第28話 言葉の伝わらない黒服

「何だ…?ここは、ガキの来る所じゃないだろ…。さっさと家に帰んな」


――ヤバ…目つきこっわ…。多分何人かやってるよ…。


「えっと…僕、一応成人してるんですけどね…。まぁ、成人に成ったばかりの15歳ですけど…」


「ああ、何だ…冒険者か。それならさっさと言え。戦闘奴隷を買いに来たんだな。良かったな丁度、良客が返った所だ。オーナーも相当機嫌が良いだろう。もしかしたらまけてくれるかもな」


――ちょっと待って。僕は、奴隷を買いに来たんじゃないのに…。


「いえ…僕はただ道に迷っただけで…」


「何?ここまで来て怖気ついたのか、情けない奴だな。さっさと中に入れ。冒険者になったは良いが、誰にもパーティーに入れてもらえず、1人でも依頼を達成できない系の奴だろお前。だが…ここまで来たと言う事は、ボンボンの息子か…、何かなんだろ。金持ってそうだしな」


「え、ちょっと!勝手に決めつけないでくださいよ!」


僕は、黒服の人に腕を掴まれ、強引に中へ連れ込まれそうになる。


『どわ!!』


いきなりの出来事で驚いてしまった僕は、咄嗟に黒服の人を投げ飛ばしてしまった。


――あれ…結構、軽い人だったのかな?今の僕でも投げ飛ばせるなんて…。


黒服は地面に打ち付けられ、腰を押さえながら大分痛がっている。


――今なら逃げられる!


何とか…逃走を図るが…。そう上手くも行かず…。


「このガキ…『バインド!』」


その言葉と共に、僕の両手足がロープによって固く縛られてしまった。


――な、何だこれ…。ロープ?…固く縛られてて、解けない…。


「あまり手こずらせるなよ…、また服が汚れちまったじゃねえか…。冒険者なら決める所は、ビシッと決めろ。これからそう言った世界に、飛び込んで行くんだろうが。こんな所で怖気ついてたら、この先やってけないぞ」


熊のような巨体が、縛られている僕の方へ、着実に距離を詰めてくる。


「ちょ…ちょっと!投げ飛ばしたのは謝りますから!それに、僕は冒険者じゃありませんよ!信じてください!」


「あ?そんなわけねえだろう。そこに、『ギルドカード』が落ちてるじゃねえか。しかもウルフィリアギルドのギルドカード…。冒険者じゃなかったら何で持ってるんだよ」


「良いや…、それは深い理由がありまして…」


「ほら、さっさと中に入れ。せっかくオーナーが機嫌のいい日に来れたんだ、奴隷の1体や2体、買って行ったほうが得だぞ」


「そう言う問題じゃないんですよ!僕はホントに道に迷っただけなんです!」


黒服は、僕を片腕の力だけで持ち上げると、そのまま店の中へと連れこんだ。


僕は、その後どれだけ話しても全く話が通じず、黒服の人は僕の言葉が分かっていないのではないかと、錯覚までしてきた。


そして…今に至る。


「あの…早くこのロープ外してくれませんか。そろそろ鬱血して痛くなってきたんですけど…」


「だそうだ、放してやりなさい」


「御意」


『パチン!』


黒服が指を慣らすと僕を縛っていたロープが消えた…。


――やっぱり黒服のスキルかな…、人を拘束するにはとんでもなく便利なスキルだ…。多分、人以外にも有効…。なるほど…捕まえたい放題って訳か…。


「それで、今日はどのような奴隷をお探しで?」


「いや…だから、僕は道に迷ったから道を聞こうとしただけです。何度もそう言っているじゃないですか…」


「おや?そうだったのですか。いや~、しかし…困りましたね…。この店に、入ったからには、奴隷を1体以上購入していただくのが退出の条件となっておりますので。入店されてしまった以上…奴隷を購入していただかなければ…」


オーナーらしき人は、白いちょび髭を触りながら、喋っているのだが…、どうも…目が笑っている。


――どうやら僕は、この店に嵌められたらしい…。それにしても…汚い外装のわりに、内装はとんでもなく綺麗だ…。シャンデリアが燦燦と輝き、高級そうなソファー、高級そうなカーペット。あれは動物の剥製か…、大量にあるな…。


「僕が、奴隷を買えるように見えるんですか…、どう見たって田舎者でしょ。まだ働き口も見つけていない、田舎農家の息子ですよ」


「そうですね…ですがその腰に付けている剣、目立ちにくい様、加工してある皮鎧、そして雨天でも動きやすそうな靴。これは何処から見ても…新米冒険者の方ですよね?」


「いや…だから…僕は冒険者じゃありませんって…何度言えばいいんですか」


「しかし…冒険者に興味は、おありでしょ?」


「え…いや…まぁ、ちょっとは…。でも僕は見てるだけで十分と言うか、外側で応援していたい、たちの人間なんですよ」


「いえいえ、あなたでも奴隷を買えば優秀な冒険者に慣れますよ!冒険者には奴隷が必要不可欠な存在なんですから!」


いきなり立ち上がり大声をあげるちょび髭…。


僕は、その迫力にビビってしまった。



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