第26話 糞ハゲデブ爺の再来
「嘘だろ…こんな所にあれだけギラギラな馬車で来るって…。絶対に貴族だな…多分」
こんな所に来ていい馬車では無いのだが…。
僕は、中から誰が出てくるのか物陰から見ていると…。
「あ…。あいつ…、昼間に会った糞ハゲデブ爺じゃないか…。いったいどうしてここに…」
糞ハゲデブ爺は、ドスドスと音が鳴っているかのように、重たそうな体を何とか動かし、馬車から降りる。
そいつは、降りた途端に目を曇らせ、暴言を吐き捨てる。
「あ?…何だこのゴミ共は…、おい!其処の黒いデカブツ。何でこんな、生ごみをここに置いているんだ?」
「これは、ロード教!到着は、もう少し後だと連絡が…」
「あ?儂を誰だと思ってる!この店ごと潰してやっても良いんだぞ!」
「大変申し訳ございません。ロード教の視界に映させないよう配慮したかったのですが…、間に合わず…。何分、数が多くて…」
「儂は、言い訳を聞きたいんじゃないんだよ!この底辺遣ろうが!!!」
糞ハゲデブ爺は、黒服の鳩尾へ小さな拳を打ち込んだ。
「何だあのパンチ…へっ」
『「ドゴッン!!」』
『ヘッボ』と言いたかったのだが…、僕から出た一言は…。
『エッグ…』
という、心の底から漏れた一言だった。
僕のすぐ右横を黒服がとんでもない速さでブッ飛んで行った…。
後少しズレていたら僕に、直撃していただろう。
廃墟を倒壊させ、地面にはブッ飛んだ影響で作られた跡が…現れている。
「ゴミ虫見たく飛んで行きおったわ…ん?」
先ほど糞ハゲデブ爺が黒服を殴った影響で、右手の指から1つ宝石が取れてしまっていた。
獣人の少女がその宝石を拾い、糞ハゲデブ爺に手渡そうとする。
「ゴミが…、何ゴミの分際で儂の宝石を触っとるんだ!!」
『ガシャン!』
糞ハゲデブ爺は獣人の少女を蹴り飛ばし、少女は鉄格子に衝突してしまう。
他の獣人が許しを請うように土下座をするのだが…。
あろうことか、糞ハゲデブ爺は短い脚で頭をグリグリと踏みつけた…。
踏みつけた後、蹴りつける、又棒で殴る…、と言った暴行を繰り返し、獣人さんの体から赤い鮮血が流れ出していた。
「汚い汚い…、ああ…なぜこのようなゴミがこの世界には存在しているのだろうな。この靴もこのステッキも新しく新調せねばなるまい…、きさまらの命では到底払いきれないものだが、ごみを踏んでしまった儂も悪いか。この代償はオーナーにでも払ってもらうとしよう…。さて、儂好みのエルフの娘はおるかのう…。前の奴は勝手に死にやがったからな。あのババア…。いくらで買ったの思ってる。今回は勝手に死なんように『強制奴隷紋』でも付けさせるか…」
糞ハゲデブ爺は扉を開け、中に入って行った。
「ヤバイ…隠れないと…」
僕はすぐさま、人の気配に気づき再度物陰に隠れる。
「ち!あのクソ爺!スキル使って、俺を殴りやがって!普通の人間だったら死んでるぞ!っぷ…」
黒服の男が…吹き飛ばされた方向から帰ってきた…。
地面に血唾を吐き捨て、汚れた黒スーツをパンパンと叩く。
皴が付いていないか一度上着を脱ぎ、確認している…。
「ちくしょう…汚れちまったじゃねえか、今月の給料で治せるか…オーナーに殺されるかもな…。チッ!来るならもっと早く来るって言っとけよ!」
どうやら僕には気づいていないみたいだが…。
あの攻撃を受けて特に外傷的なダメージを受けてない…、そんな事ある。
奴隷商の前まで戻ってきた黒服は倒れ込んでいる獣人を確認していた。
「あのクソ爺…商品をこんなんにしやがって…。ちょっと待ってろ、雑巾を持ってくる。傷口くらいは自力で治せ」
「は…はい、申し訳ありません…」
「そこのガキは大丈夫か、そいつも一応商品なんだ。勝手に死なれたら困るんだよ。勝手に死なれたら、俺がオーナーに殺される。それと、空腹で死にそうなやつが居たら言えよ、ギリギリ経費で賄えるくらいには回復させてやる」
黒服は横暴な態度を見せながら、仕事として獣人さん達を一応商品として扱い、ちょっとした気遣いを感じる…。
あの、糞ハゲデブ爺よりはましだ…。
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