第29話 奴隷商オーナー『ナリス・トリス』
「おほん…。改めまして、私…此処の奴隷商『トリス奴隷商』オーナーの『ナリス・トリス』と申します。以後お見知りおきを…」
一度立ち上がって、ハットを外し綺麗にまとめられた髪を僕に見せながら、お辞儀してくる…。そしてお辞儀した後、すぐさまソファーへ腰を掛け、僕に聞いてきた。
「あなた様のお名前は?」
「言わなきゃいけないんですか…」
「いえいえ、自身の名を名乗るのが嫌でしたら、偽名やあだ名でも、よろしいですよ。奴隷を購入していただく際には署名が必要ですから」
「そうですか…なら…」
――こんな所で本名を出せるか…。いったいどんな義名にしたらいいんだ…。カッコいい名前が良いかな…、アイクさんの名前を借りるとか。いやいや、そうなると益々、冒険者みたいじゃないか…。ここは適当に…。
「まぁ我々は、既にあなた様の名前を知っていますがね、…コルト様」
ナリスは、ギルドカードを右手の人差し指と中指で挟みながら、嫌味っぽく僕に見せてきた…。
「な…それは、さっき落とした…僕のギルドカード…。…それにどうして僕の名前を…。ギルドカードに名前が書かれていても、僕にしか分からないはず…」
「私共に掛かれば、ギルドカードに書かれている、16桁の番号から身元を特定する事くらい、簡単な事です。まぁ私共でも、ギルドカードの持ち主名くらいしか、分かりませんが」
――いや…どう考えても犯罪だろ…それ…。まだ名前だけなら大丈夫だけど…。色々と個人情報が表示されている所まで見られてたら…、相当やばい事に成ってたぞ…。
「それでコルト様。ギルドカードをお持ちという事は、冒険者登録された…と言う事ですよね。これで言い逃れはできませんよ~」
「だから…、っつ…」
――ここでどんなに僕が冒険者じゃないって言っても信じてもらえそうにない、空気だな…。奴隷さんを…買うしかないのか…。
「奴隷さん達は…、どんな方が居るのですか…」
「は~い!その言葉を待っておりました!では、こちらのカタログをご覧ください…」
ナリスは、表紙にデカデカと『トリス奴隷商』の名前が書かれた、とても小奇麗なカタログを見せてきた。
数ページにも及び、様々な写真が載っている…。
種族名…性別…年齢…色々な情報が、このカタログに書かれていた。
最初のページに戻り、種族名がぎっしりと詰まっているページを見せられ…。
「そこに、乗っている種族名でしたら、どの種族でも見繕わせていただきますよ。人間だろうが、亜人だろうが、魔族まで…、幅広く販売しております。この幅広さこそ『トリス奴隷商』が最も高い評価を得ている所以です。勿論お金が必要ですがね。ささ…好きなだけ、ご覧ください…」
――種族も違えば…料金もバラバラだ…。男性女性、無性…てなんだよ。年齢もだいぶ違うし…、0~1500歳…差が凄いな。年齢まで自由に選択できるって…いったいどうなってるんだ。
「そうですね…コルト様は、新米冒険者の方でしょうから…。お勧めは、獣人族ですかね…」
「獣人族…ですか…」
先ほどの獣人さん達が脳裏に浮かび、糞ハゲデブエロ爺の顔が思い出される…。
その所為か、僕の顔は相当嫌な顔になってしまったのだろう…。
自分でも相当嫌な顔をしている自覚がある…。
「おや?コルト様は、獣人族がお嫌いでありましたか?それは、大変失敬いたしました…」
「い、いや…そういう訳じゃ…」
「そうですか?それなら…お勧めした、獣人族は『トリス奴隷商』の中で、最も安い商品ですから、お財布にも優しくなっておりますので、コルト様にもお勧めいたします。他のお客様も、頻繁に買い替える方がおられますから…」
「買い替える…?例えば、どんな人が…」
「そうですね…研究者、医師、冒険者、貴族の方も買われていきますね。様々な用途で使えますし。なんせ、安いですから…」
ナリスは、笑いながらそう答える…。
――何笑ってるんだ…、こいつ…。いや、落ち着け…流されたら駄目だ。とりあえず…1番安い値段は獣人さん達か…。逆に1番高い値段は…、いったいどんな奴隷さんなんだろう…。
「1番高いのは、どの種族なんですか…」
「そりゃあ勿論、ドラゴン族の娘ですかね。奇跡的に手に入った1体ですので。大変お高くなっておりますよ。金額を聞かれますか?そこのカタログに書かれているのは、価値が最も低いときの金額ですので…」
――ドラゴン族の娘…、そんな伝説みたいな生き物まで居るのか…。
「いくら…なんですか…」
「虹硬貨300枚…という金額になっております。どうですかコルト様。一度お目に掛ってみますか?大変、美しい見た目をしておりますよ。…少々気性の荒い点が目立ちますが…、その美貌と戦闘力の高さでカバーできます」
――虹硬貨300枚…つまり300憶円…、とんでもない額だな…。僕でも買えないや…。それだけの金額になると、買える人が限られてくるだろうな…。
今の僕には、ドラゴン族の奴隷さんが、心の優しい人に買ってもらえるのを、祈る事しか…、出来ない…。
「い…いえ…大丈夫です…。そんな大金持っていませんから…」
「ハハハ…冗談ですよ。コルト様に買って頂こうなんて思っておりません。ちょっとしたジョークですよ。緊張をほぐすために私が珍しくジョークを言うなんて、凄く貴重な、体験をされたんですよ、コルト様わ!」
「全く笑えませんけどね…」
――でも、どうする…、奴隷さんを買うとしても…接し方とか、よく分からないし…。
僕がずっとカタログと睨めっこしている物だから、メナスは痺れを切らしたのか、強引に話しを進めてくる。
「やはりコルト様に1番合っているのは、獣人族だと思われますが…」
「そう言われても…、僕自身…奴隷さんと、どう接したらいいか分からないんですけど…。周りに、奴隷さんを連れている人が居ませんでしたから…」
「そうですか…、コルト様は相当田舎の方から参られたんですね。王都内を見て頂ければ、奴隷の扱い方何て、すぐ理解していただけると思いますが。まぁ、お教えしても良いですよ」
ナリスは、ちょび髭を人差し指に巻きつけながら、大っぴらな態度でそう言った。
「それじゃあ…よろしくお願いします」
僕は、それを承諾し、奴隷さんとの接し方を教わることにした…。
――あまり鵜呑みにしない様、出来るだけ自分で解釈しないと…。騙された手前、同じように、間違った知識を植え付けられないようにしなければ…。
「はい、お任せください。黒、ホワイトボードを持って来て!」
「御意」
黒服は、別室に向うと、真っ白なボードを持ってきた。
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