第45話 筋肉の凄い男=ボス
「うちの子が…すみませんでした」
僕は宿の少女に頭を下げる…。
「いえいえ、大丈夫ですよ。ここは高級な宿じゃないので、よく汚されます。こんなの序の口ですよ。水っぽい汚れなら拭けばすぐ綺麗になりますから。それとお客様の服を洗濯いたしましょうか? タオルを洗うついでですし」
「そうですか。えっと…それならお願いしてもいいですかね」
「分かりました。それじゃあ全部脱いでください」
「あ…はい、…分かりました」
僕は少女に言われた通り、上の服から順に脱いでいく。
最初に黒色のベストを脱ぎ、続いて白い長そでシャツ、最後に黒いインナーを脱いだ…。
「うわ…主~…体凄~い…」
「え、コルト君…どうなってるんですか…その体…。コルト君って…そんなに筋肉ついてたんですか…。服の上からじゃ…全然分かりませんでした…」
「ほ…ほんとですね…。えっと…お客様は人ですか…。筋肉の神様とかじゃ…」
「なにを言ってるんですか…。これくらい大人の男性なら…普通ですよ…多分…。それと…あまり体をマジマジとみられるのは…恥ずかしいんですが…」
「す、すみません。私、受付で待ってますから!」
少女は頬を赤く染めながら、受付に戻って行った。
「それで…なぜ2人はまだこの部屋にいるの?…」
「いえ、コルト君の服を受付まで持って行かないといけませんから! 決してその筋肉を見ていたわけではありません!」
「主~、濡れたのエナのせい…見守る義務あり…」
「ああ…そう。まぁ、良いけどさ…減るもんじゃないし…」
僕は残りの黒っぽい長ズボンを脱ぎ、ルリさんに渡す。
勿論パンツは脱がない…。
「うわぁ…凄い…ホントに15歳ですか…。獣人族でも中々そこまで凄い、綺麗な筋肉した男性いませんよ…。それに凄い傷跡…、至るところに切り傷?…腕、足、背中、胸元…傷だらけじゃないですか…」
「主~カッコい~! 戦士みたい~!」
「ハハハ…昔に…色々ありまして…」
「コルト君の筋肉はどうやって鍛えたのですか? いったいどんな鍛え方をしたら、これほど完璧な筋肉に仕上がるんでしょうか…」
ルリさんは僕の筋肉をジーっと見つめながら、聞いてくる。
「いや…これは、その…元からこうだったというか…。こうなってしまった…というか…まぁおいおい話すとして…」
――僕が『勇者の「スキル」を持っていた』と皆に話しても…多分信じてもらえないので…、いま言う必要は無いか…。それに、ちょっとダサい奴だって…思われたくないしな。
「あの~ご主人様……。少しよろ…、ご! ごめんなさい!!」
モモは僕たちのいる星形の部屋のドアを開けた。
そして、ほぼ裸体になった僕の姿を凝視したあと…すぐさまドアを閉めた…。
「モモ、どうしたんだろう…? 別に謝る必要なんてないのに…」
「モモには刺激が強すぎたんじゃないですかね…」
「刺激? 僕の体が怖かったのかな…。普通の体だと思うけどな…ちょっと…ほんのちょ~と筋肉質なだけで…」
「まぁ、おいおい分かると思いますけどね…。あ…ほら来ましたよ」
ルリさんがドアの方を指さすと、ほんとに誰かが来た…。
「コルトさん…。…ん? コルトさん!! す…凄い! 凄いですよ、凄すぎます! そんな完璧な筋肉…自分、初めて見ました!! いったいどうやったらそこまで…さぞ厳しいトレーニングを積んできてのですね…。この傷も厳しいトレーニングの象徴!! はぁはぁはぁ…。あの済みません、その筋肉を…触っても良いですかね…」
「え…あ、はい…どうぞ…」
「ありがとうございます!!」
入ってきたのは、ハルンさんだった…。
ハルンさんは部屋に入って来るや否や、目の色を変え、僕の体を見つめてきた。
そして…その大きな手で僕の腹筋を…触った…。
「凄い…シックスパックですか…。いや…それ以上か…、これほどクッキリと筋肉が分かれているなんて…」
僕の腹筋にくっ付きそうなほど…ハルンさんの顔は近づいている…。
「あの…もういいですかね」
「あ、す、済みません。素晴らしい筋肉に目がなくてですね…」
「そうなんですか…、何か理由があるんですか?」
「えっと…獣人族は力の強い者がボスになる傾向があります。力の象徴が筋肉ですので、獣人族の男たちは皆、自身の体を鍛えてアピールする風習があるんですよ。目がないのは風習のせいかもしれないですね…」
「へ~、そう言った風習があるんですね…、初めて知りました…。でも、ハルンさんも凄いガッシリとしたいい筋肉してるじゃないですか…。僕なんかより男らしいですよ」
「そうですか…ありがとうございます…。えっと、われわれ熊族は獣人族の中でも特に力の強い者がボスになる風習が根強くのこっていてですね…。自分も昔は群れのボス候補まで上り詰めた経験があるんですよ…。でも…その時ですらコルトさんには勝てないですけどね…。確かに自分は筋肉の大きさでコルトさんに勝っているかもしれないですけど…完成度が全く違います。…はい、ほんとに全く違います。…コルトさんの筋肉は完璧なのです!」
あまりにもハルンさんは熱弁するので…少し面倒になって来てしまった…。僕はそれほど筋肉に興味はない…、どっちかというと結構コンプレックスに入る…。
「筋肉が…好きなんですね…」
「そりゃあもう! 筋肉は男の象徴ですからね!! 筋肉が凄い男は、それほど頑張れる男、といった印象が強く表れるので、獣人族の皆に尊敬されるのですよ!」
「はぁ…そうなんですね…」
「それじゃあ~、ハルン~、主はエナ達のボス!ってこと~?」
「その通りですよ、エナ! コルトさんは私たちのボスです! 異論はありません!」
「いや…ボスって…、普通にコルトで良いよ。僕はもう…普通の人間なんだから…。きっとこの筋肉も日に日に縮んでいくと思うし。それよりルリさん…早くその服を受付に…」
「あ! ご、ごめんなさい。忘れてました。すぐ行ってきます!」
「はぁ…」
「コルトさん! お願いがあります!」
「へ…ハルンさん…何してるの?」
ハルンさんは床に両手を着け、頭を低くしている…。
「見ての通り…土下座です!」
ハルンさんが、僕に土下座をしてきた…。
――獣人族にも…土下座の風習ってあるんだ…。
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