第24話 自分にとっての1番
「わ…分かりましたよ…。やればいいんでしょ、やれば…」
僕は眼圧に負け、1番右の剣を持ち上げた。
「うん…、軽いな…。そう言う素材なのかな…」
柄を握り、少し引き抜く…。
数㎝引きついたところで再度鞘に納める。
その後剣身を全て抜きだし、一度振る。
「うん…鞘の抜き加減と刺し加減がちょうどいい塩梅ですね…。抜けやすくて刺しこみやすい。それでいてひっくり返しても抜けない程度の摩擦があります…。剣の重心も丁度良く振りやすいですし…、これなら新米冒険者さん達にも使いやすいでしょう。えっと…中金貨5枚で…」
元の場所へ戻し隣の2本目を手に取り、同じことを繰り返す。
途中までは良かったのだが…。
最後の1振りを行った時、剣先がブレてしまった。
「うん…なんか振りにくいですね…、剣身の重心がぶれてるのかな…。ちょっと使いにくそうですね…」
剣身を鞘に戻し木台に乗せる。
「多分、新米鍛冶師さんが作った者でしょう。ドリミアさんなら、商品として店に出さないと思います…。剣の鍛錬にも使えなさそうなので0円ですかね…」
3本目を手に取り、持ち上げた瞬間から何か違うものを感じた。
「凄いですね…持っている感覚が無いです。凄い軽い…。剣は、ここまで軽くできるものなんですね。驚きました…」
剣を抜き、その剣身の薄さに驚く。
「これだけ薄くできるからここまで軽いんですね…。はぁ…凄い技術だ…。降ってみても手の疲れを感じさせない。この重さなら、大量の魔物を刈る時に重宝しそうな剣ですね。白金貨1枚で…」
3本目をカウンターに置き、4本目を手に取る。
「あれ…これはポロトさんの打った剣ですね。さっきポロトさんの剣を触ったので何となく分かります。やっぱり事細かい細部まできちんと手が込んでいる…。これだけの物が打ててもまだ新米鍛冶師何て…凄い厳しい世界なんですね。これなら大金貨1枚出せます」
そして僕は最後の1本を手に取った。
「グ!…は!なにこれ。どういうことですか!なんか力が流れ込んでくるんですけど!訳が分かりません!」
鞘を抜いても剣身が光り輝いており、見れない…、何とか目を細めながら剣身に触れてみる。
波打つような鼓動を感じ、まるで剣自体が生きているような…そんな感覚が僕を襲った。
「この剣…何ですか。ちょっと規格外すぎて値段が分かりませんが…。もう虹硬貨1枚以上とかになるんじゃないですかね…」
僕がそう言ってその剣をカウンターに乗せると、目の前の強面お姉さんは、にや付いている。
「あの…何か面白い事でもありましたか?」
「いや…見込んだ通りだと思ってな。まさかそこまで当てられるとわ。中々やるじゃないか」
「え…当たってたんですか。はぁ…素人の感って結構当たるんですね」
「はは…、まぁいい。約束は約束だ、好きな武器を持って行って構わないよ。それと、こいつもな…」
ドリミアさんは僕が持ってきたポロトさんの剣を手渡してきた。
「ありがとうございます。えっと…僕はこの剣を貰います。それと…はい、中金貨3枚です。ポロトさんに渡してください」
「は?え…どういうことだ?好きな武器を持って行っても良いと言ったんだぞ。その剣は、おまけでやった物なんだが…、しかも中金貨3枚って普通に買っているじゃないか」
「いえ、僕はこの剣だけで十分ですよ。それに、お金を払わないと、ポロトさんの所にお金が行かないじゃないですか。素晴らしい物にお金を払うのは当たり前です。きっとポロトさんは最高の鍛冶師になると思いますから。…と言うか僕はポロトさんを応援したいんですよ。あれだけ泣いて喜んでたんです、相当頑張ってないと涙は出ません。僕はその頑張りを応援したい、だから払います!」
「は…ホントに珍しい客だね…あんた。確かコルトって言ったっけ…盗み聞きするつもりは無かったが、聞こえちまってな。この5本目の剣は私が打ったものだ、そしてこの剣は王の元へ行く。最高の1本を作ってくれって言われたんでな。コルトも感じただろその剣を脈を…」
「え…まぁ…感じました」
「ポロトは、ここまで来れると思うかい?」
ドリミアさんの顔は僕に挑戦を投げかけた時と同じ…。
――僕の答えは…1つしかない。
「鍛冶師のレベルが僕にはよく分かりませんが…。ポロトさんは、きっと冒険者さん達の相棒とな武器を作りますよ。ドリミアさんの武器を初めて持ちましたが…僕に扱えるかどうか分かりませんでした…。それだけレベルの差が激しいのかもしれませんが…」
――実際あの剣を使うと、どうなるのか気になるけど…。僕と反発し合ってる気がしたんだよな…。多分、僕はあの剣に嫌われたっぽい…
「ポロトさんがドリミアさんの作った武器を作れるかどうかは分かりません…。そもそも1人1人違うんですから出来上がる物も同じなわけありません。ただ言えるのは、ポロトさんは凄い鍛冶師になれる。もしかしたらドリミアさんを超える鍛冶師になるかも知れない」
「はは…私を超えるか…、コルトにはそう思えたのかい?」
「はい、僕はドリミアさんの剣より、ポロトさんが打った剣の方が相性良いみたいですから」
「ははは!それこそ1人1人違うじゃないか。それはつまり、コルトにとっての1番がポロトになるって事かい!」
「そうですね…、僕が冒険者ならポロトさんに武器を作ってもらいます」
「やっぱり変わった奴だな…あんた」
「そうですか?僕は普通ですよ、つい先日普通になったと言ったほうが正しいかもしれませんが…。それじゃあ、僕はこの辺で」
「ああ、またドリミア工房をご贔屓に」
僕はその場を立ち去り、買った剣を左腰のベルトに刺しこむ。
――剣を持つと大分安心感があるな…。ん?ちょうどいい…試し切りさせてもらおうかな…。
目線の先には、試し切り用の木偶人形が、鉄格子に囲まれた土壌広場へ、立てられていた。
「え~何々…『ここは武器を試すための場所です。なので『攻撃系スキル』を使用しないでください。万が一使用した場合、罰金の対象となります』か…。なるほど…確かにこんな所で『スキル』使ったら危ないもんね。でも大丈夫、今の僕は『スキル』を何1つ持っていないのだから!」
大分太い鉄格子を開け、中に入る。
――そうか鉄格子…これ位太くしないと、行けなんだ。確かに、武器飛んで出来たら危ないもんな…。
先へ進むと、木偶人形たちが地面に突き刺さり、様々な箇所に散りばめられていた。
僕は近くの1体へ近づき、まじまじと眺める。
――槍で刺した穴や、剣で切りつけた斬撃跡、弓が刺さった小さな穴。これだけ食らったら勇者でも流石に死んでしまうだろうな…。痛そうだ…。
「今…丁度誰もいないな…。良し…今の僕がどれ位、普通の人間に成ったか試させてもらうね、人形さん!」
僕は柄を握り、目の前の木偶人形を狙う。
静かに目を閉じ、木偶人形を意識する。
『フッ!』
鞘から一気に抜きだし、軽く振りぬいた。
――今…一瞬空を切ったような…、気の所為だろうか…。
静かに目を開けると木偶人形には元からあった傷があるだけで、僕の斬撃後は無かった。
「あ…空ぶった。やっぱり空を切ってたんだ。…まさか剣術まで弱くなったのか…よっしゃ!!めっちゃ普通になってる。これで無駄に物を壊したりしなくて済むぞ!」
僕は『ポロトの剣』を鞘に戻し、後ろを振り向いた。
――ちょうど他の人が来たな…、良かった…恥ずかしい所、見られなくて。
僕は、他の冒険者さんと交代して、その場を立ち去った…。
「なぁなぁ、お前はそれにすんのか?」
「ああ、この剣!中々良いだろ、めっちゃカッコいいじゃねえか」
「じゃあ、さっさと試し切りしてみろよ」
「おうよ!!見てろよ俺の必殺抜刀切りを!…ん」
『ズ…ズ…ズ…ズ…ズ…ズ…』
「は?…」「へ?…」
『ドサッ!』×6
「おいおい…木偶人形が…、横腹から綺麗さっぱり真っ二つに成ってるぞ…」
「どうなってんだ…って、おい!見ろ!後ろの鉄格子!」
「ハハハ…分け分かんね…。全く木偶人形と同じ高さで真っ二つって…『斬撃』のスキルでも使ったのか…。ここスキル禁止のはずだろ…」
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