで記念公園に居たのに…。いつの間に移動したんだろう…」


「……………早くいきましょう…みんなが待っています…」


僕はロミアさんを睨むように威圧した。


「アハハ…ごめんごめん…。さすがにもう道草はしないよ」


「ジ―――――――」


子供達と共にロミアさんを睨みつける…。


「そんな見つめないでよ…、分かってるって…さすがにここは道草する所ないし」



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