第37話 食事前の一時
「今日は皆の着ていた服しか、今着るものが無いから…。とりあえず、もう一度同じ服を着てもらおうかな」
「分かりました」
熊耳獣人さんは子供たちが床へ脱ぎ捨てた服を、再度子供たちに着せていく。
「さてと…女子組は終わったかな…」
そう思っていた矢先…。
『バンッ!』
いきなり扉が開き、僕に噛みついた少女は全裸の姿で、星形の部屋に入ってきた。
髪、狼耳、尻尾、体…全てビチャビチャの状態で僕の方に走ってくる。
そして僕の右腕に抱き着いた…。
すぐさま花柄の部屋に居た虎耳獣人さんが、星形の部屋に入ってくる。
「ご、ごめんなさい。こら、まだ体拭いて無いでしょ」
虎耳獣人さんが狼耳少女の体を掴み思いっきり引っ張るも…。
腕に抱き着いている狼耳少女は全く僕の腕から、離れようとしない。
逆に僕の腕がちぎりとられそうになる。
「あ、あの! とりあえず体を拭いてあげてください。濡れたままだと風邪ひいちゃいますから」
「わ、分かりました」
虎耳獣人さんは持っていたタオルで狼耳少女の尻尾、体、腕などを拭いていく。
水気を拭いている途中に狼耳少女がいきなり体を思いっきり震わせた。
すると、まだ水に濡れた長い銀髪が周りを攻撃するように暴れ回り、部屋一帯に水をまき散らせる。
飛び散った水が僕の全身へ掛かってしまう。
せっかく拭いた体が…また濡れてしまった。
「す、すみません!」
虎耳獣人さんは勢いよく頭を下げる…。
別に悪い事をしたわけではないので、僕はそれほど怒っていないのだが…。
「いえ…子供のしたことなので…大丈夫ですよ」
狼耳少女に何とか服を着させてやり、飛び散った水滴を皆で拭いて回る。
「ふ~、こんな感じで良いか。それにしても結構汚れたな、盥の水…。こんなに汚れてたんだ…。ほぼ泥水じゃないか」
先ほどは自分の顔が水面に反射するほど綺麗だった水は、いつの間にか茶色の泥水となってしまっている。
「よし、体も綺麗にしたし。皆でご飯を食べに行こう。この宿には食堂があるんだ。虎耳獣人さん花柄の部屋に残っている皆を呼んできてください」
「は、はい。分かりました」
「主~…肉…、食べられる?」
僕の腕に抱き着く狼耳少女が聞いてくる。
「ああ、食べても良いよ。お腹空いただろ」
そう言うと狼耳少女は綺麗なアメジスト色の瞳を輝かせ、小さな口を大きく開けながら尻尾を振る。
「ん? …どうしたの、今口を開けても肉はないよ?」
「はぶ…」
そして狼耳少女は僕の右腕に噛みついた…。
「人に噛みついたらダメだよ。いいかい」
「ごめんしゃい…」
どうやら狼耳少女にとっては甘噛みだったらしいが…。僕の腕にはしっかりと歯型が出来てしまっている…。噛み癖でもあるのかな…。
「ちゃんと直さないとだめだよ」
「はい…」
「それにしても…。またこんなに抱き着いてきて…。僕は抱き枕じゃないんだけど…」
5人の子供達は、再度僕に抱き着いている…。
僕の頭に虎耳少年が肩車状態になっている。
右腕で僕へ噛みつく狼耳少女を抱え。
左腕で熊耳少年を抱えている。
両足に双子の猫耳少女がズボンの裾を持ちながら隣り合わせで歩いている。
「僕ってこんなに力あったのか…。それとも君たちが軽すぎるのか…、どっちだろうね」
僕は左腕の熊耳少年に話しかけるも、カッコイイ顔を僕の胸に埋め目を逸らされる。
――絶賛僕の髪を搔きむしっている、虎耳少年は後で注意しないと。
僕達が食堂に向ったころには、もう既に誰も食事をとっていな時間帯だった。
「あの…すみません。まだ注文すること出来ますか?」
「はい、大丈夫ですよ。この時間帯ならすぐお出しすることが出来ます」
――少年少女に抱き着かれた状態のよく分からない僕に対して、とても寧に接してくれる…。この女性はきっといい人だ。
「そうですか、それなら良かったです。それじゃあ皆、好きな空いている席に座って…って、何で4人はそんな端っこに居るんだ…もっと近くの席に座りなよ」
犬耳青年、狼耳乙女、熊耳男性、虎耳女性…の4人は角の端っこで突っ立っている。
――やっぱり…。4人とは確かな距離をなんか感じるんだよな…。人に嫌な事でもされたのかな…。
「僕は何もしないから、近くの席に座りなよ」
「いや…やはり奴隷と一緒に食事をとるのは…。世間体からして余りコルトさんに宜しくないかと…」
獣人さん達は、どうやら世間体を気にしているらしい…。
――別に僕の事が嫌いなわけではないのか…。
「大丈夫、世間体なんて僕は気にしないよ。そもそも僕は王都に住んで居るわけじゃない。だから…、ほら、4人とも座って座って」
僕は強引に4人を4人用テーブルの椅子へ座らせる。
「はい、皆も席にちゃんと座って~」
僕にくっ付いている子供たちを引きはがし、6人用テーブルの椅子へと座らせた。
しかし…
「や~!」
どうしても狼耳少女だけ僕の腕から離れてくれない…。
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