第70話 飲み勝負

「やめとけよ! 絶対に後悔するぞ! フォーリアはネジが何本か外れてんだ! こんな奴と真面に戦える人間はいない!」


ウルさんは懸命に僕を止めようとしてくる。


「そうれす…やめておいた方が良い…れすよ…。私達は…何度も死にかけました…三対一でも…全く歯が立ちません…」


ムクッと顔を上げたのはララさんだった。目の前にはジョッキからまだ一センチも減っていないエールは泡が無くなり、炭酸も抜けきっている…。


――少し飲んだだけで…そんなに酔えるんですか…。ララさんお酒に一番強そうなのに…。ほんと、人は見かけで判断できないなぁ…。


「まぁ~実質二対一みたいなものですけどね~。でも~フォーリアが酔った姿はすっごくかわいい~んですよ~。滅多に見れないんですけどね~~ハハハ!」


ロミアさんはジョッキを掲げ、騒ぎ散らかす…。


――子供たちの教育にあんまりよくないな、この人達…。ここは早く終わらせた方がよさそうだ…。


「分かりました。勝負しましょう。もし僕が酔ってしまったら、ルリさんとハルンさん、子供達をお願いします」


「わ…分かりました…」「任せてください…」


「よし、久々に燃える勝負が出来そうだな…」


フォーリアさんは席を立ち大きく伸びをする。


「はは…お手柔らかにお願いしますよ…」


なぜか僕とフォーリアさんは、店内の人が皆観覧できる中央テーブルへ移動し椅子に座った。


どうやらここはお酒の飲み対決する専用の席らしい。


「おい! 皆! フォーリアにまた誰かが挑戦するみたいだぞ!」


「マジかよ! 今まで何人を地獄に叩き落としてきたか知らねえのかよ!」


「しかも今回はウイスキーのショットだとよ! ウイスキーをショットで飲むとか訳が分からね!」


「フォーリアならいけるのかもしれないが…挑戦者のあんちゃんもいけるのか…」


多くのむさ苦しい男たちが僕達を見てくる。


「周りが…凄い注目しているんですけど…。なぜなんですか…?」


「そんなの面白いからでしょ…。人の酔い潰れている姿を見るのはすっごく楽しいんだよ~」


フォーリアさんのアホ毛はピコピコと大きく揺れる。


「あんまり飲み過ぎるのもいけないと思いますけどね。お酒は適度に嗜むべきですよ」


「ハハハ! コルトさん…甘いですよ…。この世の中お酒を飲んでないとやっていけません。それに冒険者なんですから欲望に忠実じゃないと~」


「確かに…。冒険者は欲望に忠実という風習が蔓延っています。ですが…実際は違いますよ…。何事にも誠実に取り組む…姿勢こそ本来冒険者のあるべき姿なんです。アイクさんはそう語っているはずですよ。だからお酒も仲間と飲むとき少ししか飲まなかったそうです。フォーリアさんに強制するつもりはありませんが。少しでも痛い目を見て貰わないと皆さん迷惑します」


「へ~私に勝つ気なんだ…。でも私一回も負けたことないよ~。エール樽2杯くらいなら余裕だから…。まずはそこまで行かないとね。コルトさん~」


「僕はただの人間なので…、自分の限界を知る為にも今日は全力で頑張らせてもらいます」


目の前にショット瓶が置かれ、ウイスキーを7分目まで入れる。


僕は一気にグイっと飲み込む。


「お~~。やるな~あんちゃん」


周りから、チラホラと拍手が起こった。


「ふぅ~…」


――あれ…意外といける…。確かにアルコールの揮発を感じるけど…別に苦しいって訳じゃないな…。スッと鼻に来るハッカ水に近い…。これなら僕はエールの方を飲みたいな…。


その後、僕はフォーリアさんと一杯ずつ交互に飲み続けていく。


フォーリアさんの小さな体に一体どれだけ入るのか…。疑問に思いながらも…時が経つにつれて、しだいにウイスキーのボトルは開いていく。


僕は何杯飲んだかすら覚えていないが…、少なくともボトル一本は飲んでいるだろう。でも…一向に酔わない。


ずっと素面…動悸がするわけでも、体温の上昇も感じない…。


アルコールが体の中から一瞬で消えるような…そんな気さえする。


逆にフォーリアさんは先ほどから目尻が垂れ始めた…。


このままいくと、蕩けてしまいそうだった。

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