第72話 宿までの道

「皆……帰りましょう。ロミアさん、お会計をよろしくお願いします」


「わ、分かった。えっと……コルト君だよね?」


「へ……? そうですよ。それより……、今、僕は機嫌が悪いです。この場から早く離れたくて仕方ありません」


「そ、そうだよね。分かった。コルト君達は外に先に行ってて。私はあとで追いつくから。えっと……ララとウルで近くの宿まで案内してあげて」


「な! わ、わかった……」


「仕方ないわね。行きましょう」


 コルト達は『ギャング食堂』から退出し、近くの宿屋を目指す。


 コルトが退出した瞬間『ギャング食堂』内の震えは止まり、立っていた者は床に尻もちをつきながら座り込む。


 また、椅子に座っていた者は背もたれにへたり込んだ。


「な、何だったんだ。あの坊主……。えげつない圧力だったぞ。まるで猛者のようなたたずまいだったな」


「あ、ああ……。俺、ちょっとちびっちまった……」


「俺もだ……」


「主~! さっきすごかった! 体がぞわわわわ~! ってしたの!」


 エナは眼を輝かせながら僕に着いてくる。


「え? 僕、なにかした? 特に何もしてないけど……。というか、さっきまで僕が何をしていたのか、あんまり覚えてないんだよね。イラってしたのは覚えているんだけど……、そこからの記憶がちょっと抜けてる」


「でもすごかった! 周り人達、カチーンって固まってたの!」


 エナは眼を輝かせながら尻尾を振り、語っていた。


「そうなんだ。何でなのかな……」


「それにしても。ロミア、来るの遅くない? さすがにギルドカードで払うだけだから、私達にすぐ追いつくでしょ」


 ララさんは後方を振り返りながらロミアさんを探す素振りを見せる。


「そうね……。私達は歩いているし、ロミアが走ればすぐに追いつけると思う。さっきの状態を見ると酔いは冷めてたから、変な男に捕まりもしないだろうし……。どうしたのかしら」


 ウルさんは顔に手を置いて少し傾けている。


「う……、うう……」


「あ、フォーリアさん、大丈夫ですか? 自分のことがちゃんと分かりますか?」


 僕はフォーリアさんを覗き込むように質問する。


「………………プイ」


 フォーリアさんは僕から視線を逸らす。


「ん? フォーリアさん?」


「………………ギュ」


 お姫様抱っこしていた僕の胸に、フォーリアさんは腕を回して抱き着いてくる。


「いったい何をしているんですか?」


「ああ……、えっとフォーリアは酔うとコアラになるの」


 ララさんは苦笑いしながら僕に教えてくれた。


「へ……、コアラですか? 確かにギュってされてますけど」


「酔いがさめるまで。その状態かも知れない……」


「本当ですか。僕、フォーリアさんさんに服を早く着替えてほしいんですけど」


 フォーリアさんの服は嘔吐物で汚れており、僕の服にも結構付着している。


「それは大丈夫だと思う。フォーリアは酔うと脱いじゃうの」


 ララさんはいつものことのように僕に教えてくれた。


 女性が寄っただけで服を脱ぎ始めるって僕にはよく理解できない状況だった。


 だが、すぐに現実になる。


「はは……面白い冗談ですね。って……、フォーリアさんがなんかもぞもぞし始めましたよ。って! ちょっと! フォーリアさん!」


「あー! ヤバイヤバイ! 始まっちゃった! 宿に早く行かないと!」


 僕達は大急ぎで近くの宿屋へ向かった。


「すみません! 三部屋お願いします! とりあえず一泊で!」


「はいよー、三部屋ね……。んっと。19室、20室、21室、が開いてますね。隣り合っていても宜しいか?」


「はい! とりあえず部屋さえ借りられれば!」


「それじゃ、それぞれのカギだ。部屋の場所は近くにある地図を見てくれ」


「分かりました! ありがとうございます! さ! 行きましょう、コルトさん!」


「はい! って! ダメですもう少し待ってください、フォーリアさん!」


 フォーリアさんがローブを脱ぎ始め、既に下着がチラチラと見え隠れしている。


 ララさん達は大急ぎで19室の部屋を開け、僕はすぐさまフォーリアさんを預けようとした。


「フォーリアさん。早く……離れてください。って何で全然離れないんですか」


「もー! フォルビア! いい加減にして……! ふぐぐぐ!」


「と、とりあえず。中に入りましょう!」


 僕からフォーリアさんは全く離れてくれず、ララさんとウルさんに引っ張って貰ったのだが効果なし……。

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