第65話 ノーコン魔法使い
今回のスライム討伐はウルフィリアギルドからの依頼であり、報酬は銀貨5枚。
スライム10体の魔石を集められれば依頼達成となる。
最近各地でスライムやゴブリンが増えてきて困っているのだとか。
スライムとゴブリンは低ランクの魔物であるため新米冒険者しか依頼を受けて貰えず、固体数は減っていかないらしい。
光源平野に出現しているスライムは、最もよく見る『ノーマルスライム』だ。
特に代わり映えの無い水色が特徴のブヨブヨとした魔物。
液体の周りに薄い膜を張っており、中心には核と呼ばれる結晶がある。
中心の核を砕くとスライムは絶命する。
砕けた核の中に魔石は入っているのだ。
初めに攻撃したのはロミアさんだった。
「ハァーア!」【スキル『斬撃』】
ロミアさんは長い黒髪をなびかせ【攻撃スキル】『斬撃』を使用し、剣を振るうと白色に光り輝く三日月形の衝撃波がスライムへ向って飛んでいく。
放たれた『斬撃』はスライムの核を破壊した。
ロミアさんは周りを確認しながら足早に移動し、粘り気の強い液体内から魔石を取り出す。
「よし…。良かった…ちゃんと『斬撃』発動したよ…。一年間使ってなかったから発動するか不安だったけど。無事に出来てよかった…」
「やるね~、流石リーダー! じゃあ次は私がいっくよ~! それ!」
【スキル『遠矢』】
ミミリさんは、20メートル以上離れた位置から矢を放ち、正確にスライムの核を貫通させる。
矢は、弧の軌跡ではなく直線の軌跡を描き、まさしく針の穴に糸を通すような感覚を僕はあじわった。
「次は私だ…。さて、どんな魔法でぶち殺してやろうか! 小手調べに『ウォーターショット!』」【スキル『魔導士』】
――へぇ~、珍しい…『魔導士』のスキルか…。リューズの『バーサーカー』と同じ【職業スキル】…。えっと…『魔導士』は確か…。MP量が常人の10倍以上、全ての魔法を覚えられる代わりに、使う魔法は全て自力で覚えないと行けない…。それと職業スキル全般に言える弱い点として、他のスキルと併用できない…。使いこなせれば全スキルの中でもトップクラスに強い職業スキルだけど…、Sランク帯に職業スキルの人はいない。それこそ、『勇者』のスキルを持っていた人くらいだ。
「ち! 外したか…。それなら次は10発同時に放ってやらぁ!『ウォーターショット!』」
フォーリアさんの使った魔法『ウォーターショット』は発動したものの…スライムとは全く別方向へ飛んで行ってしまった。
「な! フォーリア! どこ放ってるの! 危ないでしょ!」
フォーリアさんの放った『ウォーターショット』は四方八方に飛び、10発のうち7発は地面に衝突したおかげで怪我人は出なかった。
しかし、『ウォーターショット』3発分が僕達の方向へ飛んできたのだ。
「皆伏せて!」
僕は、ミルとパーズを伏せさせ、モモとナロ君にも指示を出す。
――このままだと、誰かに当たってしまうかもしれない…。普通の僕に出来るのは…皆の盾になることだけだ!
「フグッ! グッ! グァッ!」
僕は、『ウォーターショット』の前に飛ぶ込み3発全てを体で受け止めた。
そのまま前に倒れ込み、痛みを堪える。
「痛っつ~…流石に…3発は痛いな…。心臓に当たらなくてよかったけど…」
僕は、左太もも、右脇腹、左肩に水の弾を受け、鮮血が流れ出す。僕の体に傷をつけたのは水なので体内に残っても問題はない…。
だが…相当痛い。
泣き叫びたいが周りに不安を与えないよう、鈍感なふりをした。
――なんだか今日は、よく怪我する日みたいだな…。
「だ! 大丈夫ですか! ウル! 早く来て。回復を!」
「分かったわ。効果を高めるため体に直接触れますけど良いですか!」
「はい…大丈夫です」
僕は自力で仰向けになる。
ウルさんは僕の上半身の服を脱していく…。
僕のお気に入りだった革製の服に、松ぼっくりサイズの穴が開いてしまった…。
おまけに僕の血で赤く染まっている。
「主~! 主~! 死なないで!」
「いや…死ぬほど重度な傷じゃないから…」
「おかしいぞ…、私の『ウォーターショット』を受けておきながらその余裕…。なぜだ」
「た…確かに、フォーリアのスキルは『魔導士』なのでとにかく魔法の威力だけは、あるんです…。滅茶苦茶ノーコンなんですけど…。えっと、ほんとにごめんなさい。うちのバカな魔法使いをどうか許してやってください」
ロミアさんは僕に向って、頭を下げ続ける。
どうやらフォーリアさんはよくやらかす人らしい…。
怒った相手をなだめる役目をロミアさんの仕事なのだろう…、大分謝りなれている。
「え…なにこれ…スゴ…」
僕の上半身の服を全て脱がしたウルさんは目を丸くしながら、見詰めてくる…。
「えっと…何か、変な部分でもありましたか…? 確かに傷だらけですけど…特に変わった部分は…」
「いや…筋肉が凄い…ですね…」
「へ…あぁ筋肉ですか…、普通ですよ…。多分…」
「いや…どう見ても普通じゃないですよ…。いや、そんなこと言っている場合じゃなかったですね」
ウルさんは僕の傷口に触れる。
「ふぅ~…」【スキル『ヒール』】
ウルさんの両手から緑色の光が漏れだしていく。
すると、僕の脇腹にあった『ウォーターショット』の傷跡は消えて無くなる。
「フゥ…まず一か所…終わりました。次は太ももですね…。ズボンの入り口から手を入れます…」
「分かりました…」
ウルさんは僕のベルトを緩め、傷口のある右足の方へ手を入れる。
「集中…~」【スキル『ヒール』】
再度緑色の光は右太ももの傷を消していく。
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