第66話 フォーリアさん

「はぁはぁはぁ…これで2カ所目…あとは肩だけですね…。何とかMPはギリギリもちそうです…」


ウルさんは僕の肩に触れ治療を行ってくれた。


「どうですか…、何とか…傷は治しましたけど…身体機能とかに異常はないですか?」


「はい…ちゃんと動きますし何も問題ありません。傷を治してもらったら痛みも大分引きました…。貴重な回復魔法を使っていただきありがとうございます」


僕はウルさんに深々と頭をさげる。


「いやいや、頭を上げてくださいよ。子供が問題を起こしたらそれを解決するのは親の役目ですから。こちらこそ、怪我させてしまいすみませんでした」


ウルさんも僕に深々と頭を下げる。


僕は頭を上げ、苦笑いをする。


「でも、他の皆に当たらなくてよかったです。僕以外に当たってたら、きっと大怪我でしたよ…。僕も当たりどころが悪かったらどうなっていたか分からないですし」


「ご…ごめんなさい…。私が誤射したばかりに…」


フォーリアさんはウィッチ帽を取り、僕に謝ってきた。


僕は立ち上がり、伝える。


「大事には至らなかったのでもう大丈夫ですよ。でも、ちゃんと周りを気遣ってスキルと魔法を使用してください」


「は…はい…」


フォーリアさんの頭生えているアホ毛がシュンと垂れ下がる。


表情はあまり見えないが、相当落ち込んでいるのだろう、啜り泣く声が聞こえる。


確かに今の結果だけ見ると悪いところしかないように思える。だが、魔法を受けた僕だからこそ言えることがあった。


「でも『ウォーターショット』すごい威力でした。真面に使えるようになったら凄い魔法使いになれますよ。きっと冒険者でもやっていけます。これからも頑張ってください」


フォーリアさんの頭に右手を置き、僕は撫でた。


特に理由はなかったが、なぜか撫でたくなったのだ。


「フぇ…な…何撫でてるんですか…、私は…子供じゃ…な、無いんですよ…」


フォーリアさんは目尻に溜まっていた涙が引っ込むほど驚いている。


そしてなぜか、頬を赤く染めた。


「いや、無性に撫でたくなってしまいました…。嫌でしたよね、ごめんなさい」


僕はフォーリアさんの頭から手をどけようとする…。


しかし、フォーリアさんは小さな両手で僕の右手を掴み、再度頭に置いた…。


「も…もうちょっとだけ…撫でさせてあげます…。今回だけですからね…」


「は…はぁ…」


僕はキメ細かいフォーリアさんの深い青髪を…ただ撫でた…。艶やかな髪質は、僕が撫でるたび、光沢を増していく。


「あ…あの…コルトさん。励ましながら…撫でてくれませんか…」


「励ます?」


「私…パーティー以外からよく馬鹿にされるんです…。田舎の村でも…王都に来てからも…。ちっさい…、色気が無い…、ガキっぽい、バカ、役立たず、ノーコン、大食い…あげればきりないですけど…」


「そうなんですか…それじゃあ…。愛らしい…、これから出せる、天真爛漫、おっちょこちょい、役要らず、練習途中、成長期、なだけですよ…。別に気にする必要ありません」


「な…、そんな…風に思っても良いんですか…」


「いいじゃないですか。嫌な捉え方をするより、良い捉え方をした方が気分も楽になると思いますよ」


フォーリアさんは照れくさそうにしながらも少し自信を取り戻したような笑顔で笑った。


「あ…。まだスライムの討伐…終わってないですよ。早く終わらせないと夜になってしまいます」


僕は今回の目的をすっかり忘れていた。


「それは大丈夫だと思いますよ…」


「え…、何でですか? ロミアさん…」


「だってあれ…」


ロミアさんの指差す方向を見ると…。


「は―!!」「オリャァア!!」


ハルンさんとルリさんは大量のスライムを狩っていた…。


地面にはスライムの核は割れ落ち、中身の魔石が飛び出している。


いくつあるか数えられない、多分50個は超えているだろう…。


これだけ狩っても、スライムの数は一向に減っていなかった。


「それにしても…スライムの数多いな…。2人もそんなに狩らなくていいのに…」


「コルトさん! 見てください! これだけ倒せました」


「私もです! これくらいの魔物だったら、私達だけでも倒せます! それにどうしたんですか。そんなに集まって~!」


「主が、死にかけた~!」


「な!」×2


ハルンさんとルリさんは猛スピードで駆け寄って僕の体を確かめる。


「も、もう大丈夫ですから。心配しないでください。それより、地面に落ちている魔石を拾って、ウルフィリアギルドへ持っていきましょう。10体以上のスライムを倒してますから、普通に依頼クリアですね。スライムの魔石を10個以上、受付に持っていけば、その分

プラスで報酬がもらえるはずです」


「そうなんですか…。なら出来るだけ倒せばいいんですね」


「いやいや、そう言う意味じゃなくてですね…。倒せるだけ倒しても、ちゃんとギルドまで戻らないといけないんです。依頼から戻って来られるだけの体力を残しておく必要があります。絶対に全力を出して戦ったらダメだよ。倒せないと思ったら逃げる。生きて戻ればまたやり直せますから。分かりましたか?」


「は、はい。分かりました!」


僕達は落ちている魔石を拾い集めていき、光源平野を離れ王都へ戻る。


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