第38話 お腹いっぱいの獣人さん

「はぁ…仕方ない、僕と一緒に座ろう」


僕の膝に狼耳少女を座らせる。


綺麗になった銀色の尻尾を振り、耳を小刻みに揺らしている。


その状況を見ると、狼耳少女はどうやらご満悦のようだ…。


「それじゃあ、みんな好きなメニューを選んで良いからね。あ…文字読める? 読めなかったら食べたい物を言ってくれればメニューにあるかどうか見てあげるから」


「主~! 900番は肉食べたい!」


「私も肉!」「俺も!!」「…僕も…」「わ…私も」


心から食べたいものを素直に子供達は、選んだ。


「そっちの4人はどうする?…子供たちは皆素直になってるけど…?」


4人はメニューにのっている絵柄を凝視している…。


口から涎を垂らすんじゃないかと思わせるほど、ある一つの絵だけを4人は、見続けていた。


どうも素直になれないらしい…。


「すみません! 普通のステーキ5人前とビッグステーキ4人前お願いします!!」


「はーい! 了解しました!」


4人は僕の方を一気に見てくる…、そして泣き出した…。


――あ…そんなに食べたかったんだ…。


注文してから、ほんの15分。


「お待たせしました! ステーキ5人前とビッグステーキ4人前です!」


店員さんは子供たちにステーキを、4人にビッグステーキを、テーブル上へ置いていく。


ステーキは鉄製のプレートに乗り油を激しく撥ねさ食欲をそそる匂いを発生させていた。


「さ、皆食べようか。一同に手を合わせてください。いただきます!」


「いただきます!」×9


そこからは凄かった…500グラムは有るステーキは一瞬で口の中に頬り込まれていく…。


ちゃんと咀嚼しているのか不安に思うほど、肉にがっつき一瞬で食べ終わってしまった。


「どんどんお替りしても良いからね。好きなだけ食べてよ」


「ステーキお替り!!」「…僕も…」「私も!」「わ…私も…」「ん~!」


僕の膝に乗っている狼耳少女は未だステーキを口に残っているにも関わらず、大きく手を上げた。


「君のはまだ残っているじゃないか。ちゃんと食べきってからに…ってこらこら、がっつき過ぎると喉を詰まらせちゃうぞ」


「ハグハグハグハグハグハグ!! う!」


「ほら、言わんこっちゃない」


「トントン」


狼耳少女の背中を、僕は少し強めに叩く。


「げふっ…」


のどに詰まらせた肉を狼耳少女は、何とか吐き出せたようで何よりだ。


皆はステーキを何度もおかわりするため、そろそろ食堂さんの在庫が心配だ。


ここで止めようかと思ったが、あまりにも皆んな美味しそうにステーキを食べるから、僕の気が引けてしまう。


――出来れば皆んなにお腹いっぱいステーキを食べてほしい…。


そう思った僕は、この食堂には悪いけど、皆んなのお腹がいっぱいになるまで食べてもらう事にした。


「いったい何枚の皿が積みあがっているのだろうか…。優に10枚は超えているな…。僕は2枚で限界だったのに…」


「主~! 肉、旨い~! もっと食べる!」


「いやいや、その出っ張ったお腹じゃ、もうステーキは入らないだろ」


「だって、次いつ食べられるか分からない!食べられるときに腹入れる! これ大事!」


狼耳少女は僕が注文した3枚目の残りを口に詰め込みながら喋る。


「明日また食べれば良いさ。これからもいっぱい食べさせてあげるよ。だから今日はこのくらいにしておきな」


「主…ほんと…」


「ああ、ほんとだよ」


「わかった…。う…お腹痛い…主~、お腹痛い~」


「食べすぎです…」


僕は立ち上がり、4人の座るテーブルへ向かう。


「はぁ~こっちもよく食べたね…。いったい何枚あるか分からないよ」


「す…すみません…食べだしたら止まらなくて…」


「いや、良いんだよ。お腹いっぱいになってくれた?」


「はい…そりゃあもう。生きてきた中で一番満腹ですよ…」


「そう、良かった。君もいっぱい食べたみたいだね」


白髪の狼耳乙女さんに話しかけるが…。


「………」


――無視か…まだ嫌われちゃっているのかな…。あれ…こんなところに埃が…。


綺麗な白髪に埃が付いていた為、そっと取ろうとしたのだが…。


『パシッ!!』


「さ、触らないで! あ…ご、ごめんなさい…」


「あ…こっちこそ…ご、ごめん…」


狼耳乙女に手を叩かれ、僕は『触らないで!』と発言されてしまった…。手がすごく痛い…。


さっきは皆と一緒にくっ付いて来てたのに…、どういった心境の変化なのだろうか…。

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