第76話 臭いのゆくえ

「においの発生源はウルフィリアギルドの中に居るのか…。そうだと有難いな…」


エナとマルは僕を先導してくれた。


多くの人の間を抜けていく。


そしてエナとマルはどこか見覚えのある人の前で止まった…。


「主様、この人です。この人から臭います!」


「ん? なんだ…どうしたの…お嬢ちゃん」


大剣を背負っている男をマルは指さした。


「リューズ…、どうしてここに?」


「おお、 コルトじゃないか。一昨日ぶりだな、そんなに慌ててどうしたんだ。コルトも冒険者になる気なのか?」


「いや…今僕は人探しをしてたんだ。えっと…リューズから探していた人のにおいがするって…2人が」


「におい… いったいどんなにおいなんだ?」


「滅茶苦茶臭い! 魔物よりつかない!」


「うわ…、めっちゃ傷つくな…子供からそんなふうに言われると…」


リューズは張っていた背中を丸め、あからさまに悲しがる…。。


「一応聞くけど…リューズは昨日、黒髪の女性と何かあった? 今探しているんだけど…」


「黒髪? なんかあったかな…。昨日は初依頼を達成した祝いにたらふく飲もうと思ってたんだが…、飲み屋はどこもかしこも賑わっててさ、席が全く空いてなかったんだよ。だから露店でジョッキ一杯のエールを買って、飲みながら歩いていたんだ…。その時に合ってたのかもな…。あんま覚えてねえんだよ…、結構酔っぱらってたからさ」


「何とかして思い出してもらいたいんだけど…、何か少しでも手掛かりが欲しいんだ」


「ん~~~、そうだな…」


リューズは胸の前で腕を組み、瞼を瞑りながら昨日の夜を思いだそうと努力している。


「あ…、道を聞かれた気がする…」


「道?…」


「そう、道…。確か黒髪の女だった…『宿の場所を教えてほしい』と聞かれたんだ…」


「それで、なんて答えたの。もしかしたら、僕の探している人かもしれない」


「ん~~~、っと…。確か宿屋と武器屋を間違えて…、武器屋の方向を指さしたと思う…」


「武器屋って…ドリミア工房の方向?」


「ああ、多分…」


「ドリミア工房って、宿屋と全然別方向だ…。しかも結構遠いし…。確認だけどリューズは指をさしただけなんだよね」


「そうだな…、ドリミア工房の方向を指をけさしただけだ…」


「そうか…でも昨日の夜はドリミア工房方面に向かったという情報を得ただけでもよかった。それじゃあリューズ…冒険者の依頼を頑張ってね」


「あ…ああ…すまない、質問に上手く答えられなくて…」


「いや…いいんだ、知らない人だっただろうし、覚えてないのも無理はないよ」


僕はリューズに向って手を振ってウルフィリアギルドの出口へ向かう。


「コルトのやつ…いつの間に子沢山になったんだ…」


僕達はギルドを出たあとリューズの言った通り、ドリミア工房方面に向って歩いていく。


「こっち側には来たはずなんだ…、もしかしたらリューズみたいに臭いが残っている人がいるかもしれない。その残り香を探っていこう…。よろしく頼むよ、皆…」


子供たちは鼻をひくつかせながら頷く…。


僕も目を凝らし、抜け目なく道行く人を観察していく。


視力は元々いい方なので、僕の見える距離にさえいてくれればロミアさんを見つけられると思うんだけど…。


その後…僕達は歩いても歩いても…、一向にロミアさんの姿を見つけられない。


子供達も、頑張っているが…どうやら臭いは全く感じ取れないらしい…。


「ロミアさん…いったいどこまで歩いて行ったんだ…。まっすぐ歩いてきたけど、もし別方向に向ってたら絶対に出会えないしな…。一度周りの人に聞いて回ってみようか…」


僕は道を歩いていく人々に聞いて回った。


ざっと30人にロミアさんの特徴を話した…。


しかし…いくら聞いて回っても、誰もが知らないと言った。


「結構な人数に聞き回ったけど誰も黒髪ロング、高身長、剣持の女性を見てないのか…。これだけの特徴を話しても…、当てはまる人が1人も出てこないなんて…。ドリミア工房の方向に、ロミアさんはいないんじゃないか…」


僕がロミアさんの存在を疑い始めた頃…。


「主~ 感じた、臭い!」


「ほんとです、 私も感じました、主様!」


「ほんと、すぐに案内して!」


またもやエナとマルが臭いを嗅ぎつけたらしく、僕を案内してくれた。



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