第41話 子供達の名付け親

「それじゃあ、冒険者の話はこれでお終い。えっと…最後に僕からもう1つ質問してもいいかな?」


「はい、何でも聞いてください」


「えっと、多分だけど。奴隷商にいた獣人さん達と僕が引き取った5人の子供たちって…だれとも血は繋がっていないよね…」


「はい、本当の親子じゃありませんから」


「やっぱり…そうですよね…。でも…大人獣人さん達は皆『自分じゃなくて子供を買ってあげて!』ってすごい叫んでた。助かりたいなら普通もっと自分の良いところを喋ると思うんだけど…。例えば…、今までやってきた仕事とか…」


「それは、獣人族にとって子供は『宝』という風習が深く根付いているんですよ。人族も自分の子供は深く愛すると思うんですけど…。獣人族の場合、例え本当の親子じゃなくても子共は獣人族皆の『宝』ですから…心から愛してしまうんです。その気持ちがあの状況を作り出したんだと思います…。5人の子達は…ほとんど赤子の頃から奴隷商に居たのでそれも相まって…」


――あの子たち…そんな前から奴隷商にいたんだ…。それじゃあ…今まで売れ残っていたということか…。奴隷の赤子は売れにくいのかな。でもよかった…酷い相手に買われなくて…。


「凄いですね…血の繋がっていない子に対して、そこまで愛情を注げるなんて。奴隷商に居続ければ…条件のいい相手に買われなかった場合、自分は死ぬかもしれない状況が続いていくのに…。そんな状況下で赤の他人が産んだ子を容易に『買ってあげてください』なんて言えてしまう…。中々いませんよ。そんな人間は…。獣人族は愛が深いんですね…僕、凄く感動してしまいました…」


「コルトさん…」


「えっと…それじゃあ僕も奴隷商にいた大人獣人さん達に負けないくらい、多くの愛情を注ぎたいと思います。あの子達に…」


「はい…そうしてあげてください…。きっと喜んでくれると思います」


「そうですか…。でも、喜んでもらうためには…まず、子供達の名前が必要でよね…。えっとルリさん、花柄の部屋にいる子供達を呼んできてください…。青年乙女の2人も」


「分かりました。すぐ呼んできます」


ルリさんは星形の部屋から飛び出していき、子供たちのいる花柄の部屋へと向かった。


『ドドドド!」』という宿の床を走る音が鳴り…。


『バンッ!』と強く扉が開く…。


星形の部屋にすぐさま飛び込んできたのは、やはり僕の腕に噛みついてきた狼耳少女だった…。


僕の右腕にすぐさま抱き着いてくる。


獣人族のためか子供なのに中々力が強い。


「コルトさん、皆を連れてきました…」


ルリさんは残り4人の子供を引き連れて、星形の部屋に入ってきた。


少年乙女の2人もルリさんの後ろに付いてきており、星形の部屋へ入ってくる。


「えっと、それじゃあ番号順に並んでください。並べるかな…?」


「830番!」「831番…」「…840番…」「880番!!」「900ばん~!」


子供達はちゃんと並べたようだ。


数字はとりあえず理解しているらしい…。


「今から君たちに名前を付けたいと思います…」


「名前?」「名前…」「…名前…」「名前??」「なまえって何~!」


――左から猫族の双子で両方とも女の子…。熊族の男の子…。虎族の男の子…。狼族の女の子…。…どうしよう。僕…誰かに名前を付けたことなんて無いからな…。適当な名前を付けるのは…この子たちの一生を変えてしまう可能性もあるから…。ここは慎重に行かないと…。


「えっと、まずは猫耳の2人から…」


2人の前に赴き、僕は小さな手を握る。


「目が青い方が『マル』、目が赤い方が『ミル』…2人はこれから『マル』と『ミル』…分かったかな?」


「マル!」「ミル…」


双子なのに大分テンションが違う…、でもどうやら名前を覚えてくれたらしい。


少しずれて…次は男の子2人だ。


「君たちの名前は熊耳の子が『パーズ』虎耳の子が『ハオ』…2人はこれから『パーズ』と『ハオ』…分かった?」


『…パーズ…』『ハオ様だな!!』


こちらも大分テンションが違うな…。パーズの方は少しおとなしいタイプで、ハオの方は元気いっぱい。


「そして…最後が、君だ。このいたずらっ子ちゃん…僕の指を離しないさい」


「あう?あうおつお」


――未だに僕の指を噛み締めている…。そんなに僕の肉を食べたいのだろうか…。


「何を言っているのかさっぱり分からないよ…。まぁ…いいかそんなに痛くないし。それじゃあ、君の名前を名付けます。…君の名前はエナ。…いえるかな?」


「うぐあがうぐ」


「だから指を離して…」


「エナ~!」


「よし、いい子だ!」


僕は自分の名前が言えたエナの頭を、思いっきり撫でる。


「あううう~??」


「どうした、前みたいに噛みついて来ないのか?」


「主のこれ…好き…」


「はは…そうか…。じゃあもっと撫でてやるぞ! おりゃおりゃおりゃ~」


「ふぁ~ふ~ふぁわうぅ~~♡」


エナは目を細め、大きく尻尾を振り耳をピクピクさせる…。


「ハハハ…そんなに気持ちいのか? え? あれ…みんなどうしたの? …ええ? いやそんなに近づかれても…何か言ってくれないと分からないよ…」


エナの頭を思いっきり撫でてたら4人の子供たちが僕の方に、頭を突き出してくる…。


「あ…ああ、皆もしてほしいんだね。それならいくらでもしてあげるよ」


僕は1人ずつ優しく丁寧に頭を撫でていく。


「ニシシ!」「う…うぁう…」「…はぅ…」「ナハハ!!」「ふぁわう~♡」


1人1人反応が違って面白い…。それにかわええ…。


どの子も尻尾を動かせる子は相当振りまくっている。


尻尾は動き回りはち切れてそうだ…大丈夫かな。

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