第71話 唯一のとりえ…
「コルトさん…やりますね…~。なかなか…私をここまで酔わせられる人はいませんよ…~。ヒック…れもまらまら…私は飲めますけどね…~」
――ろれつが少々回っていない…。アホ毛もテーブルに向かって伸びてるし…。体調大丈夫かな…。いや、大丈夫じゃないよな…。
「ここら辺で止めておいた方がいいんじゃないですか? そんなに酔っても意味ないですよ。勝負も僕の負けでいいですから…」
「何言ってるんですか~! ちゃんと酔えれば~嫌な思い出をぜ~ンぶ忘れるですよ~。最高じゃないですか~。」
「酔っぱらって忘れても虚しくなるだけです。根本的な解決になっていませんよ。フォーリアさんここで止めておきましょう」
「何ですか~コルトさん…もしかして私に負けるのが怖いんですか~。いいじゃないですか~楽しく飲んでるんですから~。ヒック…。わたしはマラマラ素面れすよ…」
フォーリアさんは顔から火が出そうなほど赤くなり、目じりは下がるところまで垂れている。もう視界は安定していないみたいだ…。
「いい加減にしてくださいよ。これ以上は飲んだら体への負担が大きすぎます。ただでさえ小さいんですから、アルコールの周りだって相当早いはずです。もう十分飲みましたよ。ここで止めてもいいじゃないですか。無駄に張り合う必要はありません」
「私…お酒だけは負けたくないのに…。何れ…ゆうつのとりえなのに…おさけでまけたら…。わたし…勝てるものが無くなっちゃう…」
「はぁ…何を言い出すかと思えば…。そんなちっぽけなプライドは捨ててください…。そうすればずいぶん楽に生きていけますよ。お酒に強い弱いなんて関係ありません。皆で楽しむ物なんですから。今日初めて飲みましたけど凄く楽しかったです。それでいいじゃないですか。強い弱いなんて気にしてたらお酒を楽しめなくなってしまいますよ」
「ううう…らって…らって…わらしのとりえ…これだけしか…ないんらもん…お酒取ったら…ただのチビで…バカな…ノーコン魔法使い…になっちゃう…」
「またそれですか…。フォーリアさん、自分のこと嫌いすぎません…。もっといいところを探してみてくださいよ。僕の見つけたフォーリアさんのいいところは、いっぱいありますよ」
「ううう…ろこれすか…。そんらところ…ないれすよ…わたしなんかに…」
相当落ち込んでいるフォーリアさんを勇気づけるために僕の見つけたいいところをすべて伝える。
「子供たちに見せる笑顔はとても素敵でしたし、全然当たらない魔法を放つときも凄く楽しそうでした。ご飯だって凄く美味しそうに食べるし、周りを気遣える優しさも持っているじゃないですか。いっぱい良いところがあるんですから、もっと自分に自信を持ってくださいよ!」
(ねえ…ララ。コルト君ってさ…天然であれ言ってるのかな…。だとしたら相当やばいよね…)
(うん…あんなの酔ってないと言えないよ…。幼馴染の私達でも言えない言葉だよ…)
(それを…つらつらと…。天然って恐ろしいのね…。実際に言われてるフォーリアはどんな心境なのかしら…)
(あの顔見て分からないの? どう見ても落ちちゃってるでしょ)
(うん…どう見ても落ちてる…。いろんな意味で…)
(でも…コルト君は大分攻略に苦労しそうだけど…。未経験のフォーリアに大丈夫かしら)
(それは私達もでしょうが…)
――ん? あの3人…酔い覚めたのかな…。どうしたんだろう、3人でコソコソと…
「ううう…ぅぅぅ…ごるどじゃん…ううう…ぅぅぅ…じゅぎでず…」
(嘘…早い…。酔った勢いだろうけど…)
(ドストレート…。今回はノーコンじゃなかった…)
(まさか子供のフォーリアにあんな発言が出来たなんて…)
「へ… あの…、よく聞こえなかったんですけど…?」
「ううう…ず…おろろォ‥‥」
「だ、大丈夫ですか! フォーリアさん!」
(あー、盛大に吐いちゃったよ…)
(全くひるまず…背中を摩るコルトさん…紳士…)
(それにしても…フォーリアがあんなに酔っちゃうなんて…いつぶりかしら…。しかも吐くなんて…。初めてなんじゃ…)
(確かに見たことないかも…)
「すみませーん! タオル持って来てもらってもいいですか! あと水もお願いします!」
「は…はい! 分かりました」
「おいおい…嘘だろ…。あのフォーリアが吐くところなんて…初めて見たぞ…」
「マジかよ…、それにしても…あの坊主、フォーリアと同じ量飲んでピンピンしてんぞ…。そっちの方がやばくねえか」
「ううう…うっぐ…ぅぅぅ…」
「ははは…あの酒豪のフォーリアが酒飲んで泣いてるぞ。これまでも恨みってやつだな!」
「ホントだな! これで酒飲めるチビから、酒に飲まれたチビだな!」
周りで飲んでいた人たちはフォーリアさんの悪態をつき始め、それに感化されたように場は盛り上がっていく…。
「おい…… 見せ物じゃねえぞ……」
『「!!!!!!!!!!!!!!!!!」』
その場の空気は一瞬にして凍り付いた。
実際に凍っているわけではなく、空気が震えている。
その場にいる人間の背筋に怖気が走り、体が震えだした。
店の木柱がガタガタと音を鳴らし、天井からぶら下がるランタンは大きく揺れる。
スプーンやフォークを持っている者は、手に力が入らずしだいに床へ落ちていき、店内に金属音がいくつも鳴り響いた。
泡を吐き倒れる者や、その場で失神する者すら現れている。
獣人達はその姿に興奮し…、ブレーメンの3名は身を抱き合わせ震えていた。
コルトは震える店員が持っているタオルを手に取り、嘔吐物の付着したフォーリアの口元を拭く。
フォーリアの服にも嘔吐物は付着しているがコルトは気にせず抱きかかえ、中央の席から皆のいる団体席へ戻る。
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