第46話 熊族との腕相撲

「自分と腕相撲していただけないでしょうか…」


「腕相撲…僕がハルンさんと…いや、どう考えてもハルンさんの方が強いでしょ…」


「いえ…強い弱い関係無しに全力で戦ってほしいのです。力と力をぶつけ合うというコミュニケーションの1つだと思って、一度だけお願いしたく…」


ハルンさんは地面に頭が付きそうな程、お願いしてくる…。


「そんな…土下座までしなくても…、一回だけだよ…」


あまりに頭を下げてくるから…いた仕方なく…、僕はハルンさんと腕相撲をすることにした…。


「本当ですか! ありがとうございます!」


頭を上げたハルンさんは、相当嬉しそう…。


――そんなに腕相撲したかったんだ…。結果なんてやらなくても分かるのに…。


ハルンさんと僕は掌を握り合い、ベッドの上に肘をついて構えた…。


「えっと…皆、あんまり近くに来ると危ないよ…。もっと離れないと…」


その頃には皆部屋に戻ってきており、ハルンさんと腕相撲をパパっと終わらせられる雰囲気ではなかった…。


「エナ~、主~とハルンどっちが勝つか見たい~」


「私も!!」「私も…」「…僕は別に…」「力と力!! 俺が一番強い!」


「僕も凄く気になります。コルトさんの筋肉に痺れますね! ハルンさんはさすがです!」


「えっと…あまり殿方の裸体をマジマジと見るのは…」


「大丈夫! あの2人は見られてうれしがってるんだから」


「ちょっと…なんか御幣のある言い方してましたよね、ルリさん」


「す、済みません…つい」


僕達はなぜか上半身の服を脱ぎ…上半身裸の状態で…手を握り合っている…。


なぜ服を脱ぐ必要があるのだろうか…と疑問に思ったけど、ハルンさんが言うには腕相撲するときのマナーだというので仕方なく、僕も脱いだ…。


「では…お願いします…」


「やる前から結果は分かってるけどさ…。まぁ…手加減なしでやればいいんだよね…」


「はい、勿論です…」


ただ握り合っていた状態から、一気に場の空気は重くなる…。


ハルンさんの筋肉が膨張し…臨戦態勢に入った…。


――それにしても…ハルンさんの体凄いな…。ほぼ筋肉なんじゃないか…。体も大きくて、身長は190㎝超えてるよな多分。肩幅も広いから凄い筋肉質だし…。手も大きい。それに加えて僕の手はまだまだ小さいな…。


「それじゃあ。私が合図をするので、その合図で始めてくださいね」


「分かりました…」×2


「それじゃあ…行きますよ~…レディーゴウ!」


「ふっ!」


「ふっ!」


僕達はルリさんの合図で右腕に力を籠める。


『ドゴォォォォォオオオオオオオ!!』


「!!!!!!!!!!」


皆の頭にビックリマークが浮かび上がる。


僕自身もそうだ、自分自身でもビックリしている…。


何にビックリしているかと言えば、腕相撲の結果だ…、いや…結果以前に今この状態に戸惑っている。


「部屋の壁が…吹き飛んだ……」


「ベッドもぶっ壊れてます……」


僕とハルンさんの右手は今だ握られており、ハルンさんの手の甲が床にめり込んでいた。


――これは…いったい…、訳が分からない…。今の僕にこんな力があるわけないのに…。


「あ…主…カッコいい~!」「ご主人! 凄いー!」「す…凄い…」「…あり得ません…」「やっべー!! 壁ぶっ飛んだ!!」


「やはりコルトさんは筋肉の神だったのでは…」


「す…凄いです、ご主人様…」


「はは…、でもこれ…やりすぎだよね…」


皆は状況に戸惑いながらも大騒ぎ…。


子供達は僕に飛び込んで手を合わせようとしてくるが…、今の僕にハイタッチをする余裕は無かった…。


「あ、あの…ハルンさん大丈夫で…し…」


「う…うう…有難き幸せ…。このようなときが訪れようとは…。今生きている自分に感謝いたします…! ガイアス様!! 自分をここまで生かしていただきホントにありがとうございます!」


「えっと…ハルンさん…」


「コルトさん! 自分の夢を叶えていただき、ありがとうございました! 自分は今の腕相撲で神を見た気がします! きっとガイアス様が参られたのです。よかった…ほんとによかった…」


「えっとえっと…ハルンさん。大丈夫ですか」


「あ、すすみません…、気が動転してしまって…。いったん落ち着きます」


ハルンさんは大きく開いた壁に向い大きく深呼吸を行った…。


そして…ドアの向こうから…ドタドタと大きな音をたてて…誰かが走ってくる。


「いったい何事ですか!! へ! 壁が吹っ飛んでる…、床がバキバキになってる、ベッドもぶっ壊れてる!!」


宿の受付にいた少女が部屋に飛び込んできた…。


「ご…ごめんなさい、弁償しますから、あと掃除も。えっと…ホントにごめんなさい!!」


僕は宿のオーナーさんのところへ向かい、今回の件を謝り倒し、何とか大金貨1枚で手をうってくれくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る